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少しだけ、このままで
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迷う隙を与えないとでも言うように、應汰はまた私の唇を塞ぎ、トロトロにとろけてしまいそうなほど甘いキスをした。
私は心と体の甘い疼きに耐えられず、抗うことも忘れて應汰のキスを受け入れる。
長いキスの後、應汰は私を強く抱きしめ、私の耳元に唇を寄せて切なげな声で囁いた。
「俺は欲しいものは欲しいって言う。俺が欲しいのは芙佳だけだ」
それからしばらくの間、應汰に手を引かれて歩いた。
應汰の手のぬくもりがあまりに心地よくて、このまま離さないで欲しいと思ってしまう。
前を向いて歩く應汰の背中を見ながら、私の中で迷いが生じる。
明日には私はもうここからいなくなるのに、またこんな中途半端な気持ちで應汰に抱かれるの?
会社を辞めて両親のペンションを手伝う事も、勲も應汰も居ない場所で新しい生活を始める事も、一人になって自分を見つめ直す事も、みんな私が決めたのに。
当たり前のように應汰の優しさに甘えてばかりいたら、きっと私はどんどんダメになって、また同じことをくりかえしてしまう。
もう少し一緒にいたいけど……これ以上一緒にいたら、このまま離れられなくなりそうで、怖い。
「待って、應汰……」
私が立ち止まって繋いだ手を引っ張ると、應汰は振り返って私の唇に軽くキスをした。
「俺は芙佳が好きだ。何があってももう絶対に逃げない。だから……」
「ごめん、應汰」
應汰がグッと奥歯を噛みしめたのがわかった。
ここまで言わせておいて、簡単にキスも受け入れたくせに、この期に及んで何を迷うことがあるんだと思っているのかも知れない。
「……俺の事、嫌いか?」
「嫌いなわけないよ……」
「だったら俺と……」
應汰の言葉を遮って、首を横に振った。
「應汰の事、大事だから……もう中途半端な事はしたくないの」
「芙佳……」
應汰の手からゆっくりと手をほどいた。
應汰は離れた手をグッと握りしめて、じっと私の顔を見つめる。
「ごめん、やっぱり今日は帰るね。明日は両親のとこに行く約束してて、朝早いんだ」
「そっか……。じゃあ家まで送ってく」
「ここで大丈夫。應汰……」
「ん?」
「ありがと。じゃあね」
小さく手を振って應汰に背を向けた。
少し歩いたところで應汰が駆け寄って来て、私を後ろから抱きしめた。
「俺、しつこいぞ。あきらめないからな。芙佳が俺の事好きだって言うまで、ずっと言い続けてやるから覚悟してろよ」
應汰らしい言葉に思わず笑みがこぼれる。
こんなに想ってもらえるなんて、それだけでもうじゅうぶん幸せだと思えた。
私は少し伸び上がって、應汰の頬にほんの少し掠めるようなキスをした。
「望むところだ」
私が笑うと應汰は私の額に優しいキスをした。
「おやすみ。気を付けて帰れよ」
「……おやすみ」
應汰の手が、ゆっくりと私から離れた。
会社を辞めた事も、明日には引っ越す事も告げないまま、そこで應汰と別れた。
いつか私の心の傷が癒えて、すべてを受け入れられるようになった時には、應汰が好きだって言えるかな。
應汰はモテるから、その頃には別の人と幸せになっているかも知れないけど……。
駅に向かって歩きながら、應汰の唇の柔らかい感触が残る額に、人差し指でそっと触れた。
最初で最後の應汰のおやすみのキスは、とても優しかった。
私は心と体の甘い疼きに耐えられず、抗うことも忘れて應汰のキスを受け入れる。
長いキスの後、應汰は私を強く抱きしめ、私の耳元に唇を寄せて切なげな声で囁いた。
「俺は欲しいものは欲しいって言う。俺が欲しいのは芙佳だけだ」
それからしばらくの間、應汰に手を引かれて歩いた。
應汰の手のぬくもりがあまりに心地よくて、このまま離さないで欲しいと思ってしまう。
前を向いて歩く應汰の背中を見ながら、私の中で迷いが生じる。
明日には私はもうここからいなくなるのに、またこんな中途半端な気持ちで應汰に抱かれるの?
会社を辞めて両親のペンションを手伝う事も、勲も應汰も居ない場所で新しい生活を始める事も、一人になって自分を見つめ直す事も、みんな私が決めたのに。
当たり前のように應汰の優しさに甘えてばかりいたら、きっと私はどんどんダメになって、また同じことをくりかえしてしまう。
もう少し一緒にいたいけど……これ以上一緒にいたら、このまま離れられなくなりそうで、怖い。
「待って、應汰……」
私が立ち止まって繋いだ手を引っ張ると、應汰は振り返って私の唇に軽くキスをした。
「俺は芙佳が好きだ。何があってももう絶対に逃げない。だから……」
「ごめん、應汰」
應汰がグッと奥歯を噛みしめたのがわかった。
ここまで言わせておいて、簡単にキスも受け入れたくせに、この期に及んで何を迷うことがあるんだと思っているのかも知れない。
「……俺の事、嫌いか?」
「嫌いなわけないよ……」
「だったら俺と……」
應汰の言葉を遮って、首を横に振った。
「應汰の事、大事だから……もう中途半端な事はしたくないの」
「芙佳……」
應汰の手からゆっくりと手をほどいた。
應汰は離れた手をグッと握りしめて、じっと私の顔を見つめる。
「ごめん、やっぱり今日は帰るね。明日は両親のとこに行く約束してて、朝早いんだ」
「そっか……。じゃあ家まで送ってく」
「ここで大丈夫。應汰……」
「ん?」
「ありがと。じゃあね」
小さく手を振って應汰に背を向けた。
少し歩いたところで應汰が駆け寄って来て、私を後ろから抱きしめた。
「俺、しつこいぞ。あきらめないからな。芙佳が俺の事好きだって言うまで、ずっと言い続けてやるから覚悟してろよ」
應汰らしい言葉に思わず笑みがこぼれる。
こんなに想ってもらえるなんて、それだけでもうじゅうぶん幸せだと思えた。
私は少し伸び上がって、應汰の頬にほんの少し掠めるようなキスをした。
「望むところだ」
私が笑うと應汰は私の額に優しいキスをした。
「おやすみ。気を付けて帰れよ」
「……おやすみ」
應汰の手が、ゆっくりと私から離れた。
会社を辞めた事も、明日には引っ越す事も告げないまま、そこで應汰と別れた。
いつか私の心の傷が癒えて、すべてを受け入れられるようになった時には、應汰が好きだって言えるかな。
應汰はモテるから、その頃には別の人と幸せになっているかも知れないけど……。
駅に向かって歩きながら、應汰の唇の柔らかい感触が残る額に、人差し指でそっと触れた。
最初で最後の應汰のおやすみのキスは、とても優しかった。
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