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恋の返り血
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「芙佳だって……俺がどんなに芙佳を好きか、わかってないじゃん……」
應汰が悲しそうにポツリと呟いた。
「……あの人のことをなんの苦労もなく忘れられたら不倫なんてしなかったし、別の人を簡単に好きになれるなら、こんなにつらい思いしてない……」
ひどい事を言っているのは自分でもわかってるけど、それが私の本音なんだと思う。
應汰がどんなに好きだと言ってくれてもその気持ちに応えられないのは、私が今も勲を忘れられないからだ。
「そんなの俺だって同じだよ。簡単にあきらめられないから、芙佳には好きな人がいるってわかってんのに好きだって言い続けてる。あきらめて昔みたいに後悔したくないから」
應汰はそう言って立ち上がり、私のそばに来て静かに腰を下ろした。
「夕べ、一人で泣いてただろ」
「……泣いてないよ」
「嘘つけ。顔見りゃわかる」
私の肩を抱き寄せて胸に顔をうずめさせ、應汰は優しく頭を撫でた。
「泣くなら俺の胸で泣けって言っただろ。もう一人で泣くな」
「無理だよ……。應汰、私が目を閉じたら怒るでしょ。他の男の事考えるなって」
「芙佳のそばにいられるならそれでもいい。芙佳が誰を好きでも、今はあの人の代わりでも……やっぱり俺は芙佳が好きなんだ」
應汰は無理をしてそう言ってくれたんだと思う。
だから私の顔が見えないようにしているのかも知れない。
應汰の胸に顔をうずめて目を閉じたら、やっぱり勲の顔ばかりが浮かんで涙がこぼれた。
誰にも聞いてもらえない不毛な恋の終わりを、自分だけの胸の内に秘めておくのは苦しい。
情けない顔を見られたくなくて、應汰の胸に深くうずめて隠した。
「1か月前にもう来ないでって言ってから、ずっと会ってなかったけど……夕べ突然彼がここに来て、何もかも捨てるから戻って来てくれって言われたの……」
「うん……」
「その気持ちは嬉しかったけど、これ以上誰かを傷付けたくないから終わりにしようって……もう二度と来ないでって言って、終わらせたんだ……」
「……そうか」
「好きだった……。彼のこと……すごく、好きだった……」
「よく頑張ったな、芙佳。今は泣きたいだけ泣け。俺が全部受け止めてやる」
應汰の優しい声が耳の奥に響いた。
もう泣かないでって、應汰は言わないんだね。
應汰は優しく頭を撫でて、いつまでも泣いている私をずっと抱きしめてくれた。
その手は大きくて、優しくて温かかった。
ごめんね、應汰。
私はやっぱり、あなたの腕の中でも勲の事ばかり考えてしまう。
代わりでもいいなんて、ホントは思ってないよね。
私はあなたの優しさに甘えて、傷付けてる。
私の恋の返り血を身体中に浴びて、傷付いた心から自らの血を流して、それでも尚、あなたは私を抱きしめてくれるんだね。
随分時間が経って日が傾き、部屋の中が薄暗くなり始めた頃、私の涙がようやく落ち着いたのを見計らって、應汰が私の手を取り立ち上がった。
「なぁ芙佳、酒でも飲むか」
「お酒……?」
「泣くだけ泣いたら、次はヤケ酒だろ?それくらいは付き合ってやんないとな」
應汰がニヤリと笑った。
その笑顔に少し気がまぎれたのか、私もつられて口元に笑みがこぼれる。
私は服の袖で涙を拭って勢いよく立ち上がった。
應汰が悲しそうにポツリと呟いた。
「……あの人のことをなんの苦労もなく忘れられたら不倫なんてしなかったし、別の人を簡単に好きになれるなら、こんなにつらい思いしてない……」
ひどい事を言っているのは自分でもわかってるけど、それが私の本音なんだと思う。
應汰がどんなに好きだと言ってくれてもその気持ちに応えられないのは、私が今も勲を忘れられないからだ。
「そんなの俺だって同じだよ。簡単にあきらめられないから、芙佳には好きな人がいるってわかってんのに好きだって言い続けてる。あきらめて昔みたいに後悔したくないから」
應汰はそう言って立ち上がり、私のそばに来て静かに腰を下ろした。
「夕べ、一人で泣いてただろ」
「……泣いてないよ」
「嘘つけ。顔見りゃわかる」
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「泣くなら俺の胸で泣けって言っただろ。もう一人で泣くな」
「無理だよ……。應汰、私が目を閉じたら怒るでしょ。他の男の事考えるなって」
「芙佳のそばにいられるならそれでもいい。芙佳が誰を好きでも、今はあの人の代わりでも……やっぱり俺は芙佳が好きなんだ」
應汰は無理をしてそう言ってくれたんだと思う。
だから私の顔が見えないようにしているのかも知れない。
應汰の胸に顔をうずめて目を閉じたら、やっぱり勲の顔ばかりが浮かんで涙がこぼれた。
誰にも聞いてもらえない不毛な恋の終わりを、自分だけの胸の内に秘めておくのは苦しい。
情けない顔を見られたくなくて、應汰の胸に深くうずめて隠した。
「1か月前にもう来ないでって言ってから、ずっと会ってなかったけど……夕べ突然彼がここに来て、何もかも捨てるから戻って来てくれって言われたの……」
「うん……」
「その気持ちは嬉しかったけど、これ以上誰かを傷付けたくないから終わりにしようって……もう二度と来ないでって言って、終わらせたんだ……」
「……そうか」
「好きだった……。彼のこと……すごく、好きだった……」
「よく頑張ったな、芙佳。今は泣きたいだけ泣け。俺が全部受け止めてやる」
應汰の優しい声が耳の奥に響いた。
もう泣かないでって、應汰は言わないんだね。
應汰は優しく頭を撫でて、いつまでも泣いている私をずっと抱きしめてくれた。
その手は大きくて、優しくて温かかった。
ごめんね、應汰。
私はやっぱり、あなたの腕の中でも勲の事ばかり考えてしまう。
代わりでもいいなんて、ホントは思ってないよね。
私はあなたの優しさに甘えて、傷付けてる。
私の恋の返り血を身体中に浴びて、傷付いた心から自らの血を流して、それでも尚、あなたは私を抱きしめてくれるんだね。
随分時間が経って日が傾き、部屋の中が薄暗くなり始めた頃、私の涙がようやく落ち着いたのを見計らって、應汰が私の手を取り立ち上がった。
「なぁ芙佳、酒でも飲むか」
「お酒……?」
「泣くだけ泣いたら、次はヤケ酒だろ?それくらいは付き合ってやんないとな」
應汰がニヤリと笑った。
その笑顔に少し気がまぎれたのか、私もつられて口元に笑みがこぼれる。
私は服の袖で涙を拭って勢いよく立ち上がった。
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