137 / 240
第1章
137 カース、聴く
しおりを挟む
「バイオリン練習曲『タランテーラ』よ。じゃあ弾くから……」
うおっ、なんという滑らかな指遣い……細い指が指板の上で踊っている……
それでいて音の粒が揃っている……基礎的な修練を怠っていない証拠だ……
うう、指と音が加速していく……音圧が室内を埋め尽くし、私を酔わせる……すごい……
圧巻だった……
演奏時間は長かったのに、一瞬で終わったように感じる。アレックスちゃんのバイオリン演奏は上手かった、かなり……
私の耳など当てにはならないが前世で聞いたバイオリン曲との違いが分からない。
もちろん曲そのものは初耳だが、音色や技巧に違いを感じない。かなりの高レベルだと感じた。
むしろバイオリンそのものはこちらの方が品質が上なのか?
私は何も言えないでいる。
すごすぎて言葉が出てこないのだ。
アレックスちゃんは心配そうに聞いてくる。
「そ、その、どうだった?」
「う、うん、どう言っていいか分からないけど凄かったよ。まさかこんなに上手だと思わなかった。今まで気付かなかったけど、かなり練習してるよね? その指。」
「み、見ないでよ。ボロボロなんだから!」
「そう? すごく綺麗だと思うよ? その感じだと指が血だらけになっても練習し続けたんだよね? そうやって作り上げた指ってバイオリン並に芸術品だと思うよ。」
「カースのくせに……ありがと……」
それから私達は色んな話をした。
領都での生活、クタナツに来てから、初登校。
バイオリンとの出会い、厳しい教師、伸び悩み。
クタナツで楽器を嗜む人間などいないから誰にも話してなかったようだ。
また、私達と友達にはなったが、誰も遊びに来てくれないことも気にしていたらしい。
それでもみんなで遊ぶことがとても楽しかったとか、それは私もだ。
「少しバイオリン弾いてみていい?」
「うん、誰にも触らせてはいけないって言われているけどカースは特別なんだから!」
「ありがとう。じゃあ慎重に……」
私はギターを弾くようにバイオリンを構える。ピックがあればいいのに。
ギターとバイオリンでは押さえる位置が近かったりする。ギターなら弾けるのだ。
そこでドレミの曲を弾いてみた。音は外すし隣の弦まで弾いてしまうし散々だ。
「変な弾き方する癖に基本ができてそうな動きね。初めてじゃないの?」
「いやーリュートのつもりで弾いてみたんだよ。やっぱり弓の扱いは難しいね。」
「リュートですって? 最近王都の貴族間で流行り始めてるらしいじゃない? そのウエストコートと言いカースは流行に敏感なのね。」
「え? ウエストコートってまだ王都で流行ってるの? これを貰ったのは数年前だよ? 兄上からのお土産を無理矢理サイズ直ししつつ着てるんだよね。カッコよくて気に入ってるからさ。」
「流行ってるどころか加熱してるらしいわよ。腕のいい職人は取り合いらしいし。」
「へぇーすごいんだね。ところでピアノはどう? かなり高いって聞いたけど。」
「話が飛ぶわね。ピアノは高いわよ。父上の本家にはあるらしいわ。ちなみに私のバイオリンは安物よ。でもピアノには安物なんてないわね。」
「へえー、それにしても普段学校で話さないような話題を二人だけで話すのも青春だよね。」
「そう、ね……」
そこにノックの音が聞こえる。
「失礼いたします。夕食の用意が整いました。カース様にはマーティン夫人より着替えを頂いて参りました。」
もう夕方? 楽しい時間は本当にあっという間だ。
そして着替えか。泊まることがないからすっかり忘れていた。まあオディ兄直伝の洗濯魔法と乾燥魔法があるから風呂に入っている間に自分で洗うこともできるんだよな。
それにしても、こんなに長居していいのか?
うおっ、なんという滑らかな指遣い……細い指が指板の上で踊っている……
それでいて音の粒が揃っている……基礎的な修練を怠っていない証拠だ……
うう、指と音が加速していく……音圧が室内を埋め尽くし、私を酔わせる……すごい……
圧巻だった……
演奏時間は長かったのに、一瞬で終わったように感じる。アレックスちゃんのバイオリン演奏は上手かった、かなり……
私の耳など当てにはならないが前世で聞いたバイオリン曲との違いが分からない。
もちろん曲そのものは初耳だが、音色や技巧に違いを感じない。かなりの高レベルだと感じた。
むしろバイオリンそのものはこちらの方が品質が上なのか?
私は何も言えないでいる。
すごすぎて言葉が出てこないのだ。
アレックスちゃんは心配そうに聞いてくる。
「そ、その、どうだった?」
「う、うん、どう言っていいか分からないけど凄かったよ。まさかこんなに上手だと思わなかった。今まで気付かなかったけど、かなり練習してるよね? その指。」
「み、見ないでよ。ボロボロなんだから!」
「そう? すごく綺麗だと思うよ? その感じだと指が血だらけになっても練習し続けたんだよね? そうやって作り上げた指ってバイオリン並に芸術品だと思うよ。」
「カースのくせに……ありがと……」
それから私達は色んな話をした。
領都での生活、クタナツに来てから、初登校。
バイオリンとの出会い、厳しい教師、伸び悩み。
クタナツで楽器を嗜む人間などいないから誰にも話してなかったようだ。
また、私達と友達にはなったが、誰も遊びに来てくれないことも気にしていたらしい。
それでもみんなで遊ぶことがとても楽しかったとか、それは私もだ。
「少しバイオリン弾いてみていい?」
「うん、誰にも触らせてはいけないって言われているけどカースは特別なんだから!」
「ありがとう。じゃあ慎重に……」
私はギターを弾くようにバイオリンを構える。ピックがあればいいのに。
ギターとバイオリンでは押さえる位置が近かったりする。ギターなら弾けるのだ。
そこでドレミの曲を弾いてみた。音は外すし隣の弦まで弾いてしまうし散々だ。
「変な弾き方する癖に基本ができてそうな動きね。初めてじゃないの?」
「いやーリュートのつもりで弾いてみたんだよ。やっぱり弓の扱いは難しいね。」
「リュートですって? 最近王都の貴族間で流行り始めてるらしいじゃない? そのウエストコートと言いカースは流行に敏感なのね。」
「え? ウエストコートってまだ王都で流行ってるの? これを貰ったのは数年前だよ? 兄上からのお土産を無理矢理サイズ直ししつつ着てるんだよね。カッコよくて気に入ってるからさ。」
「流行ってるどころか加熱してるらしいわよ。腕のいい職人は取り合いらしいし。」
「へぇーすごいんだね。ところでピアノはどう? かなり高いって聞いたけど。」
「話が飛ぶわね。ピアノは高いわよ。父上の本家にはあるらしいわ。ちなみに私のバイオリンは安物よ。でもピアノには安物なんてないわね。」
「へえー、それにしても普段学校で話さないような話題を二人だけで話すのも青春だよね。」
「そう、ね……」
そこにノックの音が聞こえる。
「失礼いたします。夕食の用意が整いました。カース様にはマーティン夫人より着替えを頂いて参りました。」
もう夕方? 楽しい時間は本当にあっという間だ。
そして着替えか。泊まることがないからすっかり忘れていた。まあオディ兄直伝の洗濯魔法と乾燥魔法があるから風呂に入っている間に自分で洗うこともできるんだよな。
それにしても、こんなに長居していいのか?
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる