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不毛な関係
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翌朝、いつものようにまだ人もまばらなうちに出社すると、デスクの上に缶コーヒーが置かれていた。
いつもの事だ。
彼が私と一緒にいる時に奥さんからの電話で急に帰った翌朝は、必ずデスクの上に缶コーヒーが1本置かれている。
お詫びのつもりなんだろうか。
安いお詫びだな。
席に座り缶コーヒーのタブを開けようとすると、橋本主任が私の横に立った。
「河合」
「おはようございます」
何食わぬ顔をして挨拶をするのも慣れたものだ。
まさか橋本主任と私が不倫をしているなんて、社内の誰も思っていないだろう。
「今日の会議、時間が1時から2時に変更になった。あとこれ、追加の資料」
「わかりました」
資料を手渡すと、橋本主任は自分の席に戻った。
受け取ったその資料には、付箋が貼り付けられていた。
【芙佳、夕べはごめん。
愛してるから機嫌直して。
今度の金曜、行ってもいい?】
……中学生か。
誰かにバレたらどうするのよ。
資料から剥がした付箋を手の中でクシャッと丸めて、制服のポケットに突っ込んだ。
同じ部署の上司と部下が不倫しているなんて誰かに知られたら、たちまち噂が広がって私も彼もただじゃ済まないだろう。
こんな関係、愛も未来もない。
あるのはリスクだけ。
それなのに私たちは、もう3年もこの関係を続けている。
別にこのままでいいとは思っていないし、不倫がしたいわけでもない。
彼氏だと思っていた人に、いつの間にか奥さんがいた。
それだけだ。
仕事の合間にコーヒーを飲みながら、ぼんやりと窓の外を眺めた。
今朝の朝礼で、2年後輩の田村 舞が今月末で結婚退職すると報告があった。
結婚後は相手の仕事の都合で関西に引っ越すそうだ。
結婚退職だから何?って感じだけど、確か少し前まで舞は営業部の山岸 應汰と付き合っていたはず。
いつの間に別れたんだろう?
應汰とは高校時代の同級生で、大学は別になったけど偶然この会社に同期入社した。
一時期同じ部署にいた事もあるから、顔を合わせるとよく話すし、たまに一緒に飲みに行ったりするくらいは仲がいい。
そこでいつも恋愛相談やらノロケ話やらを聞かされるわけだが、二人が別れたとは聞いていなかった。
今までは彼女と別れたら、必ず私相手にやけ酒を飲んでウダウダ言っていたのに。
應汰は私に彼女の事をあれこれ話すけれど、私はもちろん自分の事は詳しく話さない。
いくら仲の良い同期の應汰でも、上司と不倫しているなんて、さすがに言えない。
当たり障りなく、『歳上の彼氏がいるにはいるけど、彼が仕事で忙しくてあまり会えない』とだけ言っておいた。
應汰には『結婚は考えないのか?』と聞かれたけれど、『結婚できる相手なら考えてるよ』とは言えないので、『そのうち考える』と答えた。
そのうちったって、3年もこんな関係を続けているうちに、私ももう28歳だ。
ホントのとこ言うと、彼……橋本 勲の事は好きだけれど、そろそろ前向きに付き合える人との恋愛がしたい。
勲の言う『愛してる』には愛がない。
勲は奥さんと別れる気なんてない。
だけど、私と別れる気もない。
ひどい男。
いつもの事だ。
彼が私と一緒にいる時に奥さんからの電話で急に帰った翌朝は、必ずデスクの上に缶コーヒーが1本置かれている。
お詫びのつもりなんだろうか。
安いお詫びだな。
席に座り缶コーヒーのタブを開けようとすると、橋本主任が私の横に立った。
「河合」
「おはようございます」
何食わぬ顔をして挨拶をするのも慣れたものだ。
まさか橋本主任と私が不倫をしているなんて、社内の誰も思っていないだろう。
「今日の会議、時間が1時から2時に変更になった。あとこれ、追加の資料」
「わかりました」
資料を手渡すと、橋本主任は自分の席に戻った。
受け取ったその資料には、付箋が貼り付けられていた。
【芙佳、夕べはごめん。
愛してるから機嫌直して。
今度の金曜、行ってもいい?】
……中学生か。
誰かにバレたらどうするのよ。
資料から剥がした付箋を手の中でクシャッと丸めて、制服のポケットに突っ込んだ。
同じ部署の上司と部下が不倫しているなんて誰かに知られたら、たちまち噂が広がって私も彼もただじゃ済まないだろう。
こんな関係、愛も未来もない。
あるのはリスクだけ。
それなのに私たちは、もう3年もこの関係を続けている。
別にこのままでいいとは思っていないし、不倫がしたいわけでもない。
彼氏だと思っていた人に、いつの間にか奥さんがいた。
それだけだ。
仕事の合間にコーヒーを飲みながら、ぼんやりと窓の外を眺めた。
今朝の朝礼で、2年後輩の田村 舞が今月末で結婚退職すると報告があった。
結婚後は相手の仕事の都合で関西に引っ越すそうだ。
結婚退職だから何?って感じだけど、確か少し前まで舞は営業部の山岸 應汰と付き合っていたはず。
いつの間に別れたんだろう?
應汰とは高校時代の同級生で、大学は別になったけど偶然この会社に同期入社した。
一時期同じ部署にいた事もあるから、顔を合わせるとよく話すし、たまに一緒に飲みに行ったりするくらいは仲がいい。
そこでいつも恋愛相談やらノロケ話やらを聞かされるわけだが、二人が別れたとは聞いていなかった。
今までは彼女と別れたら、必ず私相手にやけ酒を飲んでウダウダ言っていたのに。
應汰は私に彼女の事をあれこれ話すけれど、私はもちろん自分の事は詳しく話さない。
いくら仲の良い同期の應汰でも、上司と不倫しているなんて、さすがに言えない。
当たり障りなく、『歳上の彼氏がいるにはいるけど、彼が仕事で忙しくてあまり会えない』とだけ言っておいた。
應汰には『結婚は考えないのか?』と聞かれたけれど、『結婚できる相手なら考えてるよ』とは言えないので、『そのうち考える』と答えた。
そのうちったって、3年もこんな関係を続けているうちに、私ももう28歳だ。
ホントのとこ言うと、彼……橋本 勲の事は好きだけれど、そろそろ前向きに付き合える人との恋愛がしたい。
勲の言う『愛してる』には愛がない。
勲は奥さんと別れる気なんてない。
だけど、私と別れる気もない。
ひどい男。
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