92 / 99
杞の国の人が無駄な心配をしてたから杞憂って言うんですって
しおりを挟む
「うはぁ……」
通された応接室の中を見回し、思わず溜息をつく。
「くろーさん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「なんでそんな緊張してんだよ」
「そりゃするだろ」
こんな部屋で待たされて緊張しない訳がない。
真っ白な壁に金色の装飾。ところどころが虹色に光ってるのは貝殻だろうか。
その壁と合わせた調度品。いま正面にあるローテーブルも同じ意匠だ。
触ってみると、金色の装飾は本当に金属だった。たぶん金なんだろうな、これ。
床には毛足の長い絨毯がしかれ、三人並んで座ってるベルベットが張られたソファも中にたっぷりと綿が詰まってる。ふかふかだ。
壁に飾られた風景画も、鮮やかに塗られた花瓶も、そこに飾られた大輪の花も、なにを入れてるのかわからない宝石で飾られた小箱も、どれもこれも一目で、とんでもない高級品だというのがはっきりとわかる。
とにかく豪華で絢爛。リサの応接室は落ち着いてまとめてあって、たぶん高いんだろうなと思わせる感じだったけど、ここはまったく違う。
どれもこれも、私は高いです! と自己主張してくる。
お前らが落ち着いてるのが不思議でしょうがないよ。
「応接室なんて、どこもこんなもの。うちもここまでじゃないけど頑張ってた」
「あたしは凄えんだぞって見せ付ける部屋だかんな。ここ」
「お前ら、高位貴族だったな。そういえば」
こういうのも慣れてるわけか。
「元、高位貴族」
「あたしんとこは子爵家だから、そんなでもねぇけどな」
元を強調すんなよ。悪かったよ。
こっそりと反省していると、コッコッとノックの音。こちらの返事を待たずに扉が開くと、英雄の顔をしたリサが悠然と入ってくる。
外で扉を開く正規兵の姿が見えたが、外に残ったまま扉を閉めてしまった。そんな簡単に一人になっていいんだろうか。
「お待たせして申し訳ありません。オーデール……、ではありませんね。なんと呼べばいいでしょうか?」
俺達の正面のソファへ腰を降ろしながら2人へ問いかける。
「メル。敬称はいらない」
「あたしはエルダで。長い付き合いになんだろうしな」
「そうですね。私のことはクロウくんのようにリサと呼んでください。メル、エルダ」
「わかった。よろしく、リサ」
なんだろうね、穏やかな会話なんだけど、なんか怖い。俺が後ろめたく思ってるせい?
「リサ、悪かったな。会議中なのに」
「いえ、ちょうど休憩を入れたいと思っていたところでしたから」
そう言って俺へ視線を向けるリサ。一瞬だけ英雄の顔から女の顔になる。
「それで、エリカから簡単に聞きましたが、詳しく話してくれますか?」
エリカって誰だっけ。そんな考えを追いやって、砦での出来事から順に、自分の推測を話していく。
揺り籠の不自然な挙動、俺にだけ聞こえた声、俺は何かの目的があってこの世界によばれたのではないか。
それに神殿が絡んでいる可能性。「ミツケタ」が言葉通りの意味なら神殿から接触がある可能性が高い。
その時、神殿は俺に友好的か。俺に友好的だったとしても俺の周囲には? 250年前のような事態になりはしないか。
「だから俺は、周囲に被害がでないような場所で一人待機するか、いっそ一人で神殿へ向かうべきじゃないかと考えてる」
眉間にシワを寄せて俯くリサ。ごめんな、そんな顔させて。
「わたしはくろーさんの考えすぎだと思ってる。理由もなく街を攻撃するなら、この世界はとっくに滅んでる」
それは俺も考えた。考えたけどやっぱ怖いんだよ。
「そう、ですね。確かに杞憂かもしれません」
杞憂? 杞憂って使うのか。あるのか。なんなんだろうな、この世界って。
「ですが、僅かでも可能性があるのなら、そのままにはできませんね。クロウくん」
「はい」
あ、気を抜いてて思わず敬語で返事してしまった。
「正式な対処が決まるまで、東の砦で待機してください。リーゼロッテとミリアは引き上げさせますが、連絡役としてメイアは残します。もう面識は――
「待ちなさい!」
通された応接室の中を見回し、思わず溜息をつく。
「くろーさん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「なんでそんな緊張してんだよ」
「そりゃするだろ」
こんな部屋で待たされて緊張しない訳がない。
真っ白な壁に金色の装飾。ところどころが虹色に光ってるのは貝殻だろうか。
その壁と合わせた調度品。いま正面にあるローテーブルも同じ意匠だ。
触ってみると、金色の装飾は本当に金属だった。たぶん金なんだろうな、これ。
床には毛足の長い絨毯がしかれ、三人並んで座ってるベルベットが張られたソファも中にたっぷりと綿が詰まってる。ふかふかだ。
壁に飾られた風景画も、鮮やかに塗られた花瓶も、そこに飾られた大輪の花も、なにを入れてるのかわからない宝石で飾られた小箱も、どれもこれも一目で、とんでもない高級品だというのがはっきりとわかる。
とにかく豪華で絢爛。リサの応接室は落ち着いてまとめてあって、たぶん高いんだろうなと思わせる感じだったけど、ここはまったく違う。
どれもこれも、私は高いです! と自己主張してくる。
お前らが落ち着いてるのが不思議でしょうがないよ。
「応接室なんて、どこもこんなもの。うちもここまでじゃないけど頑張ってた」
「あたしは凄えんだぞって見せ付ける部屋だかんな。ここ」
「お前ら、高位貴族だったな。そういえば」
こういうのも慣れてるわけか。
「元、高位貴族」
「あたしんとこは子爵家だから、そんなでもねぇけどな」
元を強調すんなよ。悪かったよ。
こっそりと反省していると、コッコッとノックの音。こちらの返事を待たずに扉が開くと、英雄の顔をしたリサが悠然と入ってくる。
外で扉を開く正規兵の姿が見えたが、外に残ったまま扉を閉めてしまった。そんな簡単に一人になっていいんだろうか。
「お待たせして申し訳ありません。オーデール……、ではありませんね。なんと呼べばいいでしょうか?」
俺達の正面のソファへ腰を降ろしながら2人へ問いかける。
「メル。敬称はいらない」
「あたしはエルダで。長い付き合いになんだろうしな」
「そうですね。私のことはクロウくんのようにリサと呼んでください。メル、エルダ」
「わかった。よろしく、リサ」
なんだろうね、穏やかな会話なんだけど、なんか怖い。俺が後ろめたく思ってるせい?
「リサ、悪かったな。会議中なのに」
「いえ、ちょうど休憩を入れたいと思っていたところでしたから」
そう言って俺へ視線を向けるリサ。一瞬だけ英雄の顔から女の顔になる。
「それで、エリカから簡単に聞きましたが、詳しく話してくれますか?」
エリカって誰だっけ。そんな考えを追いやって、砦での出来事から順に、自分の推測を話していく。
揺り籠の不自然な挙動、俺にだけ聞こえた声、俺は何かの目的があってこの世界によばれたのではないか。
それに神殿が絡んでいる可能性。「ミツケタ」が言葉通りの意味なら神殿から接触がある可能性が高い。
その時、神殿は俺に友好的か。俺に友好的だったとしても俺の周囲には? 250年前のような事態になりはしないか。
「だから俺は、周囲に被害がでないような場所で一人待機するか、いっそ一人で神殿へ向かうべきじゃないかと考えてる」
眉間にシワを寄せて俯くリサ。ごめんな、そんな顔させて。
「わたしはくろーさんの考えすぎだと思ってる。理由もなく街を攻撃するなら、この世界はとっくに滅んでる」
それは俺も考えた。考えたけどやっぱ怖いんだよ。
「そう、ですね。確かに杞憂かもしれません」
杞憂? 杞憂って使うのか。あるのか。なんなんだろうな、この世界って。
「ですが、僅かでも可能性があるのなら、そのままにはできませんね。クロウくん」
「はい」
あ、気を抜いてて思わず敬語で返事してしまった。
「正式な対処が決まるまで、東の砦で待機してください。リーゼロッテとミリアは引き上げさせますが、連絡役としてメイアは残します。もう面識は――
「待ちなさい!」
0
お気に入りに追加
1,978
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た
pelonsan
恋愛
ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。
僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。
昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。
去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日……
※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
【R18 】必ずイカせる! 異世界性活
飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。
偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。
ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる