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第1章
110 十月十日、夜
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ドンドンドンと連続して激しく門が叩かれている。
「何事かしら? マリー、見てきてちょうだい。」
「かしこまりました。」
母上が怪訝な表情でマリーを向かわせる。
「開門! 開門願います!」
女の子の声だろうか?
声がきこえてからすぐにマリーが戻ってきた。
「奥様、緊急です。すぐ治療院へ向かってください。オディロン坊ちゃんが重傷です。」
「分かったわ! すぐ行くわ!」
何だって!? オディ兄が重傷!?
そんなバカな! オディ兄は凄腕で……雑魚なんか一瞬で倒せるんだ……それがどうして……
「イザベル様、私が走った方が速い! 私が背負う、早く乗って!」
「お願いします!」
あっと言う間にフェルナンド先生と母上は見えなくなってしまった。
後に残されたのは私とマリーとキアラ、そして門を叩いた女の子だ。
その顔は血と涙にまみれ、服もボロボロだ。
だからこそマリーはあっさり門を開け、素早く母上に伝えたのだろう。
「お知らせいただきましてありがとうございます。私は当家のメイド、マリーと申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「わ、私はベレンガリア。オディロンと同じパーティーの者です。オディロンが、オディロンが私のせいで……」
「ご事情は把握いたしました。私は行けませんが、カース坊ちゃんを騎士団詰所まで連れて行っていただけますか?
カース坊ちゃん、ベレンガリア様と騎士団詰所に行き、旦那様にお知らせください。」
「わ、分かった。ベレンガリアさん! 早く行こう!」
背中に風操を当て加速する。
今までこんな使い方をしたことはなかったが、形振り構っていられない。
「ベレンガリアさん早く!」
血塗れな怪我人に向かってひどい言い草だ。
しかし私は騎士団詰所を知らないんだ。案内してもらわなければ。彼女の手を引き無理矢理にでも走らせる!
「そこを右、後はまっすぐよ!」
うちから二キロルぐらいか、意外と早く着いた。
「緊急です! アラン・ド・マーティンをお願いします! 僕は息子のカースです!」
騎士団にもある程度の情報は入っていたのだろう。迅速に対応してくれた。
父上は五分と待たずに現れた。
「カース……やはりオディロンは……」
「きっと大丈夫だよ! 治療院に行こう!」
「そ、そうだな。急ごう。」
そして私達三人は急いで治療院に向かった。
そこで私が見たのは……
右腕のないオディ兄だった。
「オディ兄! オディ兄! 起きてよ!」
「カース、揺すってはだめ。危ない状況なの。」
「母上なら治せるよね! 早く治してあげてよ!」
「これ以上は無理よ…… せめて腕があれば……」
腕? 腕があればいいんだな!?
「ベレンガリアさん! 行くよ! オディ兄の腕はどこ!?」
「い、いやグリードグラス草原の中西部あたりだけど……見つからなくて……行くとは…….」
「行くよ! 乗って!」
「いや、乗って? とは? 何に?」
「早く! ここ!」
私は畳サイズの鉄板を出し無理矢理ベレンガリアさんを乗せる。
時間がない! まずは北に向かえばいい! 近くに行けばきっと彼女が見つけてくれる!
それにオディ兄ほどの魔力があれば一日や二日放ったらかしたって腐るものか!
「待てカース! 落ち着け! 城門が、それに夜の魔境は!」
「ごめん父上、時間がない! 話は後で!」
そして金操で鉄板を浮かせ全速力でクタナツを出る。
「ええっ!? 何これ!? 何で空を? 飛んでるの?」
「いいから! だいたいの場所を教えて!
グリードグラス草原なんだよな? 景色をよく見て!」
そう言って私は前方に火球を飛ばす。
万が一にもオディ兄の腕を焼いてしまわないように、地面からやや浮かせたままにしておく。
「ここは? もう草原じゃないの?」
「ええっ!? もう!? 確かにグリードグラス草原だ……」
「早く! ここからどっち?」
「えっ、と、このままで、もう少しゆっくり……」
私はさらに火球を増やして打ち上げる。
しかし明かりが足りない、疎らだ。
くそっ、こんなことなら光の魔法も習っておけばよかった。
「ベレンガリアさん! 光の魔法は使える?」
「あ、ああ、中級の光源だけなら。」
「詠唱を教えて!」
「は? 何を言っている? 私が使えばいいんじゃない?」
「いいから早く! 教えて!」
「うっ、分かった。
『ホンシーゲ クーミョーブ キョーレンミ
ゼンマーク ボンブーニン
光よ暗闇を照らせ 光源』 よ。」
「ありがと!」
この辺一帯を昼にしてやる!
