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第1章
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しおりを挟むそして後日、アランとオディロンはダキテーヌ家を訪れた。
「ダキテーヌ卿、本日は御目通りをお許しいただき恐縮でございます。」
「いやマーティン卿、よく来てくれた。私事ですまない。粗方はパスカルから聞いている。今日はただの確認だと思ってくれ。」
「ええ、おそらく大筋はその通りかと。
詳細は何なりとお聞きください。」
「うむ、では一年半前にベレンガリアは出て行ったのだが、なぜその日だったのか、前触れなしに突然だったのが気になっている。心当たりはあるだろうか?」
「それにつきましては私から。
おそらくその日の昼、私はベレンガリア様から相談を受けたのです。内容は、家を出て冒険者か娼婦をやる。だから一緒に冒険者をやらないかと。また一人で冒険者をやるぐらいなら娼婦をやるとも言われておりました。
そして私は、君となら冒険者をやるのもいい、ただしダキテーヌ家を敵に回さないことが条件だと答えました。」
「なるほど、それでベレンガリアは勘当されるべく行動したというわけか。」
「おそらくそうだと思います。ベレンガリア様にも伝えましたが私には意中の女性がおります。そのために冒険者をやっていると言っても過言ではありません。つまり女性としてベレンガリア様に興味はありません。リーダーを任せるに足る、得難いメンバーだとは思いますが。」
「ふむ、それを喜べばいいのか悲しめばいいのか。オディロン君、君に一因はありそうだが責任は皆無か……」
そのまま和やかに会談も終わろうとしていた時、乱暴にドアを開け何者かが乱入してきた。
「貴様か! ベレンを誑かした男は!」
「パトリック! お前は出てくるなと言っただろう。」
「父上は騙されているのです! 純真で可憐なベレンは我々が守ってやらねば!」
「もう話は終わったのだ! ベレンガリアは勘当! それに変わりはない! もう放っておけ!」
「父上! 納得できません! なぜベレンがここにおらず下級貴族風情がいるのですか!
話し合いならベレンも同席するべきでしょう!」
「ベレンガリアは勘当の身だ。我が家の門をくぐることは許されん。会いたいならお前から会いに行け。」
「しかし父上! こやつらが隠しているに決まっております! ああ可哀想なベレン。
おい! 白状しろ! ベレンはどこだ!?」
それに対してアランもオディロンも口を開かない。無表情でパトリックに視線すら向けない。
「おい! 何とか言え! 直答を許す! 答えろ!」
当主である父、ポールは呆れ顔で最早言う言葉を失ったようである。
依然としてその声に返事をする者はいない。
「そうかお前達、どうあってもベレンの行方を隠すつもりだな。口を開くと秘密が漏れるため黙秘を貫いているのだな!
ならば是非もなし! 剣にて口を開かせるのみ! 抜け! 勝負だ!」
ここでアランが嫌そうに口を開いた。
「ダキテーヌ卿、これは決闘を申し込まれたと考えてよいのでしょうね?
相手は私かオディロンか、どちらにしましょうか?」
「ち、違うのだ! 待ってくれ!
誰か、誰かある! パトリックを摘み出せ! 縛り上げて地下に放り込んでおけ!」
「なっ! 父上!? なぜです! 私が負けるとでもお思いですか! 私が下級貴族風情に負けるはずなっ」
パトリックは猿轡を噛まされ運ばれて行った。命拾いしたことに気付かないのは本人だけなのだろう。
「ダキテーヌ卿、残念ですが万が一、ダキテーヌ家の敷地外で彼に出会ってしまったら手加減はできません。見逃すこともできません。もう遅いのです。」
「う、うむ。すまない。貴殿の言う通りだ。一度決闘を口に出したからには最早撤回できぬ。
妹思いだと分かっていたが、まさかあそこまでとは。ご足労いただいたのに不調法に終わり申し訳ない。」
こうして会談は終わった。
一人の闖入者のために禍根が残った。
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