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博美の家に帰った二人は、まだ日も高いというのに二人でお風呂に入った。
本当は一人で入りたかった博美だが、なんだかんだと押し切られて、準備も幸太の手で施され、そのまま達してしまったところで我に返り、幸太の肩を叩く。
「もうっ、だから、嫌だって言ったのに……っ」
大体、博美の体は幸太に触れられることに、とことん弱い。そして、こうやって強引に押し切られるのも、本気で嫌がっていないことも、幸太にはばれているのだろう。それが悔しい。
息を切らす博美の額に、幸太は軽くキスをすると、意地悪な笑顔を向ける。
「何が嫌なんだ? いっちゃったから?」
「……っ、ん!」
狭い浴槽の中で、博美の体が震えた。まだ博美の中にあった幸太の指が、敏感な内部を緩やかに刺激する。
「ちょ、ちょっと……っ」
「何?」
博美は指の動きを止めてもらおうと肩を叩くが、絶えずくる快感の波に襲われ、跨いで座っている幸太の太ももを締め付けるだけだ。
「あ、あっ……あっ」
「……博美さん、可愛い」
頭上で幸太の嬉しそうな声が聞こえて、それだけで腰が砕けるかと思った。達したばかりだというのに再び熱くなった中心が、刺激を受けるたびひくひくと震える。
「……こんなもんかな」
「え? あ、んんっ!」
一人納得したような声がしたかと思うと、後ろの指がいきなり抜かれた。
思わず声を上げると、目を細めた幸太が軽くキスをする。続きを上がってしよう、と離れる間際に言われ、いつまでも余裕の幸太に、自分が恥ずかしくなった。
浴室から出て寝室に入ると、エアコンによってちょうどいい室温になっていた。
先にベッドに入っていた幸太が、ベッドヘッドに凭れて座っている。その彼が、下半身は隠しているけれど、真っ裸なことにドギマギした。
「おいで」
いつもの心地いい声で呼ばれ、ふらふらと近寄ると、先ほどと同じように足の上に座らされる。どうやら、幸太はこの体勢が好きらしい。
「何、服着ちゃったの?」
両頬を包んで顔を近づけてくる幸太に、大人しく口付けを受け入れると、彼の体から先ほど使ったボディーソープの香りがする。
(ああ、幸太のにおいだ……)
その香りの中に、幸太の体臭の存在を見つけると、博美はとても安心するのだ。この人は全部信じて良い、任せて良い、と。
「……ん」
深く浅く口付けを交わしているうちに、治まりかけていた熱が再び起き上る。
ふわふわと脳がとろけ、余計な力が抜けて行った。夢中でそれを繰り返していると、苦笑したような声がする。
「博美さん、先進まなくていいの?」
「ん……?」
顔を離され、幸太と目が合う。眼鏡をしていないせいか、少し潤んだ彼の瞳は、博美の顔を捉えると少し細められ、頬から首筋を優しく撫でた。
「そんなに俺のキス、好き?」
「うん……」
とろりとした意識でそう答えると、気を良くしたのか、さらに笑みを深くした。
「じゃ、これは?」
「……っ、ん……」
ゆっくりと焦れるほど指先が体を這い、ゾクゾクする感覚に身を震わせる。
特に首筋と脇腹、腿の内側は博美が感じやすいところであり、幸太は確実に博美を煽っていく。
「や、やだ、幸太……」
「嫌じゃないでしょ? ここも尖ってきた」
幸太が指すのは博美の薄い胸板にある乳首のことだ。そこは特に敏感な場所であり、早く触って欲しいとさえ思ってしまう。
「博美さんのここ、可愛いね。俺が触ったり舐めたりしたらどうなっちゃうかな?」
「ば……っ」
バカ、となじろうとして、博美は息を詰めた。幸太が胸の突起に吸い付いているのを見て、慌てて視界を遮断し、声を抑えるために指を噛む。
