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魔王、敵国を知る

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「一月振りか…… ご苦労だったな」

「いえ、長らく地下の穴倉ダンジョンに籠っていたので、外を見聞するのは中々に刺激的でした」

不死王領域から帰還したミツキを都市エベルの小城に間借りしている私室へと迎え、先ずは労いの言葉を掛ける。

「で、どうだったんだ王都アウラは?」

「そうですね…… 妖狐族や虎人族も彼の地に落ち延びていますので、まさに人と魔族が混在する違和感のある都市でした」

まぁ、国王からしてアンデットだし、星の使徒達の総本山だからな…… ある意味、惑星“ルーナ”で一番先進的な国ともいえるのだろう。

「……“終極”の魔法使いの息子とは組めそうか?」

「彼の御仁は生前最後の願い、“臣民を守る” という想いに縛られています。もし私達と協力関係になる事で民の暮らしが盤石になるならともかく、現状では無理ですね……」

良くも悪くもアンデッドという事だな、であれば向こう側から敵対する事も無いと判断できるだけで良いとすべきか。

「では私からも質問を…… ミザリア領へは派兵なさるのでしょうか?」

「あぁ、そのつもりで調整している。ミツキにも会議に参加してもらおう」
「承りました、我が君……」

静々と頭を下げる鬼姫と暫し、茶菓子と紅茶を摘まみつつ会話を交わした後、連れ立って応接室へと向かう。そこでは、ヴィレダがイルゼ嬢にビスケットで餌付けされていた……

「はむッ……う、イチロー?」

「そろそろ時間でしたね、魔王殿」

最近は街の有力者などと会う事も多いため、磨きが掛かった微笑でイルゼ嬢に出迎えられる。その後ろには都市エベルの衛兵隊を指揮するガイエンが控え、壁際には都市防衛の絡みで彼と交流を持つグレイドが佇んでいた。

「む、妾たちが最後かのぅ?」
「少し遅れましたわ…… 申し訳ありません、おじ様」

「いや、問題ない」

最後にスカーレットとリーゼロッテが入室し、予定のメンバーが揃う。

「イルゼ殿、最初にそちらの話から聞きたい」
「えぇ、ガイエン、お願いします」

「分かりました…… 先ずはリベルディア騎士国ですが、人口はシュタルティア王国よりも多い凡そ160万人ともいわれております。其処から推定される動員可能な総兵数は人口の0.7%としても約11000名以上です」

まぁ、それだけ聞けば、援軍を出したところでミザリア領に勝ち目は無い気がするが、あくまで机上の試算であって、様々な理由を含めると動員兵数はそこまででもない。

「実際のところは?」

「隣国に対する国境の備え、用意できる物資の総量、経済的理由、それらから判断するに総兵数の30%に満たないと考えております」

大体そんなところだろうが一応、うちの諜報担当の鬼姫にも聞いておく。

「概ね、ガイエン殿と同じ見解です。ミザリア領に投入できるリベルディアの兵数は3000強程かと。さらに補給線を構築する輜重兵卒が軍勢規模の20%は必要になりますから……」

「えぇ、実戦に投入される敵兵数は2500強程、中核戦力のドラグーンはその中でも120騎程でしょう」

ミツキの発言を継いでガイエンが締め括った。
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