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緑溢れる中庭、一年の中で最も暑い太陽の日差しを浴びながら、蝉は一生の最後を飾るにふさわしい鳴き声を上げる。
この日、年間最高気温をたたき出した夏休み中も、誰かが世話をしているのだろうか、青々とした木々の葉っぱはきらりと光る雫を付けていた。
この時期の植物は、生命力に溢れていて見ている人に元気を与える。と言っても、受験生の春名悠には関係なかった。
長期休暇も終わりに近付き、これからさらに勉強の追い込みは本格化する。自分の事以外気にする余裕などない。
昇降口からすぐ行くことができる中庭には、休憩スペースと自動販売機がある。うるさい蝉の鳴き声を聞きながら休憩なんてできるか、と悠は一人愚痴った。
悠が通う学校は、自宅から一番近い公立校だ。私立校の偏差値の方が高いといわれる昨今だが、この地域では立場は逆転している。進学率も他県より高く、有名大学合格率もまたしかりだ。
暑い中フル稼働の自動販売機は、夏休み中ももれなく大活躍しているらしい。お目当ての飲み物どころか、すべての飲み物が全滅だった。
じっとしていてもじわじわと汗が滲み、不快感とイライラが増す。制服の胸元を扇ぐと、携帯電話を取り出した。濃い色のデザインなので、白く細い腕が目立つ、と幼馴染は言っていた。
「あ、キヨ。自販機全部売り切れ」
それを聞いた幼馴染はすぐに抗議の声を上げた。
分かっていたとはいえ、この暑くて蝉がうるさいところで聞かされると、うんざりする。
それをなだめるように、静かな風が吹いた。
悠の黒くて柔らかな髪が揺れる。
「分かった分かった。帰りにコンビニ寄れば良いだろ? 次の講座で終わりだし、とりあえず藤本にも伝えといて」
まだ不満気だった清盛を半分無視して通話を切った。それと同時にあんなにうるさかった蝉が一気に鳴き止む。
直後にチャイムが鳴って、受講中は静かにしててくれよ、と悠は慌てて教室へ戻った。
悠が戻ると、まだ先生は来ていないらしく教室はざわついていた。夏期講習中は受講するコースによって教室を分けるので、クラスも席もバラバラだ。
「悠、お疲れ」
片手をひらひらと振って、迎えたのは例の幼馴染だ。
名前は木全清盛、人懐こそうな笑顔はこの学校で知らない人はいない。
人目を惹く容姿は勿論のこと、高校3年生になっても、教師に注意されながら追いかけられるようないたずらもよくしている。
最近は受験生となってすっかり大人しくなってしまったが、それでいて勉強もサッカーもできるとくれば、女子が騒がないわけがない。
「自販機全滅ってないよなー」
清盛の後ろで身を乗り出したのは藤本幸太。
見た目の第一印象は社会人。落ち着いた雰囲気と知的に見える眼鏡がそうさせるのだろうけど、実は人をからかって遊ぶ、少しイヤラシイ性格だ。
清盛とは一年の時から同じクラスらしく、その繋がりで悠ともつるむようになった。
「ジュースの補充、次はいつ来てくれるんだろ」
机の上にだらける清盛を見て、悠は苦笑する。
売り切れのまま何日か経つこともあるので、夏は水分補給も大変だ。水筒ももちろん持参しているが、直ぐに無くなってしまう。
そこへ教師が来て、三人は気持ちを切り替え、講座に挑んだ。
この日、年間最高気温をたたき出した夏休み中も、誰かが世話をしているのだろうか、青々とした木々の葉っぱはきらりと光る雫を付けていた。
この時期の植物は、生命力に溢れていて見ている人に元気を与える。と言っても、受験生の春名悠には関係なかった。
長期休暇も終わりに近付き、これからさらに勉強の追い込みは本格化する。自分の事以外気にする余裕などない。
昇降口からすぐ行くことができる中庭には、休憩スペースと自動販売機がある。うるさい蝉の鳴き声を聞きながら休憩なんてできるか、と悠は一人愚痴った。
悠が通う学校は、自宅から一番近い公立校だ。私立校の偏差値の方が高いといわれる昨今だが、この地域では立場は逆転している。進学率も他県より高く、有名大学合格率もまたしかりだ。
暑い中フル稼働の自動販売機は、夏休み中ももれなく大活躍しているらしい。お目当ての飲み物どころか、すべての飲み物が全滅だった。
じっとしていてもじわじわと汗が滲み、不快感とイライラが増す。制服の胸元を扇ぐと、携帯電話を取り出した。濃い色のデザインなので、白く細い腕が目立つ、と幼馴染は言っていた。
「あ、キヨ。自販機全部売り切れ」
それを聞いた幼馴染はすぐに抗議の声を上げた。
分かっていたとはいえ、この暑くて蝉がうるさいところで聞かされると、うんざりする。
それをなだめるように、静かな風が吹いた。
悠の黒くて柔らかな髪が揺れる。
「分かった分かった。帰りにコンビニ寄れば良いだろ? 次の講座で終わりだし、とりあえず藤本にも伝えといて」
まだ不満気だった清盛を半分無視して通話を切った。それと同時にあんなにうるさかった蝉が一気に鳴き止む。
直後にチャイムが鳴って、受講中は静かにしててくれよ、と悠は慌てて教室へ戻った。
悠が戻ると、まだ先生は来ていないらしく教室はざわついていた。夏期講習中は受講するコースによって教室を分けるので、クラスも席もバラバラだ。
「悠、お疲れ」
片手をひらひらと振って、迎えたのは例の幼馴染だ。
名前は木全清盛、人懐こそうな笑顔はこの学校で知らない人はいない。
人目を惹く容姿は勿論のこと、高校3年生になっても、教師に注意されながら追いかけられるようないたずらもよくしている。
最近は受験生となってすっかり大人しくなってしまったが、それでいて勉強もサッカーもできるとくれば、女子が騒がないわけがない。
「自販機全滅ってないよなー」
清盛の後ろで身を乗り出したのは藤本幸太。
見た目の第一印象は社会人。落ち着いた雰囲気と知的に見える眼鏡がそうさせるのだろうけど、実は人をからかって遊ぶ、少しイヤラシイ性格だ。
清盛とは一年の時から同じクラスらしく、その繋がりで悠ともつるむようになった。
「ジュースの補充、次はいつ来てくれるんだろ」
机の上にだらける清盛を見て、悠は苦笑する。
売り切れのまま何日か経つこともあるので、夏は水分補給も大変だ。水筒ももちろん持参しているが、直ぐに無くなってしまう。
そこへ教師が来て、三人は気持ちを切り替え、講座に挑んだ。
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