ビクビクと勝手に体が震え、それに合わせて後ろもひくついたのが、恥ずかしくて堪らない。
「こら、声抑えちゃったら俺の楽しみがないだろ? せっかく綺麗な指してんのに、噛まないの」
なだめるようにポンポンと背中を叩かれ、博美は詰めていた息をそろそろと吐き出した。
こういう時の幸太は、信じられないくらいいやらしい苛め方をするから困る。嫌だ、とかバカ、とか責めても、全く応えた様子はなく、むしろ嬉しそうにしてさらにちょっかいをかけてくるから厄介だ。
「こ、幸太、お願いだから……」
博美の今までの経験からして、前儀に時間をかけてセックスをするというのはなかった。
だからこちらが感じすぎて疲れてしまうのも、翻弄されているようで悔しいのだ。このままではホントに生殺しで死んでしまう。
「お願い? 言ってごらん」
しかし幸太はそう言いながらも、博美の口をふさいでくる。喋れない、と逃げても、いじわるなことに彼は博美の欲しいところに触れてくるので、期待にまた体を震わせた。
「あっ、幸太、幸太……っ」
「なぁに、博美さん?」
自分ではどうしようもなくなって、悶えて幸太の名前を呼ぶと、余裕のない博美の姿を見て悦んだのか、少し上ずった幸太の声が聞こえる。
(ダメ、いっちゃう、いっちゃうっ)
ふるふると首を横に振ると、幸太は一度愛撫の手を止めた。
「博美さん、ちゃんと自分の欲しいもの言って。何でもしてあげるから、我慢しないで」
そう言った幸太の額に少し汗がにじんでいるのに気付き、博美は「ああ、そうか」と納得する。幸太も博美が望んでいるものを与えたくて我慢しているのだ。
セクシャルマイノリティで悩んだ自分は、望み通りに生きることを諦めていた。
初めて欲しいと思った理想の彼氏も、幸太が察して飛び込んできてくれた。
それは臆病で甘え方を知らない博美のために、幸太が扉を開けてくれたのだ。
(もう十分傷ついてきたんだから、そろそろ思い通りに生きても良いんじゃないか)
あの言葉は、こういうことから始まるのだ、と博美は気付く。
こういう場面で、幸太が必要以上に博美を苛めるのは、ずっと博美の要求を待っていたからなのかもしれない。
(なのに俺は嫌、ダメしか言えなくて……)
どうしてこの彼氏はここまで先回りして、至れり尽くせりなんだろう、と思ったら、嬉しくて目頭が熱くなった。
「あーあ、泣かせちゃったな」
鼻をすすった博美に気付いて、幸太は大きな手のひらで涙をぐいぐい拭ってくれる。
「ごめん、やりすぎたか?」
「ち、ちがうっ、……うーっ」
しかし一度決壊した涙腺はなかなか落ち着いてはくれず、ぼろぼろと泣く博美に、幸太は軽く優しい口づけを何度か顔に落とす。
「頼むから泣き止んでよ、ね?」
困ったような幸太の声がして、しまいには子供の様に頭を撫でられ、恥ずかしくなった。
散々人のことを苛めておいて、泣かれることには弱いらしい。
「幸太……」
「なに?」
涙が溜まった瞳で見つめると、幸太も優しい瞳で返してくる。出会った頃は苦手だと思っていた視線も、今は独占できることが嬉しい。
「好き……」
博美は自ら幸太の唇にキスをすると、珍しく彼は息を詰めた。
彼らしくない慌てた様子に、自らの中心を掴んだ幸太を見ると、やはり珍しく耳を赤く染めた幸太が悶えている。
「……幸太?」
「……やっぱ泣かせてやる」
「え? ちょ、や……っ、あああっ!」
低く呻いたかと思ったら、幸太は博美の薄い尻を持ち上げ、自らの楔を押し込んだ。
あまりの圧迫感に博美は叫び、視界が一瞬白くなる。クラクラする頭で結合部を覗くと、しっかりと幸太のものが埋め込まれていて、その景色の卑猥さにゾクゾクした。
