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第1章
125 十月十二日、夜
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昼過ぎにグリードグラス草原でアランと合流したイザベルだが、状況を聞き安心していた。
マリーは人知れず得意げな顔をしていた。
このまま帰ってもイザベルとマリーは城門をくぐれない。日没に間に合わないからだ。
それでもアランに城壁を越えさせるためには一緒に帰る必要がある。
もちろん誰もフェルナンドの心配などしていない。こうして一行はクタナツ城壁外まで戻り、アランは夕闇に紛れて無事城壁を飛び越え一人自宅へ帰るのだった。
同じタイミングでオディロンとキアラも帰ってきた。
「ただいま。やっと帰ってこれたよ。」
「おかえり。無事で何よりだったな。飯にするぞ、作ってやるから座って待ってろ。キアラは部屋に連れていってやれ。」
二人だけの夕食は和やかなものだった。
「母上とマリーは?」
「朝まで戻れんな。城壁のすぐ外にいる。普通に馬車で城門から出たからな、城門から帰らないとまずいからな。」
「ふふ、関所破りか。父上もカースも先生もみんな平気で悪いことするんだもんね。」
「はっはっは、これで下級貴族、騎士爵だってんだから笑えるよな。お前もカースも生きて帰ってきたし、グリーディアントも問題ない。細かい問題はいくつか発生するだろうがどうでもいいことだ。」
「そうだね。魔境であんな目にあってよく生きて帰れたと思うよ。カースも母上もすごいよね。」
「あんな凄腕の女を妻にした俺が最高ってわけさ。さあて、治療院に行ってくる。お前はさっさと寝ろよ。」
「うん、父上もありがとうね。」
そして治療院。
ジェームスとヒャクータは自宅に帰り、ベレンガリアはカースの側にいた。
「すまないな、君にばかり負担をかけてしまっているようだ。今日はもうお帰り。」
「マーティン卿……今回の件は私の判断が……」
「いや、事情は分かってる。君はよくやった。オディロンとカースが生きているのも君のおかげで間違いない。本当にありがとう。」
ベレンガリアは無言で立ち上がり、アランに飛びついた。それは父親の庇護をねだる子供のようにも見えれば恋人に甘える女性のようにも見えた。そのどちらであれアランは慌てることはなく、優しくベレンガリアの背中を抱き頭を撫でる。
そのまま十分ぐらい経過しただろうか。
「さあ、そろそろお帰り。子供には夢を見る時間が必要だからな。」
ベレンガリアは『子供じゃない!』と反論したかったが、弱冠十二歳。見た目も間違いなく子供であるため何も言わず顔を赤くしたまま治療院を後にした。
「ふう、さすがにオディロンと同じ年の女の子は守備範囲外だ。大きくなったら可愛がってやってもいいがな。」
こんな時でもやはりアランは好色騎士だった。
「さーて、カースは一体どこで大怪我をしたことにしようか……頭が痛いぜ。」
そう、治療院の魔法使い達は気にしてないが、カースは間違いなく大怪我。必ず原因があるはずなのだ。
通常なら治療院から騎士団に届けが出されることもある。今回は騎士であるアランが度々顔を出していることもあり届けを出したつもりになっているだけなのだ。
そこを追求されると非常にまずいのだが……
しかもアランは仕事をサボってしまっている。部下達に根回しはしているため上司にバレているとは思えないが、それらを合わせて工作しておかなければならない。言い訳としてはフェルナンドに無理矢理付き合わされた、が無難だろう。
周囲の目をカースから逸らすことさえできれば最悪自分はクビになろうが関所破りで投獄されようが構わない気持ちはある。
アランはカースを見守りながら頭を悩ませるのだった。
宿に戻ったベレンガリア。
命がけで戦った恐怖、命が助かった安心感。身の丈を超えた魔物を倒した達成感、仲間を無事に帰す責任感からの解放。そしてアランの大きく暖かい胸板と優しい手。それらを一気に感じてしまい体が熱くなる。
そしてアランのことだけを考えながら寝た。
もしも、アランが自分を宿まで送ってくれていたら……そんな夢を見た夜だった。
マリーは人知れず得意げな顔をしていた。
このまま帰ってもイザベルとマリーは城門をくぐれない。日没に間に合わないからだ。
それでもアランに城壁を越えさせるためには一緒に帰る必要がある。
もちろん誰もフェルナンドの心配などしていない。こうして一行はクタナツ城壁外まで戻り、アランは夕闇に紛れて無事城壁を飛び越え一人自宅へ帰るのだった。
同じタイミングでオディロンとキアラも帰ってきた。
「ただいま。やっと帰ってこれたよ。」
「おかえり。無事で何よりだったな。飯にするぞ、作ってやるから座って待ってろ。キアラは部屋に連れていってやれ。」
二人だけの夕食は和やかなものだった。
「母上とマリーは?」
「朝まで戻れんな。城壁のすぐ外にいる。普通に馬車で城門から出たからな、城門から帰らないとまずいからな。」
「ふふ、関所破りか。父上もカースも先生もみんな平気で悪いことするんだもんね。」
「はっはっは、これで下級貴族、騎士爵だってんだから笑えるよな。お前もカースも生きて帰ってきたし、グリーディアントも問題ない。細かい問題はいくつか発生するだろうがどうでもいいことだ。」
「そうだね。魔境であんな目にあってよく生きて帰れたと思うよ。カースも母上もすごいよね。」
「あんな凄腕の女を妻にした俺が最高ってわけさ。さあて、治療院に行ってくる。お前はさっさと寝ろよ。」
「うん、父上もありがとうね。」
そして治療院。
ジェームスとヒャクータは自宅に帰り、ベレンガリアはカースの側にいた。
「すまないな、君にばかり負担をかけてしまっているようだ。今日はもうお帰り。」
「マーティン卿……今回の件は私の判断が……」
「いや、事情は分かってる。君はよくやった。オディロンとカースが生きているのも君のおかげで間違いない。本当にありがとう。」
ベレンガリアは無言で立ち上がり、アランに飛びついた。それは父親の庇護をねだる子供のようにも見えれば恋人に甘える女性のようにも見えた。そのどちらであれアランは慌てることはなく、優しくベレンガリアの背中を抱き頭を撫でる。
そのまま十分ぐらい経過しただろうか。
「さあ、そろそろお帰り。子供には夢を見る時間が必要だからな。」
ベレンガリアは『子供じゃない!』と反論したかったが、弱冠十二歳。見た目も間違いなく子供であるため何も言わず顔を赤くしたまま治療院を後にした。
「ふう、さすがにオディロンと同じ年の女の子は守備範囲外だ。大きくなったら可愛がってやってもいいがな。」
こんな時でもやはりアランは好色騎士だった。
「さーて、カースは一体どこで大怪我をしたことにしようか……頭が痛いぜ。」
そう、治療院の魔法使い達は気にしてないが、カースは間違いなく大怪我。必ず原因があるはずなのだ。
通常なら治療院から騎士団に届けが出されることもある。今回は騎士であるアランが度々顔を出していることもあり届けを出したつもりになっているだけなのだ。
そこを追求されると非常にまずいのだが……
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