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騎士令嬢、巨獣を制する
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地下13階層の闘技場に居座る巨体を持つ魔獣に私は慎重に近づいていきます。
ダンジョン最下層に住居を与えられてから特にやる事もなく、日々、訓練場でヴィレダ殿に殴り飛ばされ、ベルベア殿に翻弄され、ダロス度に吹き飛ばされ…… 私は強く成れたのでしょうか?
訓練場に健闘空しく無様に転がった記憶しかありません……
微妙につらい毎日を思い出していると、警戒するテリトリーに入ったのかベヒモスがのそりと此方に体躯を向けます。
「ガァァアーーーッ!!」
初動とは比べ物にならない加速で此方に突進し、上体を持ち上げてぶっとい右前足を振り下ろしてきました。
「………… 遅い」
いえ、以前の私なら対応できずに横殴りにされていたかもしれませんが…… 縦横無尽に飛び回り、私の死角から迅雷の如き一撃を繰り出してくる天狼少女と比べれば、精彩を欠く一撃に過ぎません。
碧眼に魔力光を宿す必要も無く、後ろに退く事で紙一重で躱し、振りぬかれた前足に斬撃をを食らわせます。
「ふっ、せぁああッ!」
「グルォオ!?」
私の刀はベヒモスの体毛と筋肉に阻まれて、浅く奴の前足を浅く裂いた程度にとどまりました。
この斬撃が届くほどの近接距離から、さらにベヒモスが大口を開けて私に噛みつこうとしてきます。凄い迫力ですね……
横に飛んで躱しますが、今まで対処可能な動きしかしてこない巨獣に対して、油断があったのかもしれません。
「ッ!」
ベヒモスが首を曲げて、私を噛みつきの範囲に捉えてきました。
「イルゼッ!」
「お嬢様ッ!!」
ヴィレダとマリの声を聴きながらも、危機的な状況に反応して私の瞳に魔力が宿り、“刹那”の概念装が発動します。
「ギイッアァッッ!?」
ゆっくりと涎を撒き散らした大口が迫る中、私は最初とは反対方向に迅速に体を躱し、すれ違いざまに奴の顔に一撃を入れてから距離を取りました。
怒りを宿した瞳でベヒモスが此方を睨みつけ、上体を持ち上げて、両足を地面に打ち付けます。最初に付けた右前足から血が噴き出しましたが、痛くないのでしょうか?
「ッ!」
その瞬間、地面を伝わる魔力の流れを感じて、私は後方に飛び退きます。
直後に私のいた場所は土塊の槍が無数に乱立した剣山の様になりました。
「……グレイド殿の前兆を感じさせない、仕込み魔法と比べれば素直なものですね」
……つい先日、彼の設置式の罠魔法で地面ごと吹き飛ばさて、土まみれになりながら地面に転がった事が脳裏をよぎります。
さて、ベヒモスの攻撃には対処ができますが、問題は此方の攻撃が致命傷とならない事ですね……
「ならば、手数で押し切りましょうッ!せゃああぁッ!!」
「グルゥァアアッ!!」
要所で“刹那”の概念を纏いつつ、ベヒモスを何度も切り刻んで行きます。
体中から血を撒き散らしながら激しく此方に攻撃を繰り出していたベヒモスの動きが失血から徐々に精彩を欠き、やがてその巨体が地に伏せました。
「はぁ、はぁ……」
私は慎重に近づき、逆手に持った刀を全力で地に伏す巨獣の眉間に突き立てます。
「グァ、グルァッ…………」
「見事だ、イルゼ殿」
「やったね、イルゼッ!」
魔王殿の賞賛と同時にポフっとヴィレダ殿が抱き着いてきました。
何とか私は地下13階層、闘技場の戦いに勝利したのです。
ダンジョン最下層に住居を与えられてから特にやる事もなく、日々、訓練場でヴィレダ殿に殴り飛ばされ、ベルベア殿に翻弄され、ダロス度に吹き飛ばされ…… 私は強く成れたのでしょうか?
訓練場に健闘空しく無様に転がった記憶しかありません……
微妙につらい毎日を思い出していると、警戒するテリトリーに入ったのかベヒモスがのそりと此方に体躯を向けます。
「ガァァアーーーッ!!」
初動とは比べ物にならない加速で此方に突進し、上体を持ち上げてぶっとい右前足を振り下ろしてきました。
「………… 遅い」
いえ、以前の私なら対応できずに横殴りにされていたかもしれませんが…… 縦横無尽に飛び回り、私の死角から迅雷の如き一撃を繰り出してくる天狼少女と比べれば、精彩を欠く一撃に過ぎません。
碧眼に魔力光を宿す必要も無く、後ろに退く事で紙一重で躱し、振りぬかれた前足に斬撃をを食らわせます。
「ふっ、せぁああッ!」
「グルォオ!?」
私の刀はベヒモスの体毛と筋肉に阻まれて、浅く奴の前足を浅く裂いた程度にとどまりました。
この斬撃が届くほどの近接距離から、さらにベヒモスが大口を開けて私に噛みつこうとしてきます。凄い迫力ですね……
横に飛んで躱しますが、今まで対処可能な動きしかしてこない巨獣に対して、油断があったのかもしれません。
「ッ!」
ベヒモスが首を曲げて、私を噛みつきの範囲に捉えてきました。
「イルゼッ!」
「お嬢様ッ!!」
ヴィレダとマリの声を聴きながらも、危機的な状況に反応して私の瞳に魔力が宿り、“刹那”の概念装が発動します。
「ギイッアァッッ!?」
ゆっくりと涎を撒き散らした大口が迫る中、私は最初とは反対方向に迅速に体を躱し、すれ違いざまに奴の顔に一撃を入れてから距離を取りました。
怒りを宿した瞳でベヒモスが此方を睨みつけ、上体を持ち上げて、両足を地面に打ち付けます。最初に付けた右前足から血が噴き出しましたが、痛くないのでしょうか?
「ッ!」
その瞬間、地面を伝わる魔力の流れを感じて、私は後方に飛び退きます。
直後に私のいた場所は土塊の槍が無数に乱立した剣山の様になりました。
「……グレイド殿の前兆を感じさせない、仕込み魔法と比べれば素直なものですね」
……つい先日、彼の設置式の罠魔法で地面ごと吹き飛ばさて、土まみれになりながら地面に転がった事が脳裏をよぎります。
さて、ベヒモスの攻撃には対処ができますが、問題は此方の攻撃が致命傷とならない事ですね……
「ならば、手数で押し切りましょうッ!せゃああぁッ!!」
「グルゥァアアッ!!」
要所で“刹那”の概念を纏いつつ、ベヒモスを何度も切り刻んで行きます。
体中から血を撒き散らしながら激しく此方に攻撃を繰り出していたベヒモスの動きが失血から徐々に精彩を欠き、やがてその巨体が地に伏せました。
「はぁ、はぁ……」
私は慎重に近づき、逆手に持った刀を全力で地に伏す巨獣の眉間に突き立てます。
「グァ、グルァッ…………」
「見事だ、イルゼ殿」
「やったね、イルゼッ!」
魔王殿の賞賛と同時にポフっとヴィレダ殿が抱き着いてきました。
何とか私は地下13階層、闘技場の戦いに勝利したのです。
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