「あっ、あっ、いきなり……傷ついたらどうすんのっ」
「風呂で十分ほぐしてやっただろ? 今のは博美さんが悪い」
「な、何で……っ?」
幸太の態度の変化が自分のせいだと言われ、何の事だか分からないうちにむさぼるようなキスをされた。同時に胸の突起も摘ままれ、捏ねられ、押しつぶされると、幸太を食んだ場所が複雑に動く。
それに触発されたのか、幸太は一定のリズムで腰を小刻みに動かし、博美の中の敏感な個所を擦った。
「ひぁ……っ、あっ、んん……っ」
脳天まで突き抜けるような刺激が走り、キスどころじゃなく天井を仰ぐと、満足そうな声がする。
「博美さんの中、すっごい動いてるよ? もしかして、いっちゃってるの?」
博美はまともに声が出せないまま、首を横に振る。幸太と付き合うようになってから、射精を伴わないドライオーガズムを得られるようになったのは、つい最近のことだ。
「博美さん、嘘はダメ。俺のこと、こんなにきつく締め付けてるのに」
幸太の意地悪なセリフは、甘く博美の体に響いて、それだけで悶えさせる。
だんだん早くなるストロークに、博美はただただ夢中になって快感をむさぼるだけだ。
しかし、今日は何かが違った。博美の下半身に、いつもは見られない兆候があったのだ。
「あ……っ、幸太っ、嫌だ、何か変……っ!」
最初は博美も射精の前兆かと思っていた。しかし、それには至らずに震えていた博美の中心は、先端から体液を溢れさせている。
博美はそれを止めようと力を込めたが、逆に幸太を締め付ける結果に終わり、その上体液の出る勢いは増すばかりだ。
「幸太、嫌だ、止めてよ……っ!」
博美の変化に気付いた幸太が、それを眺めてニヤニヤする。
「ホントにいっちゃってんだ……ああ、博美さん、漏らしてるみたいでいやらしいな」
「……っ!!」
「ついでに言うと、こういうこと言われるの、嫌じゃないでしょ?」
幸太は博美の腰を持ち上げると、下から思い切り突き上げてきた。
「あああっ!!」
あまりの衝撃に目がチカチカして、幸太の肩に凭れる。しかし、幸太も限界が近いらしく、容赦なく肉がぶつかる音を響かせた。
「……っ」
ほんの少し、意識を失っていたのかもしれない。気付いたら、幸太も達して息を乱しつつ、博美の背中をゆっくりと撫でていた。
凭れていた体を起こすと、申し訳なさそうな幸太の顔とぶつかる。
「……やりすぎた?」
「当たり前だよっ!」
博美は彼の肩を叩くと、ごめんごめん、と頭を撫でてきた。
「あはは、そんなの、可愛い博美さんが悪い」
「かわ……」
恥ずかしいセリフを言われ、固まった博美の鼻に、幸太は噛みついた。
目の前の賢い瞳は、愛情に溢れていて、自分はどうしてこの瞳を遠ざけようと思ったのか、反省した。
二人はしばらく軽く触れ合い、キスをし、繋がった体を解く。
体が離れるのは少し寂しいと思っていたら、我ながら女々しいな、と苦笑した。
その後、博美は案の定動けなくなり、幸太が甲斐甲斐しく、というか嬉しそうに後始末をしてくれて、夕飯の時間になるまで二人でベッドの上で過ごした。
「あのさ……」
博美の指に触れて遊んでいた幸太が、珍しく緊張したように呟く。
「今度、俺の家に来て。紹介すっから」
「……いいの?」
「いいのって、博美さんこそ大丈夫か? あ、いや、これは言い訳にしかならんか……」
やはり少し緊張しているらしい。博美の指をピースの形に折ると、手首を持ち上げ、意味もなく左右に振る。
「なに?」
「俺もな、それなりに独占欲があるわけだ。で、うちの家族は美人に弱い。下手したら親は博美さんを息子にしよう、なんて言い出すかもしれない。家族に憧れてるなら、親は欲しいと思うだろ? だから……」
本当に珍しく、幸太が要領を得ない話をするのは初めてだ。
「俺とパートナーになるなら、博美さんが俺の親父ってことになる。この間は勢いでプロポーズしたけど、博美さん的に……」
「らしくないよ? 幸太」
博美は手首を握っている幸太の手に、反対の手を重ねた。動きを止めた幸太は、次に長々と息を吐く。彼が何を気にしているのか、全く見当がつかないが、なかなか口にしないところを見ると、幸太自身のことだろう。
「……ホントは家になんか連れて行きたくないんだよ」
だけど両親があまりにもしつこくて、と根負けしてしまったらしい。いつ来るのかと毎日のように聞かれて、博美の家族へ挨拶に行ったら、と約束してしまったそうだ。
「このまましらばっくれるのも手だろうけど、そうしたら、この家まで乗り込んで来そうだからな」
落ち着いた幸太からは想像もできない家族だ。博美は軽く同情すると、もしかして、出会った時に中途半端な期間塾にいたのは、それのせいなのかも、と思う。そしてそれは、多分外れてはいないだろう。そして本音は、さらっと言った独占欲云々のようだ。
「うん、俺、どこまでも付いて行くよ」
時々分かりにくく照れる幸太に博美も嬉しくなってそう言うと、幸太は小さな声で「サンキュ」と応えた。
本当は一人で入りたかった博美だが、なんだかんだと押し切られて、準備も幸太の手で施され、そのまま達してしまったところで我に返り、幸太の肩を叩く。
「もうっ、だから、嫌だって言ったのに……っ」
大体、博美の体は幸太に触れられることに、とことん弱い。そして、こうやって強引に押し切られるのも、本気で嫌がっていないことも、幸太にはばれているのだろう。それが悔しい。
息を切らす博美の額に、幸太は軽くキスをすると、意地悪な笑顔を向ける。
「何が嫌なんだ? いっちゃったから?」
「……っ、ん!」
狭い浴槽の中で、博美の体が震えた。まだ博美の中にあった幸太の指が、敏感な内部を緩やかに刺激する。
「ちょ、ちょっと……っ」
「何?」
博美は指の動きを止めてもらおうと肩を叩くが、絶えずくる快感の波に襲われ、跨いで座っている幸太の太ももを締め付けるだけだ。
「あ、あっ……あっ」
「……博美さん、可愛い」
頭上で幸太の嬉しそうな声が聞こえて、それだけで腰が砕けるかと思った。達したばかりだというのに再び熱くなった中心が、刺激を受けるたびひくひくと震える。
「……こんなもんかな」
「え? あ、んんっ!」
一人納得したような声がしたかと思うと、後ろの指がいきなり抜かれた。
思わず声を上げると、目を細めた幸太が軽くキスをする。続きを上がってしよう、と離れる間際に言われ、いつまでも余裕の幸太に、自分が恥ずかしくなった。
浴室から出て寝室に入ると、エアコンによってちょうどいい室温になっていた。
先にベッドに入っていた幸太が、ベッドヘッドに凭れて座っている。その彼が、下半身は隠しているけれど、真っ裸なことにドギマギした。
「おいで」
いつもの心地いい声で呼ばれ、ふらふらと近寄ると、先ほどと同じように足の上に座らされる。どうやら、幸太はこの体勢が好きらしい。
「何、服着ちゃったの?」
両頬を包んで顔を近づけてくる幸太に、大人しく口付けを受け入れると、彼の体から先ほど使ったボディーソープの香りがする。
(ああ、幸太のにおいだ……)
その香りの中に、幸太の体臭の存在を見つけると、博美はとても安心するのだ。この人は全部信じて良い、任せて良い、と。
「……ん」
深く浅く口付けを交わしているうちに、治まりかけていた熱が再び起き上る。
ふわふわと脳がとろけ、余計な力が抜けて行った。夢中でそれを繰り返していると、苦笑したような声がする。
