12 / 240
第1章
12
しおりを挟む
さあ、今日は先生が来る日だ。
昼前には来て我が家で一緒に食事をする予定らしい。
それまでは昨日のようにオディロン兄と修行だ。
「さあオディロンちゃん、カースちゃん。今日も張り切っていきましょうね。お母さんも頑張るわ。」
「「押忍!」」
今更だが武門での返事、挨拶は押忍が一般的らしい。
古の大騎士、オースティン・ド・ベルジュラックに由来するとか。
何事も会話を簡素化することを好んだ彼は、敬称すら無駄と考えていたらしい。
その結果、
おはようございますオースティン・ド・ベルジュラック卿
⇨おはようございますオースティン卿
⇨おはようっすオース卿
⇨おはっすオース
⇨おはオース
⇨押忍
という説がある。
そこから武門では挨拶に費やす時間を少しでも短縮するためにこの返事が尊ばれているらしい。
「さあさあそろそろフェルナンド・モンタギュー先生がいらっしゃいますわ。
お着替えしてお迎えしましょうね。
オディロンちゃんは動きやすい格好にしましょうね。」
そこに、マリーがやって来て、
「奥様、先生がいらっしゃいました。応接室にお通ししてお茶をお出してあります。」
「まあ!いらしてくださったのね!マリーはオディロンちゃんを着替えさせてね。
カースちゃんはこちらにいらっしゃい。」
おお、ついに剣鬼とご対面だ。
ドキドキしてきた。
着替えなくてもいいのか?
ガチャッ
母上と一緒に応接室に入る。
「フェルナンド様、お久しぶりでございます。この度はよくいらしてくれました。
主人も大喜びしております。
フェルナンド様ほどの方に指導をしていただけるなんて天上の幸運ですわ。」
「ド・マーティン騎士爵夫人、お懐かしゅう存ずる。
あれからもう十年は過ぎただろうか。
少し見ない間にまた綺麗になられたようだ。」
うおっ、剣鬼って言うぐらいだから野獣のような男を想像していたが、どうしたことだ。
肩まで自然に伸びた白に近い金髪
細く長い足、なのに全体的に華奢に見えない。
そして特筆すべきはその顔、どこの主人公だよ!
イケメンとかいうレベルではない。
美青年というべきだろうか。
強い眼差し、長い睫毛、白くシミ一つない肌……
剣鬼ってより貴公子とか王子様って感じだ。
父上より年上じゃなかったのか?
父上は確か三十三歳だったか……
「まあフェルナンド様こそ御世辞が達者になられたのね。
貴方様が剣にしか興味を持たれないことは存じてますのよ?
あれから五年ぐらいしか経っておりませんわ。
それにしても水臭いですわ。イザベルとお呼びになって。」
「はっはっは、私も成長したのかも知れませんな。
それで私が指導をするウリエン君はその子かな?」
「まあ御冗談までお上手になられて!
この子は三男のカース、まだ二歳ですわ。
さあカースちゃん、ご挨拶なさい。」
「カース・ド・マーティンです。二歳です。
好きなことは狼ごっこです。」
「うむ、いい挨拶だ。しっかりしたいい子だ! 私が十歳と間違うのも無理はない。
アランの小さい頃そっくりだ。」
冗談でなく本気で間違えてたのか……
もしかして剣にしか興味がないってそういう意味もあるのか……
面白い王子様だ。
父上の小さい頃そっくりってのも怪しくなってきたな。
「さあさあフェルナンド様、ウリエンが帰って来るまで食事にいたしましょう。
本日は私も料理しましたのよ?」
いつの間に?
昨日のうちに下拵えとか済ませてたのか?
「これは楽しみだ。イザベル様の料理の腕はアランから聞いている。
ありがたくご馳走になるとしよう。」
いつの間にかオディロン兄もやって来て挨拶を済ませたようだ。
マリーは後に控えている。
「うむうむ、これは美味しい! 聞きしに勝る腕前! アランが自慢するだけありますな。」
「うふふ、ありがとうございます。ちなみに主人からはフェルナンド様は何を食べても美味しいと言うと聞いておりますわ。」
「アランの奴め、そんなことを言っておりましたか! いやいや、それでもこの料理の数々、感服いたしましたぞ。」
こんな会話が兄上が帰ってくるまで続くのか……
大丈夫なのか……
昼下がりの情事なんて嫌だぞ……
まあ母上の表情はいつも通りだし、先生も剣にしか興味がないって言うし、私が心配することでもないだろう。
「ところで今日の稽古だが、カース君も参加してみないか? きっと楽しいぞ?」
「まあフェルナンド様ったら、カースに剣術はまだ早いですわ。昨日主人にも言ったばかりですわ。」
「なーにイザベル様、今日の稽古、いやこれからしばらくの稽古は剣術ではない。
先程カース君も言っていた狼ごっこをするのですよ。
短くて一週間、長ければ半年間ずっと狼ごっこをするかも知れませんがね。」
「はぁそれならカースちゃんでも参加できそうですわね。他ならぬフェルナンド様のお考えですもの。きっとウリエンのためにもなるのでしょう。
よろしくお願いいたしますわ。」
「やりたーい! 狼ごっこだいすきー!」
まさか狼ごっことは、
以前二歳参りの日に、狼ごっこは騎士になるための体力作りにいいとか適当ぶっこいたのだが、本当にやるとは。
嬉しい誤算だ。
中身がおっさんなのにどうかとは思うが、好きなものは仕方ない。
おっ、兄上が帰ってきた。
さあ、稽古(狼ごっこ)の開始だ。
昼前には来て我が家で一緒に食事をする予定らしい。
それまでは昨日のようにオディロン兄と修行だ。
「さあオディロンちゃん、カースちゃん。今日も張り切っていきましょうね。お母さんも頑張るわ。」
「「押忍!」」
今更だが武門での返事、挨拶は押忍が一般的らしい。
古の大騎士、オースティン・ド・ベルジュラックに由来するとか。
何事も会話を簡素化することを好んだ彼は、敬称すら無駄と考えていたらしい。
その結果、
おはようございますオースティン・ド・ベルジュラック卿
⇨おはようございますオースティン卿
⇨おはようっすオース卿
⇨おはっすオース
⇨おはオース
⇨押忍
という説がある。
そこから武門では挨拶に費やす時間を少しでも短縮するためにこの返事が尊ばれているらしい。
「さあさあそろそろフェルナンド・モンタギュー先生がいらっしゃいますわ。
お着替えしてお迎えしましょうね。
オディロンちゃんは動きやすい格好にしましょうね。」
そこに、マリーがやって来て、
「奥様、先生がいらっしゃいました。応接室にお通ししてお茶をお出してあります。」
「まあ!いらしてくださったのね!マリーはオディロンちゃんを着替えさせてね。
カースちゃんはこちらにいらっしゃい。」
おお、ついに剣鬼とご対面だ。
ドキドキしてきた。
着替えなくてもいいのか?
