29 / 30
29
しおりを挟む
「信じられねぇ……!」
翌日、納涼祭りの会場。人々でごった返す中、洋は白川を探していた。
途中までは一緒にいたのだ。そして、食べ物を買おうとしたら、見事にお目当てが分かれた。時間的にも別れて並んで買って、後で合流するほうがいいとなり、集合場所に戻ったのだが。
その場所に着いたと同時にスマホが鳴り、見てみると白川からのメッセージ。そこには「穴場見つけた」という言葉にマップが添付されていた。
ただでさえ人が多くて歩きにくいのに、さらにこの中を一人で歩かせるか、と洋はムカつき、文句を垂れながら地面を踏みしめる。
向かった先は、会場近くの丘だ。道路を伝って登り、頂上に着くと開けた場所がある。けれどそこは人がいっぱいで、どこが穴場だ、と白川を探した。
「洋」
そうしていると、白川がこちらにやって来る。昨晩、散々名前呼びをお互いに練習したので、やっと普通に呼んでくれるようになった、と洋は笑った。
白川は洋の元へ来ると、こっち、とそのまま丘の斜面を下りて行く。洋は慌てた。
「お、おい、そんな藪の中……」
「すぐ近くだから」
やけに積極的に進むな、と思って付いていくと、本当にすぐ近くに、空が見える場所があったのだ。二人はそこにしゃがむけれど、すぐあることに気が付く。
「……ここ、飲み物置けないな」
「そ、そう、……だね。ごめん……」
斜面が急なので、とても買ったものを置けそうになかったのだ。眉を下げる白川に気にするな、と膝の上に買ったものを置く。
「何、買ったの?」
「おにぎり」
そんなのあったんだ、と白川は笑った。彼は焼きそばとたこ焼きを買っていて、ド定番だな、と洋も笑う。
早速開けて食べ始めると、花火が上がった。色とりどりの光に、白川の白い肌が照らされる。
「綺麗だな……」
「うん……」
しばらく無言で花火に見入り、歓声が遠くで聞こえることに気付く。藪の中なので当然人はいなくて、本当に穴場だな、と洋は笑った。
「どうしたの?」
独り言が聞こえたらしい白川が、不安そうにこちらを見ていた。洋はもう一度、「穴場だな」と言うけれど、花火の音にかき消されて聞こえないらしい。
洋は少し考えて、彼の耳に唇を寄せた。そして今の自分の気持ちを伝えると、白川は驚き、そして少し視線を泳がせてから、小さく頷く。
洋は微笑んだ。今までの彼の態度からすると、大成長だ。気持ちに寄り添おうとしてくれることが嬉しくて、少し照れくさくて、喉の奥で笑う。
ドキドキするけれど、嫌な緊張じゃない。甘く胸が締めつけられるこの感覚は、間違いなく白川のことが好きだからだ、と思える。
すると、花火がこれでもかというほど打ち上がる。肌から感じる重低音が心地よくて、白川を見つめた。
「好きだよ、恵士」
呟いた声は掠れている。聞こえただろうか、と思っていたら、白川の唇も動いた。
俺も、とそんな動きをしたように見えた。ひときわ明るくなった空に、白川の瞳が真っ直ぐこちらを見ていることに気付いて、洋は喜ぶ。
彼の顔が近付いた。
「来年も、一緒に来ような」
そう言って、洋は次にくる感触に期待しながら、目を閉じた。
【完】
(おまけに続きます!)