『ホンシーゲ クーミョーブ キョーレンミ
ゼンマーク ボンブーニン
光よ暗闇を照らせ 光源』
「な、何という魔力! それにこの明るさ!」
「さあ、これで見えるだろ! 詳しく教えて!」
「よし! 右よ! そこからもう少し下! あの辺りに丸く草が生えてないエリアがある! その付近とは思うけど……」
分かった! あの辺か!
頼む、オディ兄の右腕、あってくれ!
もしかしてあれか!? 見つけたぞ!
しかし何だあれは?
何かがオディ兄の右腕に纏わり付いている。
大きさはゴブリン以下、だが黒い? 虫にしては大きい……
「あれは何!?」
「あ、あれは! グリーディアント!手を出してだめ! あれに手を出すとクタナツが……」
「何!? はっきり言って!」
「奴らは一度目を付けた獲物をどこまでもつけ狙う。なぜか遠く離れたとしてもいつまでも狙う、それも集団で! その数は十万とも百万とも言われているの。
大襲撃にも参加することのない夜行性の蟻だから冒険者以外には知られていないわ。」
「だから?」
「オディロンの右腕は諦めて! この償いはするから! 私がオディロンの右腕となってもいい、いやこの腕を落としてくれてもいい!」
知るかよ!
『風操』
蟻ごと右腕を浮かせる。蟻は右腕を離そうとしない。どうせ体液がフェロモンなんだろ。溺死しやがれ!
『水球』
右腕が水に浸からないように蟻だけを水球で覆う。
今のところ周辺にグリーディアントはこの一匹だけ。
フェロモンで追ってくるんだとすれば、この辺り一帯を焦土にしてやればいい。それでも来るなら十万でも百万でも来やがれ!
『燎原の火』
特に右腕のあった場所には念入りに……
『火球』
溺死した蟻はクタナツと反対方向にぶっ飛ばしておく。
何もかも焼けてしまえ。
そして高度を上げクタナツを目指す。
念のためオディ兄の右腕は風壁で包んでおく。かすかな痕跡すら残してやるかよ!
そしてとどめ、グリードグラス草原の端から中央に向けて!
『津波』
全部押し流してやる!
ここまでやっても来るってんなら来い!
さあ全速力で帰ろう!
ベレンガリアさん! 帰りの方向を教えてくれ! 待っててくれよオディ兄!
「何事かしら? マリー、見てきてちょうだい。」
「かしこまりました。」
母上が怪訝な表情でマリーを向かわせる。
「開門! 開門願います!」
女の子の声だろうか?
声がきこえてからすぐにマリーが戻ってきた。
「奥様、緊急です。すぐ治療院へ向かってください。オディロン坊ちゃんが重傷です。」
「分かったわ! すぐ行くわ!」
何だって!? オディ兄が重傷!?
そんなバカな! オディ兄は凄腕で……雑魚なんか一瞬で倒せるんだ……それがどうして……
「イザベル様、私が走った方が速い! 私が背負う、早く乗って!」
「お願いします!」
あっと言う間にフェルナンド先生と母上は見えなくなってしまった。
後に残されたのは私とマリーとキアラ、そして門を叩いた女の子だ。
その顔は血と涙にまみれ、服もボロボロだ。
だからこそマリーはあっさり門を開け、素早く母上に伝えたのだろう。
「お知らせいただきましてありがとうございます。私は当家のメイド、マリーと申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「わ、私はベレンガリア。オディロンと同じパーティーの者です。オディロンが、オディロンが私のせいで……」
「ご事情は把握いたしました。私は行けませんが、カース坊ちゃんを騎士団詰所まで連れて行っていただけますか?
カース坊ちゃん、ベレンガリア様と騎士団詰所に行き、旦那様にお知らせください。」
「わ、分かった。ベレンガリアさん! 早く行こう!」
背中に風操を当て加速する。
今までこんな使い方をしたことはなかったが、形振り構っていられない。
「ベレンガリアさん早く!」
血塗れな怪我人に向かってひどい言い草だ。
しかし私は騎士団詰所を知らないんだ。案内してもらわなければ。彼女の手を引き無理矢理にでも走らせる!
「そこを右、後はまっすぐよ!」
うちから二キロルぐらいか、意外と早く着いた。
「緊急です! アラン・ド・マーティンをお願いします! 僕は息子のカースです!」
騎士団にもある程度の情報は入っていたのだろう。迅速に対応してくれた。
父上は五分と待たずに現れた。
「カース……やはりオディロンは……」
「きっと大丈夫だよ! 治療院に行こう!」
「そ、そうだな。急ごう。」
そして私達三人は急いで治療院に向かった。
そこで私が見たのは……
右腕のないオディ兄だった。
「オディ兄! オディ兄! 起きてよ!」
「カース、揺すってはだめ。危ない状況なの。」
「母上なら治せるよね! 早く治してあげてよ!」
「これ以上は無理よ…… せめて腕があれば……」
腕? 腕があればいいんだな!?