「博美さん、先進まなくていいの?」
「ん……?」
顔を離され、幸太と目が合う。眼鏡をしていないせいか、少し潤んだ彼の瞳は、博美の顔を捉えると少し細められ、頬から首筋を優しく撫でた。
「そんなに俺のキス、好き?」
「うん……」
とろりとした意識でそう答えると、気を良くしたのか、さらに笑みを深くした。
「じゃ、これは?」
「……っ、ん……」
ゆっくりと焦れるほど指先が体を這い、ゾクゾクする感覚に身を震わせる。
特に首筋と脇腹、腿の内側は博美が感じやすいところであり、幸太は確実に博美を煽っていく。
「や、やだ、幸太……」
「嫌じゃないでしょ? ここも尖ってきた」
幸太が指すのは博美の薄い胸板にある乳首のことだ。そこは特に敏感な場所であり、早く触って欲しいとさえ思ってしまう。
「博美さんのここ、可愛いね。俺が触ったり舐めたりしたらどうなっちゃうかな?」
「ば……っ」
バカ、となじろうとして、博美は息を詰めた。幸太が胸の突起に吸い付いているのを見て、慌てて視界を遮断し、声を抑えるために指を噛む。
ビクビクと勝手に体が震え、それに合わせて後ろもひくついたのが、恥ずかしくて堪らない。
「こら、声抑えちゃったら俺の楽しみがないだろ? せっかく綺麗な指してんのに、噛まないの」
なだめるようにポンポンと背中を叩かれ、博美は詰めていた息をそろそろと吐き出した。
こういう時の幸太は、信じられないくらいいやらしい苛め方をするから困る。嫌だ、とかバカ、とか責めても、全く応えた様子はなく、むしろ嬉しそうにしてさらにちょっかいをかけてくるから厄介だ。
「こ、幸太、お願いだから……」
博美の今までの経験からして、前儀に時間をかけてセックスをするというのはなかった。
だからこちらが感じすぎて疲れてしまうのも、翻弄されているようで悔しいのだ。このままではホントに生殺しで死んでしまう。
「お願い? 言ってごらん」
しかし幸太はそう言いながらも、博美の口をふさいでくる。喋れない、と逃げても、いじわるなことに彼は博美の欲しいところに触れてくるので、期待にまた体を震わせた。
「あっ、幸太、幸太……っ」
「なぁに、博美さん?」
自分ではどうしようもなくなって、悶えて幸太の名前を呼ぶと、余裕のない博美の姿を見て悦んだのか、少し上ずった幸太の声が聞こえる。
(ダメ、いっちゃう、いっちゃうっ)
ふるふると首を横に振ると、幸太は一度愛撫の手を止めた。
「博美さん、ちゃんと自分の欲しいもの言って。何でもしてあげるから、我慢しないで」
そう言った幸太の額に少し汗がにじんでいるのに気付き、博美は「ああ、そうか」と納得する。幸太も博美が望んでいるものを与えたくて我慢しているのだ。
セクシャルマイノリティで悩んだ自分は、望み通りに生きることを諦めていた。
初めて欲しいと思った理想の彼氏も、幸太が察して飛び込んできてくれた。
それは臆病で甘え方を知らない博美のために、幸太が扉を開けてくれたのだ。
(もう十分傷ついてきたんだから、そろそろ思い通りに生きても良いんじゃないか)
あの言葉は、こういうことから始まるのだ、と博美は気付く。
こういう場面で、幸太が必要以上に博美を苛めるのは、ずっと博美の要求を待っていたからなのかもしれない。
(なのに俺は嫌、ダメしか言えなくて……)
どうしてこの彼氏はここまで先回りして、至れり尽くせりなんだろう、と思ったら、嬉しくて目頭が熱くなった。
「あーあ、泣かせちゃったな」
鼻をすすった博美に気付いて、幸太は大きな手のひらで涙をぐいぐい拭ってくれる。
「ごめん、やりすぎたか?」
「ち、ちがうっ、……うーっ」
しかし一度決壊した涙腺はなかなか落ち着いてはくれず、ぼろぼろと泣く博美に、幸太は軽く優しい口づけを何度か顔に落とす。