翌日、納涼祭りの会場。人々でごった返す中、洋は白川を探していた。
途中までは一緒にいたのだ。そして、食べ物を買おうとしたら、見事にお目当てが分かれた。時間的にも別れて並んで買って、後で合流するほうがいいとなり、集合場所に戻ったのだが。
その場所に着いたと同時にスマホが鳴り、見てみると白川からのメッセージ。そこには「穴場見つけた」という言葉にマップが添付されていた。
ただでさえ人が多くて歩きにくいのに、さらにこの中を一人で歩かせるか、と洋はムカつき、文句を垂れながら地面を踏みしめる。
向かった先は、会場近くの丘だ。道路を伝って登り、頂上に着くと開けた場所がある。けれどそこは人がいっぱいで、どこが穴場だ、と白川を探した。
「洋」
そうしていると、白川がこちらにやって来る。昨晩、散々名前呼びをお互いに練習したので、やっと普通に呼んでくれるようになった、と洋は笑った。
白川は洋の元へ来ると、こっち、とそのまま丘の斜面を下りて行く。洋は慌てた。
「お、おい、そんな藪の中……」
「すぐ近くだから」
やけに積極的に進むな、と思って付いていくと、本当にすぐ近くに、空が見える場所があったのだ。二人はそこにしゃがむけれど、すぐあることに気が付く。
「……ここ、飲み物置けないな」
「そ、そう、……だね。ごめん……」
斜面が急なので、とても買ったものを置けそうになかったのだ。眉を下げる白川に気にするな、と膝の上に買ったものを置く。
「何、買ったの?」
「おにぎり」
そんなのあったんだ、と白川は笑った。彼は焼きそばとたこ焼きを買っていて、ド定番だな、と洋も笑う。
早速開けて食べ始めると、花火が上がった。色とりどりの光に、白川の白い肌が照らされる。
「綺麗だな……」
「うん……」
しばらく無言で花火に見入り、歓声が遠くで聞こえることに気付く。藪の中なので当然人はいなくて、本当に穴場だな、と洋は笑った。
「どうしたの?」
独り言が聞こえたらしい白川が、不安そうにこちらを見ていた。洋はもう一度、「穴場だな」と言うけれど、花火の音にかき消されて聞こえないらしい。
洋は少し考えて、彼の耳に唇を寄せた。そして今の自分の気持ちを伝えると、白川は驚き、そして少し視線を泳がせてから、小さく頷く。
洋は微笑んだ。今までの彼の態度からすると、大成長だ。気持ちに寄り添おうとしてくれることが嬉しくて、少し照れくさくて、喉の奥で笑う。
ドキドキするけれど、嫌な緊張じゃない。甘く胸が締めつけられるこの感覚は、間違いなく白川のことが好きだからだ、と思える。
すると、花火がこれでもかというほど打ち上がる。肌から感じる重低音が心地よくて、白川を見つめた。
「好きだよ、恵士」
呟いた声は掠れている。聞こえただろうか、と思っていたら、白川の唇も動いた。
俺も、とそんな動きをしたように見えた。ひときわ明るくなった空に、白川の瞳が真っ直ぐこちらを見ていることに気付いて、洋は喜ぶ。
彼の顔が近付いた。
「来年も、一緒に来ような」
そう言って、洋は次にくる感触に期待しながら、目を閉じた。
【完】
(おまけに続きます!)
29
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
窓辺へ続く青春に僕たちの幕が上がる
不来方しい
BL
桜に染まったあの日から十年。中学校卒業と同時に別れが訪れた。
優しいキスしか残さなかった彼は、行く先も高校も告げずに目の前から消えた。
痛みを抱えたままの倉木窓夏は、動物園で働くという夢を叶え、平穏な毎日を過ごしていた。「キリンって、どんな鳴き声ですか?」話しかけてきた男性は、十年前に別れた藤宮秋尋だった。
モデルや俳優の仕事をしている彼と再び連絡を取るようになり、距離が近づいていく。
彼が人気モデルだと知らなかった窓夏は、まさか記者に追い回されているとも知らずに深い仲へと発展し、同棲するようになるが……。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【最弱勇者】100回目の転生
黒崎
BL
過去に99か所の世界を救ったベテランの勇者が100回目の転生は全能力1の縛りプレイで転生することにした。順調に進んだと思われていたが、過去最大の難所に立ち向かうのである。
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
参加型ゲームの配信でキャリーをされた話
ほしふり
BL
新感覚ゲーム発売後、しばらくの時間がたった。
五感を使うフルダイブは発売当時から業界を賑わせていたが、そこから次々と多種多様のプラットフォームが開発されていった。
ユーザー数の増加に比例して盛り上がり続けて今に至る。
そして…ゲームの賑わいにより、多くの配信者もネット上に存在した。
3Dのバーチャルアバターで冒険をしたり、内輪のコミュニティを楽しんだり、時にはバーチャル空間のサーバーで番組をはじめたり、発達と進歩が目に見えて繁栄していた。
そんな華やかな世界の片隅で、俺も個人のバーチャル配信者としてゲーム実況に勤しんでいた。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
好きな人が「ふつーに可愛い子がタイプ」と言っていたので、女装して迫ったら思いのほか愛されてしまった
碓氷唯
BL
白月陽葵(しろつきひなた)は、オタクとからかわれ中学高校といじめられていたが、高校の頃に具合が悪かった自分を介抱してくれた壱城悠星(いちしろゆうせい)に片想いしていた。
壱城は高校では一番の不良で白月にとっては一番近づきがたかったタイプだが、今まで関わってきた人間の中で一番優しく綺麗な心を持っていることがわかり、恋をしてからは壱城のことばかり考えてしまう。
白月はそんな壱城の好きなタイプを高校の卒業前に盗み聞きする。
壱城の好きなタイプは「ふつーに可愛い子」で、白月は「ふつーに可愛い子」になるために、自分の小柄で女顔な容姿を生かして、女装し壱城をナンパする。
男の白月には怒ってばかりだった壱城だが、女性としての白月には優しく対応してくれることに、喜びを感じ始める。
だが、女という『偽物』の自分を愛してくる壱城に、だんだん白月は辛くなっていき……。
ノンケ(?)攻め×女装健気受け。
三万文字程度で終わる短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる