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第1章

120 十月十一日、夜

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アランが帰った後、すぐにオディロンが目を覚ました。

「ベレンちゃん? ここは?」

「オディロン! 起きたのね! よかったわ! ここはクタナツの治療院よ!」

「そう、あれからどうなったの?」

先ほどアランに話した信じられない話をオディロンにも聞かせる。

「そうか。ベレンちゃんが背負ってくれたんだね。あんなにも遠い道のりを、ありがとう。」

「私の話を信じるの? 自分でも信じられないのよ? マーティン卿だってあっさり信じてくれたけど!」

「カースだからね。あいつは変な弟だけど凄い奴なんだよ。自慢の弟さ。」

「そのカース君も今日の朝、ここに運ばれたらしいわ。まだ起きないの。」

「カースのことは心配しなくていいよ。僕はもう少し寝るね。ベレンちゃんも帰った方がいいんじゃない?」

「そうね。もう少ししたら帰るわ。」

だがオディロンが目を閉じてもベレンガリアは帰ることなく、ジェームスが目覚めるまでそこにいた。




ギルド併設の酒場にて。

「リトルウィングが散々な目にあったらしいな」
「サイクロプスの咆哮の奴等を助けたらしいが」
「あいつら今頃どうしてんだ?」
「リトルウィングか? さあな? 治療院じゃないのか?」
「いやサイクロプスの咆哮だ」
「それこそ知らねーよ。今日の朝ぐらいに逃げて帰ってきたって話だからまだ宿にいるんじゃねーか?」
「トロルか、十等星のガキにはきついよな」
「状況的には擦りつけもあり得るが、リトルウィングは昨日の夜戻ってきてギルドに顔を出してない。相当ギリギリだったんだろうぜ」
「噂じゃオディロンの奴、右腕がなかったってよ」
「マジかよ! ヤバいな!」
「可哀想に、もう引退か。まああいつなら洗濯魔法で小銭を稼いでいれば食いっぱぐれはないだろ」
「いくらあいつの家が貴族でも腕が生えるようなエリクサーなんか用意できるわけねーしな」

冒険者の夜は酒と共に更けていく。
その時、ギルドの扉がゆっくりと開かれる。
ベレンガリアだ。あれからジェームスが目を覚ましたので、状況を報告しにギルドにやって来たのだ。

「ただいま帰りました。報告が遅くなり申し訳ありません。」

「お疲れ様でした。リトルウィングは貴方だけですか? では依頼の品を」

「未達成です。メンバーの魔力庫に入っていますが、当分取り出すことはできないでしょう。その報告が一点と、悪質な『擦りつけ』についても報告いたします。」

「聞きましょう」

ベレンガリアは状況を説明する。
ただしトロルからは何とか逃げることができ、他のメンバーも重傷ではあったが全員五体満足であることを伝えた。

「了解いたしました。依頼はどうしますか?」

「いつ取り出せるか分かりません。手を引きます。罰金はおいくらかしら?」

「期日までまだ時間がありますので必要ありません。それまでに取り出せたら再受注の上で達成といたします」

そのまま帰ろうとするベレンガリアを先輩冒険者が呼び止める。
「おーベレン、よく帰ってきたな。どうだ? 食っていかねーか? 奢りだぞ」

「ありがとうございます。しかし食欲がありませんので帰ります。」

「バカ! お前らの状況は分かってんだよ。それでも無理して食えって言ってんだ。冒険者は食うことも仕事だからよ」

「は、はい。いただきます。」

そしてベレンガリアは先輩達にも状況を話した。ギルドに説明した内容と大差はないが、少しの憎しみがこめられていた。

その後、先輩達に宿まで送ってもらったベレンガリアは自室で一人、泣いた。

そして止まらない涙を無理にでも拭い、再び治療院に行きオディロンとカースを見守るのだった。
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