「ベレンガリアさん! 行くよ! オディ兄の腕はどこ!?」
「い、いやグリードグラス草原の中西部あたりだけど……見つからなくて……行くとは…….」
「行くよ! 乗って!」
「いや、乗って? とは? 何に?」
「早く! ここ!」
私は畳サイズの鉄板を出し無理矢理ベレンガリアさんを乗せる。
時間がない! まずは北に向かえばいい! 近くに行けばきっと彼女が見つけてくれる!
それにオディ兄ほどの魔力があれば一日や二日放ったらかしたって腐るものか!
「待てカース! 落ち着け! 城門が、それに夜の魔境は!」
「ごめん父上、時間がない! 話は後で!」
そして金操で鉄板を浮かせ全速力でクタナツを出る。
「ええっ!? 何これ!? 何で空を? 飛んでるの?」
「いいから! だいたいの場所を教えて!
グリードグラス草原なんだよな? 景色をよく見て!」
そう言って私は前方に火球を飛ばす。
万が一にもオディ兄の腕を焼いてしまわないように、地面からやや浮かせたままにしておく。
「ここは? もう草原じゃないの?」
「ええっ!? もう!? 確かにグリードグラス草原だ……」
「早く! ここからどっち?」
「えっ、と、このままで、もう少しゆっくり……」
私はさらに火球を増やして打ち上げる。
しかし明かりが足りない、疎らだ。
くそっ、こんなことなら光の魔法も習っておけばよかった。
「ベレンガリアさん! 光の魔法は使える?」
「あ、ああ、中級の光源だけなら。」
「詠唱を教えて!」
「は? 何を言っている? 私が使えばいいんじゃない?」
「いいから早く! 教えて!」
「うっ、分かった。
『ホンシーゲ クーミョーブ キョーレンミ
ゼンマーク ボンブーニン
光よ暗闇を照らせ 光源』 よ。」
「ありがと!」
この辺一帯を昼にしてやる!
『ホンシーゲ クーミョーブ キョーレンミ
ゼンマーク ボンブーニン
光よ暗闇を照らせ 光源』
「な、何という魔力! それにこの明るさ!」
「さあ、これで見えるだろ! 詳しく教えて!」
「よし! 右よ! そこからもう少し下! あの辺りに丸く草が生えてないエリアがある! その付近とは思うけど……」
分かった! あの辺か!
頼む、オディ兄の右腕、あってくれ!
もしかしてあれか!? 見つけたぞ!
しかし何だあれは?
何かがオディ兄の右腕に纏わり付いている。
大きさはゴブリン以下、だが黒い? 虫にしては大きい……
「あれは何!?」
「あ、あれは! グリーディアント!手を出してだめ! あれに手を出すとクタナツが……」
「何!? はっきり言って!」
「奴らは一度目を付けた獲物をどこまでもつけ狙う。なぜか遠く離れたとしてもいつまでも狙う、それも集団で! その数は十万とも百万とも言われているの。
大襲撃にも参加することのない夜行性の蟻だから冒険者以外には知られていないわ。」
「だから?」
「オディロンの右腕は諦めて! この償いはするから! 私がオディロンの右腕となってもいい、いやこの腕を落としてくれてもいい!」
知るかよ!
『風操』
蟻ごと右腕を浮かせる。蟻は右腕を離そうとしない。どうせ体液がフェロモンなんだろ。溺死しやがれ!
『水球』
右腕が水に浸からないように蟻だけを水球で覆う。
今のところ周辺にグリーディアントはこの一匹だけ。
フェロモンで追ってくるんだとすれば、この辺り一帯を焦土にしてやればいい。それでも来るなら十万でも百万でも来やがれ!
『燎原の火』
特に右腕のあった場所には念入りに……
『火球』
溺死した蟻はクタナツと反対方向にぶっ飛ばしておく。
何もかも焼けてしまえ。
そして高度を上げクタナツを目指す。
念のためオディ兄の右腕は風壁で包んでおく。かすかな痕跡すら残してやるかよ!
そしてとどめ、グリードグラス草原の端から中央に向けて!
『津波』
全部押し流してやる!
ここまでやっても来るってんなら来い!
さあ全速力で帰ろう!
ベレンガリアさん! 帰りの方向を教えてくれ! 待っててくれよオディ兄!
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