ガチャッ
母上と一緒に応接室に入る。
「フェルナンド様、お久しぶりでございます。この度はよくいらしてくれました。
主人も大喜びしております。
フェルナンド様ほどの方に指導をしていただけるなんて天上の幸運ですわ。」
「ド・マーティン騎士爵夫人、お懐かしゅう存ずる。
あれからもう十年は過ぎただろうか。
少し見ない間にまた綺麗になられたようだ。」
うおっ、剣鬼って言うぐらいだから野獣のような男を想像していたが、どうしたことだ。
肩まで自然に伸びた白に近い金髪
細く長い足、なのに全体的に華奢に見えない。
そして特筆すべきはその顔、どこの主人公だよ!
イケメンとかいうレベルではない。
美青年というべきだろうか。
強い眼差し、長い睫毛、白くシミ一つない肌……
剣鬼ってより貴公子とか王子様って感じだ。
父上より年上じゃなかったのか?
父上は確か三十三歳だったか……
「まあフェルナンド様こそ御世辞が達者になられたのね。
貴方様が剣にしか興味を持たれないことは存じてますのよ?
あれから五年ぐらいしか経っておりませんわ。
それにしても水臭いですわ。イザベルとお呼びになって。」
「はっはっは、私も成長したのかも知れませんな。
それで私が指導をするウリエン君はその子かな?」
「まあ御冗談までお上手になられて!
この子は三男のカース、まだ二歳ですわ。
さあカースちゃん、ご挨拶なさい。」
「カース・ド・マーティンです。二歳です。
好きなことは狼ごっこです。」
「うむ、いい挨拶だ。しっかりしたいい子だ! 私が十歳と間違うのも無理はない。
アランの小さい頃そっくりだ。」
冗談でなく本気で間違えてたのか……
もしかして剣にしか興味がないってそういう意味もあるのか……
面白い王子様だ。
父上の小さい頃そっくりってのも怪しくなってきたな。
「さあさあフェルナンド様、ウリエンが帰って来るまで食事にいたしましょう。
本日は私も料理しましたのよ?」
いつの間に?
昨日のうちに下拵えとか済ませてたのか?
「これは楽しみだ。イザベル様の料理の腕はアランから聞いている。
ありがたくご馳走になるとしよう。」
いつの間にかオディロン兄もやって来て挨拶を済ませたようだ。
マリーは後に控えている。
「うむうむ、これは美味しい! 聞きしに勝る腕前! アランが自慢するだけありますな。」
「うふふ、ありがとうございます。ちなみに主人からはフェルナンド様は何を食べても美味しいと言うと聞いておりますわ。」
「アランの奴め、そんなことを言っておりましたか! いやいや、それでもこの料理の数々、感服いたしましたぞ。」
こんな会話が兄上が帰ってくるまで続くのか……
大丈夫なのか……
昼下がりの情事なんて嫌だぞ……
まあ母上の表情はいつも通りだし、先生も剣にしか興味がないって言うし、私が心配することでもないだろう。
「ところで今日の稽古だが、カース君も参加してみないか? きっと楽しいぞ?」
「まあフェルナンド様ったら、カースに剣術はまだ早いですわ。昨日主人にも言ったばかりですわ。」
「なーにイザベル様、今日の稽古、いやこれからしばらくの稽古は剣術ではない。
先程カース君も言っていた狼ごっこをするのですよ。
短くて一週間、長ければ半年間ずっと狼ごっこをするかも知れませんがね。」
「はぁそれならカースちゃんでも参加できそうですわね。他ならぬフェルナンド様のお考えですもの。きっとウリエンのためにもなるのでしょう。
よろしくお願いいたしますわ。」
「やりたーい! 狼ごっこだいすきー!」
まさか狼ごっことは、
以前二歳参りの日に、狼ごっこは騎士になるための体力作りにいいとか適当ぶっこいたのだが、本当にやるとは。
嬉しい誤算だ。
中身がおっさんなのにどうかとは思うが、好きなものは仕方ない。
おっ、兄上が帰ってきた。
さあ、稽古(狼ごっこ)の開始だ。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる