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嫉妬する資格なんかない
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「キス……していい?」
改めてしていいかと尋ねられると、無性に恥ずかしい気がした。
應汰とキスするのは初めてじゃない。
でもデートした時に應汰は、私が應汰を好きになるまで待つと言った。
私は應汰の事が好き?
それともまだ……。
返事ができない私の髪にそっと口付けて、應汰は私からゆっくりと手を離した。
ホッとして体の力が抜けた途端、自分の手が小刻みに震えていることに気付く。
「腹減った。飯にしよう」
「あ……うん……」
すぐに背を向けてしまった應汰の表情を見る事はできなかった。
應汰は何事もなかったように、私の作ったパスタを美味しいと言って食べてくれた。
だけど私はなんとなくさっきのことが気になって落ち着かない。
「そうだ、ビールでも飲もうか。確か冷蔵庫にあったよね?」
「いや、いい。飲むと芙佳を送って行けなくなるからやめとく」
いつもなら食事をしながら一緒にお酒を飲むのに、どうして今日はそんなこと言うんだろう?
「私なら一人で帰れるから、飲んで大丈夫だよ」
「芙佳が泊まるなら飲む」
冗談とも本気とも取れる應汰の言葉にドキッとした。
いくらなんでもそれはダメだ。
もし本当に泊まったら、今度こそ未遂じゃ済まなくなる。
「いや……それはちょっと」
「だろうな。冗談だ」
應汰は私と目も合わせず、ぶっきらぼうにそう言ってパスタを口に運んだ。
……なんだ、冗談だったのか。
冗談を真に受けてしまったなんて恥ずかしい。
食事の後はコーヒーを飲みながら他愛ない話をした。
さっきから應汰が、私と目を合わせようとしない。
いつもはこっちがちょっと戸惑うくらいまっすぐに目を見て話すのに、私の視線を避けるように目をそらしているような気がする。
しばらくすると、應汰が時計を見た。
時刻はまもなく9時になるところだ。
應汰はコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置いて立ち上がる。
「そろそろ送ってく」
「ん?うん……ありがとう」
いつもはこの時間なら帰ろうなんてまだ言わないのに、ホントに今日はどうしたんだろう?
週末だし、店を探して歩き回っていたから疲れているのかな。
そんなことを考えながらカップに残っていたコーヒーを飲んでいると、應汰が立ち上がって部屋着を脱ぎ、苛立たしげにベッドの上に投げ捨てた。
なんとなく目のやり場に困って上半身裸の應汰から目をそらすと、應汰は私の腕を強い力で引っ張った。
その勢いで裸の胸にダイブした私の体を、應汰はギュッと抱きしめる。
突然應汰の素肌に包まれた私の鼓動が、どんどん速くなって行く。
「まだ……俺より彼氏が好き?」
どこか頼りなげな声で應汰が呟いた。
私はその言葉に何も答えられず、應汰の腕の中でうつむく。
私を抱きしめる腕に力がこもるのがわかった。
「こんなに毎日一緒にいて、芙佳が好きだって言ってるのに……全然伝わらないんだな。どれくらい好きだって言えば芙佳に伝わるんだろう……」
應汰の声が切なげに震えた。
素肌の胸に押し付けられた頬が熱い。
應汰の鼓動を聞きながら目を閉じた。
このまま應汰が無理やりにでも私を奪ってくれたら、私は勲への気持ちを忘れられる?
私はおそるおそる應汰の背中に手をまわそうとした。
その時不意に勲に手を握られた事が思い出されて、私はその手をギュッと握りしめた。
應汰を抱きしめる事を躊躇した私の手は、行く宛を失って宙をさまよう。
「俺とこうしてる間も、芙佳は彼氏の事考えてるんだって思うと……おかしくなりそうだ……」
心の中を見透かされたようで、さっきまで温かかった應汰の胸に急に居心地の悪さを感じて離れようとすると、應汰はそれを許さないとでも言うかのように更に強く私を抱きしめた。
改めてしていいかと尋ねられると、無性に恥ずかしい気がした。
應汰とキスするのは初めてじゃない。
でもデートした時に應汰は、私が應汰を好きになるまで待つと言った。
私は應汰の事が好き?
それともまだ……。
返事ができない私の髪にそっと口付けて、應汰は私からゆっくりと手を離した。
ホッとして体の力が抜けた途端、自分の手が小刻みに震えていることに気付く。
「腹減った。飯にしよう」
「あ……うん……」
すぐに背を向けてしまった應汰の表情を見る事はできなかった。
應汰は何事もなかったように、私の作ったパスタを美味しいと言って食べてくれた。
だけど私はなんとなくさっきのことが気になって落ち着かない。
「そうだ、ビールでも飲もうか。確か冷蔵庫にあったよね?」
「いや、いい。飲むと芙佳を送って行けなくなるからやめとく」
いつもなら食事をしながら一緒にお酒を飲むのに、どうして今日はそんなこと言うんだろう?
「私なら一人で帰れるから、飲んで大丈夫だよ」
「芙佳が泊まるなら飲む」
冗談とも本気とも取れる應汰の言葉にドキッとした。
いくらなんでもそれはダメだ。
もし本当に泊まったら、今度こそ未遂じゃ済まなくなる。
「いや……それはちょっと」
「だろうな。冗談だ」
應汰は私と目も合わせず、ぶっきらぼうにそう言ってパスタを口に運んだ。
……なんだ、冗談だったのか。
冗談を真に受けてしまったなんて恥ずかしい。
食事の後はコーヒーを飲みながら他愛ない話をした。
さっきから應汰が、私と目を合わせようとしない。
いつもはこっちがちょっと戸惑うくらいまっすぐに目を見て話すのに、私の視線を避けるように目をそらしているような気がする。
しばらくすると、應汰が時計を見た。
時刻はまもなく9時になるところだ。
應汰はコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置いて立ち上がる。
「そろそろ送ってく」
「ん?うん……ありがとう」
いつもはこの時間なら帰ろうなんてまだ言わないのに、ホントに今日はどうしたんだろう?
週末だし、店を探して歩き回っていたから疲れているのかな。
そんなことを考えながらカップに残っていたコーヒーを飲んでいると、應汰が立ち上がって部屋着を脱ぎ、苛立たしげにベッドの上に投げ捨てた。
なんとなく目のやり場に困って上半身裸の應汰から目をそらすと、應汰は私の腕を強い力で引っ張った。
その勢いで裸の胸にダイブした私の体を、應汰はギュッと抱きしめる。
突然應汰の素肌に包まれた私の鼓動が、どんどん速くなって行く。
「まだ……俺より彼氏が好き?」
どこか頼りなげな声で應汰が呟いた。
私はその言葉に何も答えられず、應汰の腕の中でうつむく。
私を抱きしめる腕に力がこもるのがわかった。
「こんなに毎日一緒にいて、芙佳が好きだって言ってるのに……全然伝わらないんだな。どれくらい好きだって言えば芙佳に伝わるんだろう……」
應汰の声が切なげに震えた。
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このまま應汰が無理やりにでも私を奪ってくれたら、私は勲への気持ちを忘れられる?
私はおそるおそる應汰の背中に手をまわそうとした。
その時不意に勲に手を握られた事が思い出されて、私はその手をギュッと握りしめた。
應汰を抱きしめる事を躊躇した私の手は、行く宛を失って宙をさまよう。
「俺とこうしてる間も、芙佳は彼氏の事考えてるんだって思うと……おかしくなりそうだ……」
心の中を見透かされたようで、さっきまで温かかった應汰の胸に急に居心地の悪さを感じて離れようとすると、應汰はそれを許さないとでも言うかのように更に強く私を抱きしめた。
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