上 下
89 / 240
第1章

89

しおりを挟む

そして後日、アランとオディロンはダキテーヌ家を訪れた。

「ダキテーヌ卿、本日は御目通りをお許しいただき恐縮でございます。」

「いやマーティン卿、よく来てくれた。私事ですまない。粗方はパスカルから聞いている。今日はただの確認だと思ってくれ。」

「ええ、おそらく大筋はその通りかと。
詳細は何なりとお聞きください。」

「うむ、では一年半前にベレンガリアは出て行ったのだが、なぜその日だったのか、前触れなしに突然だったのが気になっている。心当たりはあるだろうか?」

「それにつきましては私から。
おそらくその日の昼、私はベレンガリア様から相談を受けたのです。内容は、家を出て冒険者か娼婦をやる。だから一緒に冒険者をやらないかと。また一人で冒険者をやるぐらいなら娼婦をやるとも言われておりました。
そして私は、君となら冒険者をやるのもいい、ただしダキテーヌ家を敵に回さないことが条件だと答えました。」

「なるほど、それでベレンガリアは勘当されるべく行動したというわけか。」

「おそらくそうだと思います。ベレンガリア様にも伝えましたが私には意中の女性がおります。そのために冒険者をやっていると言っても過言ではありません。つまり女性としてベレンガリア様に興味はありません。リーダーを任せるに足る、得難いメンバーだとは思いますが。」

「ふむ、それを喜べばいいのか悲しめばいいのか。オディロン君、君に一因はありそうだが責任は皆無か……」

そのまま和やかに会談も終わろうとしていた時、乱暴にドアを開け何者かが乱入してきた。

「貴様か! ベレンを誑かした男は!」

「パトリック! お前は出てくるなと言っただろう。」

「父上は騙されているのです! 純真で可憐なベレンは我々が守ってやらねば!」

「もう話は終わったのだ! ベレンガリアは勘当! それに変わりはない! もう放っておけ!」

「父上! 納得できません! なぜベレンがここにおらず下級貴族風情がいるのですか!
話し合いならベレンも同席するべきでしょう!」

「ベレンガリアは勘当の身だ。我が家の門をくぐることは許されん。会いたいならお前から会いに行け。」

「しかし父上! こやつらが隠しているに決まっております! ああ可哀想なベレン。
おい! 白状しろ! ベレンはどこだ!?」

それに対してアランもオディロンも口を開かない。無表情でパトリックに視線すら向けない。

「おい! 何とか言え! 直答を許す! 答えろ!」

当主である父、ポールは呆れ顔で最早言う言葉を失ったようである。
依然としてその声に返事をする者はいない。

「そうかお前達、どうあってもベレンの行方を隠すつもりだな。口を開くと秘密が漏れるため黙秘を貫いているのだな!
ならば是非もなし! 剣にて口を開かせるのみ! 抜け! 勝負だ!」

ここでアランが嫌そうに口を開いた。

「ダキテーヌ卿、これは決闘を申し込まれたと考えてよいのでしょうね?
相手は私かオディロンか、どちらにしましょうか?」

「ち、違うのだ! 待ってくれ!
誰か、誰かある! パトリックを摘み出せ! 縛り上げて地下に放り込んでおけ!」

「なっ! 父上!? なぜです! 私が負けるとでもお思いですか! 私が下級貴族風情に負けるはずなっ」

パトリックは猿轡を噛まされ運ばれて行った。命拾いしたことに気付かないのは本人だけなのだろう。

「ダキテーヌ卿、残念ですが万が一、ダキテーヌ家の敷地外で彼に出会ってしまったら手加減はできません。見逃すこともできません。もう遅いのです。」

「う、うむ。すまない。貴殿の言う通りだ。一度決闘を口に出したからには最早撤回できぬ。
妹思いだと分かっていたが、まさかあそこまでとは。ご足労いただいたのに不調法に終わり申し訳ない。」

こうして会談は終わった。
一人の闖入者のために禍根が残った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ
ファンタジー
 数年前に没落してしまった元貴族令嬢のエリーゼは、市井で逞しく生きていた。  元貴族令嬢なのに、どうして市井で逞しく生きれるのか…?それは、私には前世の記憶があるからだ。  毒親に殴られたショックで、日本人の庶民の記憶を思い出した私は、毒親を捨てて一人で生きていくことに決めたのだ。  そんな私は15歳の時、仕事終わりに赤ちゃんを見つける。 「えぇー!この赤ちゃんかわいい。天使だわ!」  こんな場所に置いておけないから、とりあえず町の孤児院に連れて行くが… 「拾ったって言っておきながら、本当はアンタが産んで育てられないからって連れてきたんだろう?  若いから育てられないなんて言うな!責任を持ちな!」  孤児院の職員からは引き取りを拒否される私…  はあ?ムカつくー!  だったら私が育ててやるわ!  しかし私は知らなかった。この赤ちゃんが、この後の私の人生に波乱を呼ぶことに…。  誤字脱字、いつも申し訳ありません。  ご都合主義です。    第15回ファンタジー小説大賞で成り上がり令嬢賞を頂きました。  ありがとうございました。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

鉄道英雄伝説 アルファポリス版

葉山宗次郎
ファンタジー
「この世界に魔王でも現れたんですか?」 「戯れ言ほざいたので潰しました」  ある趣味を除いて普通の高校生、玉川昭弥(たまがわてるや)は帰宅途中、光に包まれて気を失い目覚めると異世界にいた。魔法実験の暴走により異世界の国ルテティア王国に転送されてしまったのだ。  意気消沈する昭弥だったが、転送先のルテティア王国は、滅亡の危機に瀕していた。  それは巨人でもドラゴンでも魔王のせいでもなかった。  王国を滅亡に導こうとしていたのは、なんと鉄道のせいだった。  鉄道によって、余所からの商品が来て国内の産業が壊滅状態に陥りつつあったのだ。  なすすべもない王国の女王や貴族は、諦めムードだったが、昭弥は鉄道の二文字を聞いた瞬間、覚醒した。  何を隠そう、昭弥は三度の飯より鉄道が大好きな重度の鉄オタだった。鉄オタの知識で昭弥は王国を救おうと立ち上がる。  勇者でない、鉄オタ高校生が鉄道の知識を生かして英雄になる物語  ネット小説史に残る鉄道発達史をなぞるという前代未聞の怪作ここに発車  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

和風MMOでくノ一やってたら異世界に転移したので自重しない

ペンギン4号
ファンタジー
和風VRMMO『大和伝』で【くノ一】としてプレイしていた高1女子「葵」はゲーム中に突然よく分からない場所に放り出される。  体はゲームキャラそのままでスキルもアイテムも使えるのに、そこは単なるゲームの世界とは思えないほどリアルで精巧な作りをしていた。  異世界転移かもしれないと最初はパニックになりながらもそこにいる人々と触れ合い、その驚異的な身体能力と一騎当千の忍術を駆使し、相棒の豆柴犬である「豆太郎」と旅をする。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...