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「応援幕が決まらない?」

今頃になって何を言い出すのか、と悠は思った。

今回の悠たちのチームカラーは青で、幕にはチーム名を記載することがルールになっている。

応援幕が決まらないということは、チーム名もまだ決まっていないのだ。

そこで、去年人気だった悠の「緑龍」の話を聞きつけた後輩が、どうにかならないかと泣きついてきた。

ゼッケンとハチマキは青地に白の数字をつけているところらしい。それを変えずに、いい案はないかという無茶振りだ。

「ゼッケン、見せて」

PRの代表らしい二年生の男子は、慌ててその辺で作業をしていた女子から一つ、ゼッケンを借りる。

丸文字の数字は、テーマが固まっていないため一つの絵としても、不安定なものだった。

「絵がうまい子はいるの?」

「それが、去年先輩と組んでた奴がいるんですけど、舞台チームの大道具に引っこ抜かれてて……」

画力がある生徒は、やはりどこでも引っ張りだこらしい。

「そうも言ってられないだろ? 下書きだけでもしてもらわないと、間に合わない」

そう言って、思い浮かんだイメージとチーム名を告げると、後輩は俄然やる気になったみたいだ。慌ててその生徒を呼びに行く。

しばらくしてPR代表が戻ってくると、連れて来られた後輩は、嬉しそうに声を上げた。

「春名先輩もいたんですね。俺もPRにすればよかった」

「いや、今年は俺も展示なんだ。ごめん、忙しいのに」

「いえいえ、俺の仕事はほとんど終わってたので。で、どんな感じにしますか?」

大柄だが細いこの後輩は伊藤といい、迫力ある絵を描いてくれる。応援という力強さを要求される場面では心強い。

悠は一言二言、伊藤に告げると、彼は一つうなずき、ルーズリーフにイメージを描いていく。

応援幕の大きさは決まっていて、教室のベランダ一つ分だ。
そこに海と少年とサーフボードを描き、赤文字で荒々しくチーム名を載せようと考えている。

伊藤が描いた少年は波に挑む楽しさと、挑発をのせた笑みを浮かべていた。

その下では、白い飛沫を上げて、波がうねっている。

まだラフの段階だが、波と少年の気性の激しさがひしひしと伝わってきた。

「Big Wave! ライバルを飲み込め! ですか。このサーファーも気持ちよさそうですね」

伊藤のラフを眺めていたPR代表は、さすが去年の優勝コンビ、とその案をすぐに通した。

応援幕は青色の布が支給されているため、海の青は改めて塗る手間を省けて考えたものだ。

ゼッケンの丸文字数字は、水泡だと捉えてくれれば、と思った。

そしてビッグウェーブチームとなった悠たちは、展示チームの応援も借りて、幕の作成に取り掛かった。
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