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スピンオフ・坂田博美編
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頭が割れるように痛い。
その日、坂田博美は体調不良をごまかすので精一杯だった。
顎まで伸ばした緩い天然パーマの髪は、その頭痛にゆがむ顔を隠すのにとても役立ってくれている。
身長さえ気にしなければ、後姿は女に見えると、背筋を伸ばした博美は何番目の彼氏に言われたんだっけ、と考える。
大学に入ると同時に始めた塾のアルバイトは、今日まで欠勤などしたことがない。
生徒からも親しみやすいらしく、いつものように授業後も質問と称した雑談をしたがる子が多かった。
(あれだけやめてって言ったのにな……)
生徒の質問に答えながらも、博美は昨晩のことを思い出した。
少し風邪気味だったのにもかかわらず、同居している彼氏に風呂上りの脱衣所で襲われ、そのままリビングで気を失ってしまったらしい。
風邪はそんなに悪化しなかったものの、何度も求められて疲弊した体の疲労は、博美の頭痛にきていた。
一か月ほど前にナンパされて付き合い始めた彼氏、ケンジは、ホストをしているらしく、人の扱いも慣れていた。
初めは優しかったものの、最近は頭にくると物に当たるなどして暴力をふるうようになった。
それは決まって博美がケンジの思い通りにならなかった時で、博美も最近は逆らわないようにしている。
(それでも、俺には手を挙げないし、ほかは優しいからまだいいんだけど)
その考えこそが被DV者そのものであることとは気付かず、博美の考えが仕事以外に飛んでいることに、内心ためいきをつく。
(いけない、集中しなきゃ)
しかし少し視線を動かしただけで、脳みそが揺れるような感覚に襲われ、机の上に置いた手をぎゅっと握る。
博美はこのバイトが好きだった。必要とされているなら、期待は裏切りたくない。
意識を戻したところで、博美はある強烈な視線に気付く。
中学生らしからぬ落ち着きで、背もすでに大人より顔一つ分高い男子生徒。
鼻梁がスッと通っており、間違いなく美形の部類に入る容姿だ。
賢そうな眼鏡の奥の瞳は、やはり博美をじっと見ていた。
彼の名は藤本幸太。受験対策と言いながら遅く三年生の秋に入校したのだが、博美の担当する国語のみならず、他の教科でも好成績を修めていた。
普段悪乗りすることもなく、逆にそんな同級生をそっと注意することもある、中学生のくせにすごい人間だと博美は思っていた。
だが、博美はそんな幸太が少し苦手に思っている。
幸太の黒い瞳に見つめられると、自分の心の中まで見られているようで落ち着かなかった。
自分がセクシャルマイノリティであること、塾では先生をしているが、生徒に誇れるような生活をしていないこと、毎晩のように男に抱かれていること。
自分の卑しさが滲み出てしまうようで、博美はその強烈な視線から逃げるように顔を背ける。
「先生、質問~」
「あ、はいはい。どこかな?」
幸太に見つめられて動揺したのを隠すように笑顔を見せると、彼は表情も変えずに視線を逸らし、教室を出て行った。
その日、坂田博美は体調不良をごまかすので精一杯だった。
顎まで伸ばした緩い天然パーマの髪は、その頭痛にゆがむ顔を隠すのにとても役立ってくれている。
身長さえ気にしなければ、後姿は女に見えると、背筋を伸ばした博美は何番目の彼氏に言われたんだっけ、と考える。
大学に入ると同時に始めた塾のアルバイトは、今日まで欠勤などしたことがない。
生徒からも親しみやすいらしく、いつものように授業後も質問と称した雑談をしたがる子が多かった。
(あれだけやめてって言ったのにな……)
生徒の質問に答えながらも、博美は昨晩のことを思い出した。
少し風邪気味だったのにもかかわらず、同居している彼氏に風呂上りの脱衣所で襲われ、そのままリビングで気を失ってしまったらしい。
風邪はそんなに悪化しなかったものの、何度も求められて疲弊した体の疲労は、博美の頭痛にきていた。
一か月ほど前にナンパされて付き合い始めた彼氏、ケンジは、ホストをしているらしく、人の扱いも慣れていた。
初めは優しかったものの、最近は頭にくると物に当たるなどして暴力をふるうようになった。
それは決まって博美がケンジの思い通りにならなかった時で、博美も最近は逆らわないようにしている。
(それでも、俺には手を挙げないし、ほかは優しいからまだいいんだけど)
その考えこそが被DV者そのものであることとは気付かず、博美の考えが仕事以外に飛んでいることに、内心ためいきをつく。
(いけない、集中しなきゃ)
しかし少し視線を動かしただけで、脳みそが揺れるような感覚に襲われ、机の上に置いた手をぎゅっと握る。
博美はこのバイトが好きだった。必要とされているなら、期待は裏切りたくない。
意識を戻したところで、博美はある強烈な視線に気付く。
中学生らしからぬ落ち着きで、背もすでに大人より顔一つ分高い男子生徒。
鼻梁がスッと通っており、間違いなく美形の部類に入る容姿だ。
賢そうな眼鏡の奥の瞳は、やはり博美をじっと見ていた。
彼の名は藤本幸太。受験対策と言いながら遅く三年生の秋に入校したのだが、博美の担当する国語のみならず、他の教科でも好成績を修めていた。
普段悪乗りすることもなく、逆にそんな同級生をそっと注意することもある、中学生のくせにすごい人間だと博美は思っていた。
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自分がセクシャルマイノリティであること、塾では先生をしているが、生徒に誇れるような生活をしていないこと、毎晩のように男に抱かれていること。
自分の卑しさが滲み出てしまうようで、博美はその強烈な視線から逃げるように顔を背ける。
「先生、質問~」
「あ、はいはい。どこかな?」
幸太に見つめられて動揺したのを隠すように笑顔を見せると、彼は表情も変えずに視線を逸らし、教室を出て行った。
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