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次の日、出勤すると湊と店長がロッカー室で、話をしている所に出くわした。

昨日の今日で何だか気まずい、と思ってボソボソと挨拶をすると、湊の顔がパッと笑顔になる。

「あ、小木曽くんおはよう」

(……何でそんなに嬉しそうなんだよ気持ち悪い)

どうやら湊はとても機嫌が良いようだ。しかし対して店長の声は暗い。

「そうは言ってもねぇ多賀くん」

「このままでは、お店に迷惑を掛けるのも時間の問題かと。俺を厨房スタッフにしてください」

なるほど、昨日のような事がまたあるかもしれないから、湊は厨房に行くことを希望しているようだ。

「君のおかげでお客さんが増えたのも事実だしねぇ。ホールスタッフもギリギリの人数だし……」

店長が困っている。それもそうだろう、一人雇っただけで客足が伸びるとか、そんな嬉しい現象を店長は放っておくはずがない。

「……じゃあ、俺がホールに行きますよ。トレードなら人数変わらないし、良いですよね?」

 店のためになるなら、と肇は店長に提案する。

「いや、しかし……。多賀くん、昨日の事は特殊なケースだと思うし、考え直してくれないかな?」

店長は折れなかった。湊が考える事はもっともだと思うけれど、彼がホールにいる事の効果を考えたら、店長の考えも頷ける。

肇が着替えていると、スマホが震えた。確認すると、亮介からメッセージがきている。開いてみると、写真の加工が済んだので、今日これから会いたいというものだった。肇はバイトなのでこれからは難しいと送ると、相変わらず速攻で返事が来る。

『ならバイト先に行って、終わるまで待ってる。怜也も一緒に行くから。上がりは何時だ?』

肇はため息をついた。データを早く貰えるのは嬉しいけれど、そこまでしてもらうのは申し訳ない。

『いや、そこまでしてもらわなくても良いですよ』

『じゃあ、俺が肇に会いたいから行く。場所と時間を教えてくれ』

何で今日にこだわるんだ、と肇は不思議に思いながらも、まあいいか、と返信をした。

それにしても、亮介さんは仕事が早すぎる、と肇は苦笑した。早くデータを見るのが楽しみだな、とワクワクしていると、湊から話しかけられる。

「何か嬉しそうだね」

ニコニコと湊も嬉しそうな顔をしている。肇はひとつ咳払いをすると、別に、と言った。

いつものように準備をして、仕事をこなす。今日は昨日に比べて客足は落ち着いていたため、やはり昨日はレアなケースだったようだ。

「肇くん」

店長が話しかけてくる。昨日のことか、と身構えていると、彼は笑った。

「確かに昨日の事に関係はするけど。君は割と全体をよく見てるみたいだから、昨日のようなお客さんが来たと思ったら、すぐにホールスタッフか私に報告を。ホールスタッフはなかなか気付かないものだと思ってたら、多賀くんが全部上手く対応してたようだし」

「……」

だから、客が多かった昨日は、そこまで手が回らなかったのか、と肇は納得した。これじゃあ自分の手に余ると判断した湊は、やからが増える前にと裏方を希望したのだ。

「どうしても人が増えると、そういうのも増えるからね……かといって、多賀くんを裏方にまわすのはもったいない」

店長としても心苦しいのだろう。希望は聞いてあげたいけれど、と言っていた。

肇はホールにいる湊を見る。

そつなくこなしているように見えたから、肇も気が付かなかった。だからこそ、それでも笑って過ごしている湊に腹が立つ。

すると、店に亮介たちがやってきた。客足もピークを過ぎていて、手が空いていたので彼らの元へ向かう。

湊に案内されて席に着いた二人は、近付いた肇に手を挙げた。

「すみません、わざわざ来てもらって……って、亮介さん、眼鏡?」

いつも会う時は眼鏡をしていない亮介に気付くと、彼はああ、と眼鏡を指で上げる。

「カメラ扱う時はコンタクトにしてるんだ」

なるほど、と思う前に亮介はいつものようにスマホで肇を撮影する。

「ちょっと……オレ、趣味バラしてないんですから、ここでは止めてくださいよ」

小声で言うと、亮介は悪い、と謝る。しかし、もっと気になったのは、怜也が喋らない事だ。彼は既にメニューを見ていて、その顔は元気が無いように見える。

「怜也さん? 元気ないですけど、どうしたんですか?」

肇が問うと、何故か亮介が答える。

「実は腹下しててピンチなんだよな?」

「えっ、大丈夫ですか? 無理して注文しなくても……」

「お水、お持ちしました」

肇が慌てて怜也の顔を覗き込んでいると、横から湊が割って入ってきた。亮介が、おっ、さっきのイケメン、と呟いている。湊はいつものようににっこり笑って、小木曽くんの友達? と聞いてきた。

「お前には関係ないだろ。オーダーはオレが取るからあっち行ってろよ」

ついつい、肇もいつものようにつっけんどんに返す。その様子を見ていた亮介は「ふーん」と何か考えていた。

「なるほどこっちだとツンツンしてるのか」

湊が離れると、亮介が何かに納得したように呟く。肇は、恥ずかしくなって話題を逸らした。

「……で、注文何にします? オススメはオムライスとハンバーグです」

「じゃあその二つで。いいよな? 怜也」

「ああ」

肇は、怜也が大人しい事が気になりつつ、厨房へ戻る。そして手際良く注文された料理を作っていくと、ホールの前で湊が待ち構えていた。

「いい、オレが持っていく」

「いや、俺が持ってくよ。人いなくて暇だし」

「なら、オレが持っていっても問題ないだろっ」

肇は湊の手をかわし、亮介たちに料理を出す。何故か湊がやたらと絡もうとしてくるので、イライラする。

「お待たせしました」

亮介はテーブルに置かれた料理に歓声を上げ、早速口にする。うん、美味いという感想を聞いて、肇は玲也の顔色を伺った。彼は無言で食べており、やはり様子がおかしいと思うけれど、今は仕事中だ。

とりあえず終わってから話そうと思って、厨房に戻ると、湊がこちらを見ていることに気付く。

「……何だよ?」

肇は彼を睨んだ。

「いや、何でもないよ……いらっしゃいませ」

後半は来店した客に向けて、湊は笑顔になる。

湊が客の方へ行くのを見送って、何なんだ、と肇はため息をついた。
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