「頼むから泣き止んでよ、ね?」
困ったような幸太の声がして、しまいには子供の様に頭を撫でられ、恥ずかしくなった。
散々人のことを苛めておいて、泣かれることには弱いらしい。
「幸太……」
「なに?」
涙が溜まった瞳で見つめると、幸太も優しい瞳で返してくる。出会った頃は苦手だと思っていた視線も、今は独占できることが嬉しい。
「好き……」
博美は自ら幸太の唇にキスをすると、珍しく彼は息を詰めた。
彼らしくない慌てた様子に、自らの中心を掴んだ幸太を見ると、やはり珍しく耳を赤く染めた幸太が悶えている。
「……幸太?」
「……やっぱ泣かせてやる」
「え? ちょ、や……っ、あああっ!」
低く呻いたかと思ったら、幸太は博美の薄い尻を持ち上げ、自らの楔を押し込んだ。
あまりの圧迫感に博美は叫び、視界が一瞬白くなる。クラクラする頭で結合部を覗くと、しっかりと幸太のものが埋め込まれていて、その景色の卑猥さにゾクゾクした。
「あっ、あっ、いきなり……傷ついたらどうすんのっ」
「風呂で十分ほぐしてやっただろ? 今のは博美さんが悪い」
「な、何で……っ?」
幸太の態度の変化が自分のせいだと言われ、何の事だか分からないうちにむさぼるようなキスをされた。同時に胸の突起も摘ままれ、捏ねられ、押しつぶされると、幸太を食んだ場所が複雑に動く。
それに触発されたのか、幸太は一定のリズムで腰を小刻みに動かし、博美の中の敏感な個所を擦った。
「ひぁ……っ、あっ、んん……っ」
脳天まで突き抜けるような刺激が走り、キスどころじゃなく天井を仰ぐと、満足そうな声がする。
「博美さんの中、すっごい動いてるよ? もしかして、いっちゃってるの?」
博美はまともに声が出せないまま、首を横に振る。幸太と付き合うようになってから、射精を伴わないドライオーガズムを得られるようになったのは、つい最近のことだ。
「博美さん、嘘はダメ。俺のこと、こんなにきつく締め付けてるのに」
幸太の意地悪なセリフは、甘く博美の体に響いて、それだけで悶えさせる。
だんだん早くなるストロークに、博美はただただ夢中になって快感をむさぼるだけだ。
しかし、今日は何かが違った。博美の下半身に、いつもは見られない兆候があったのだ。
「あ……っ、幸太っ、嫌だ、何か変……っ!」
最初は博美も射精の前兆かと思っていた。しかし、それには至らずに震えていた博美の中心は、先端から体液を溢れさせている。
博美はそれを止めようと力を込めたが、逆に幸太を締め付ける結果に終わり、その上体液の出る勢いは増すばかりだ。
「幸太、嫌だ、止めてよ……っ!」
博美の変化に気付いた幸太が、それを眺めてニヤニヤする。
「ホントにいっちゃってんだ……ああ、博美さん、漏らしてるみたいでいやらしいな」
「……っ!!」
「ついでに言うと、こういうこと言われるの、嫌じゃないでしょ?」
幸太は博美の腰を持ち上げると、下から思い切り突き上げてきた。
「あああっ!!」
あまりの衝撃に目がチカチカして、幸太の肩に凭れる。しかし、幸太も限界が近いらしく、容赦なく肉がぶつかる音を響かせた。
「……っ」
ほんの少し、意識を失っていたのかもしれない。気付いたら、幸太も達して息を乱しつつ、博美の背中をゆっくりと撫でていた。
凭れていた体を起こすと、申し訳なさそうな幸太の顔とぶつかる。
「……やりすぎた?」
「当たり前だよっ!」
博美は彼の肩を叩くと、ごめんごめん、と頭を撫でてきた。
「あはは、そんなの、可愛い博美さんが悪い」
「かわ……」
恥ずかしいセリフを言われ、固まった博美の鼻に、幸太は噛みついた。
