上 下
160 / 240
第1章

160、盗賊の最期

しおりを挟む
一方、盗賊は……
「テメーら! よく聞けや! 次の仕事で終わりだ! クタナツを売る!」

「そんな! お頭!? まだ早いんじゃないですか!?」
「そうですよ! まだまだ稼げるでしょう?」
「まさかビビったんじゃ……ぎゃっ!」

その手下の不用意な発言は、頬に突き刺さったナイフによって阻まれた。

「うるせーぞ。テメーらみたいな空頭が俺に逆らってんじゃねー。そろそろ頃合だ。騎士団や冒険者どもが本気になる前に離れるぜ。
それともテメー、あそこの六等星や騎士と一対一で勝てるかよ?」

「いや、それは、お頭……」
「でもお頭ほどの先読みがあったらまだまだ稼げるだろ? 開拓はまだ半分も終わってないんだし……」

「古い言葉でよぉ、もうはまだなり、まだはもうなり。って言ってな。まだいいって思ってる間はすでに手遅れなんだよ。本当はもうクタナツを売ってもいいぐらいだがよ。それじゃテメーらが納得しねーだろうが。盆暗なテメーらのためにもう一回だけやらせてやるぜ。」

「お頭ぁ。俺達のことを……」
「さすがお頭だぜ!」
「お頭万歳!」

大抵の盗賊は、昨日のことは覚えておらず、明日のことは考えられない。そんな低脳の集まりである。

そのためかクタナツ周辺では随分昔に一掃されており、それ以来湧いて出ることもなかった。
いくら低脳でもクタナツの危なさだけは理解しているらしい。

辺境では領都とサヌミチアニの間ぐらいに比較的よく出没する。
その辺りには盗賊が十~二十グループ存在していたが、彼らはその内の五グループを吸収してできた大集団である。

頭目は『蓑火みのびのガストン』
元々は王都で冒険者をやっていたが周辺の盗賊の頭の悪さを知り、これなら容易くまとめられると考え自らが盗賊となった。

冒険者仲間と四人で結成した盗賊団『炎の戦車』はたちまち他の盗賊を駆逐、吸収し王都周辺を荒らしまわった。

ある程度の稼ぎを得たら役に立たない下っ端に金を持たせて派手に遊ばせる。その間に本隊は次の場所に逃げるのだ。
遊びを覚えた下っ端はすぐに金を使い果たし街中で悪事を働き御用となる。
全てを自白させられるが下っ端が知っていることなどほぼ何もない。何の手がかりにもならないことを騎士団が必死に調べている頃には逃亡済みというわけだ。

下っ端だけあって頭目の顔どころか声や名前すら知りえない。金に目が眩んだ愚者の末路など推して知るべしだ。

そんな盗賊だから容易く裏切る。
仲間を殺す。
金を持って自分だけ逃げる。
そんなことは日常茶飯事だ。

そんな時ガストンは必ず同じ罰を与えていた。

雨の日に使う『蓑』を着せて火を付けるのだ。麦藁で作られた蓑は簡単に火が回り高温で燃える。火を消そうと必死に地面を転げ回る様を見てガストンは大笑いする。
運良くと言えるかはともかく、火が消えて死なずに済んだとしても全身大火傷だ。半端な治療では助かる見込みはない。
幹部によって傷口に塩を塗って放置されるのみだ。叫び声が消える頃、命の灯も消えるというわけだ。

そんな光景を目の当たりにしても裏切る人間は裏切る。頭目の恐ろしさを知ってはいても金を目の前にした愚者は止まらないのだ。

それは今日も……

「さてテメーら。お楽しみの時間だ。今日はこいつだ。こいつは俺達の大事な仲間を二人も殺して金を持ち逃げしようとした。
俺達の金をだ。よって『蓑火の刑』だ。」

「お! お頭! 違うんだ! 何かの間違いなんだ! 俺じゃない! 俺は違う!」

この手の人間はいつも同じことを言う。ガストンは少しうんざりしていた。
しかし違う刑を考えるのも面倒なのでやはり蓑火の刑は継続だ。

「やれ。」

部下の手によって蓑に火がつけられた。
名もなき下っ端は意味不明な声で叫びながら地べたを転げ回っている。
普段は大笑いするガストンだが、今日はそんな気分でもなかったらしく黙ったままだ。

「おう、お頭。ご機嫌斜めかい? せっかくの見世物なのによう?」

「少し飽きてきちまってな。考えるのも面倒だが次からは違う刑にするかな。まあ次があればだがな。ホントこいつらってバカだよな。こうなるって分かってる癖によぉ。」

「へっへっへ、だよな。で次回はどうすんだ?」

「いや、今回で終わりだ。俺達は足を洗う。貯めた金で四人とも一生豪遊できるぜ。」

「そうか。惜しい気もするがそれこそ頃合だもんよ?」

「おう、最後のお勤めは俺達以外全員で行かせる。あらかじめ密告チンコロしとけば一網打尽ってわけよ。その間に悠々と逃げようぜ。」

「さすがガストンだぜ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...