目の前の賢い瞳は、愛情に溢れていて、自分はどうしてこの瞳を遠ざけようと思ったのか、反省した。
二人はしばらく軽く触れ合い、キスをし、繋がった体を解く。
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その後、博美は案の定動けなくなり、幸太が甲斐甲斐しく、というか嬉しそうに後始末をしてくれて、夕飯の時間になるまで二人でベッドの上で過ごした。
「あのさ……」
博美の指に触れて遊んでいた幸太が、珍しく緊張したように呟く。
「今度、俺の家に来て。紹介すっから」
「……いいの?」
「いいのって、博美さんこそ大丈夫か? あ、いや、これは言い訳にしかならんか……」
やはり少し緊張しているらしい。博美の指をピースの形に折ると、手首を持ち上げ、意味もなく左右に振る。
「なに?」
「俺もな、それなりに独占欲があるわけだ。で、うちの家族は美人に弱い。下手したら親は博美さんを息子にしよう、なんて言い出すかもしれない。家族に憧れてるなら、親は欲しいと思うだろ? だから……」
本当に珍しく、幸太が要領を得ない話をするのは初めてだ。
「俺とパートナーになるなら、博美さんが俺の親父ってことになる。この間は勢いでプロポーズしたけど、博美さん的に……」
「らしくないよ? 幸太」
博美は手首を握っている幸太の手に、反対の手を重ねた。動きを止めた幸太は、次に長々と息を吐く。彼が何を気にしているのか、全く見当がつかないが、なかなか口にしないところを見ると、幸太自身のことだろう。
「……ホントは家になんか連れて行きたくないんだよ」
だけど両親があまりにもしつこくて、と根負けしてしまったらしい。いつ来るのかと毎日のように聞かれて、博美の家族へ挨拶に行ったら、と約束してしまったそうだ。
「このまましらばっくれるのも手だろうけど、そうしたら、この家まで乗り込んで来そうだからな」
落ち着いた幸太からは想像もできない家族だ。博美は軽く同情すると、もしかして、出会った時に中途半端な期間塾にいたのは、それのせいなのかも、と思う。そしてそれは、多分外れてはいないだろう。そして本音は、さらっと言った独占欲云々のようだ。
「うん、俺、どこまでも付いて行くよ」
時々分かりにくく照れる幸太に博美も嬉しくなってそう言うと、幸太は小さな声で「サンキュ」と応えた。
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BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
垂れ耳兎は蒼狼の腕の中で花開く
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
兎族の中でも珍しい“垂れ耳”として生まれたリトスは、弟が狼族の花嫁候補に選ばれたことで家を出ようと決意する。劣勢種の自分が近くにいては家族に迷惑をかけてしまいかねないからだ。そう思って新天地の酒場で働き始めたものの、そこでも垂れ耳だと知られると兎族を庇護すべき狼族にまで下卑た悪戯をされてしまう。かつて兎族にされていた行為を思い出したリトスは、いっそのことと性を売る華街に行くことを決意した。ところが華街へ行くために訪れた街で自分を助けてくれた狼族と再会する。さらにとある屋敷で働くことになったリトスは……。仲間から蔑まれて生きてきた兎族と、そんな彼に一目惚れした狼族との物語。※他サイトにも掲載
[狼族の名家子息×兎族ののけ者 / BL / R18]
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