90 / 95
暴かれた真実
2
しおりを挟む
「杏お嬢さんの顔に泥をって……穂高、おまえ一体何をしたんだ?!」
僕の知らない男性の一人が青ざめた。
あれは誰かと僕が小声で尋ねると、ばあちゃんがこそっと教えてくれた。
どうやらその男性はイチキの御曹司の父親、すなわちイチキコーポレーションの社長らしい。
「な……なんの事ですか?」
上ずった声でイチキの御曹司が尋ねると、お祖父様は冷たく鋭い目をしてニヤリと笑った。
「しらばっくれるか?おまえは鴫野くんの同僚を買収しただろう。調べはついている。おまえの小さい頃からのお家芸だな」
お祖父様はイチキの御曹司が子供の頃にはたらいていた悪事もお見通しのようだった。
そして一体どうやって調べあげたのか、イチキの御曹司が渡部さんに僕のメニューのデータを盗ませたんだそうだ。
お祖父様の話によると、渡部さん本人から聞き出したところ、渡部さんは有澤家の令嬢で決められた婚約者がいるのに僕と一緒に暮らしている事を社内の人間にバラされたくなければ僕と別れろと、杏さんを脅したらしい。
もちろんその情報はイチキの御曹司から得た物だ。
ついでに言うと渡部さんはその時、僕が好きなのは渡部さんで、僕と付き合っていると杏さんに言ったそうだ。
僕自身が知らない所でそんな話をされていた事に驚いた。
だから杏さんは急に昼休みを別々に過ごそうとか、弁当はいらないと言ったり、社泊の日が増えたり、僕と距離を取ろうとしたのかも知れない。
結局渡部さんはイチキの御曹司の口車に乗り、自分をフッた僕と、僕と別れなかった杏さんへの仕返しに、僕のメニューのデータを盗んだ。
その見返りは多額の金銭と、イチキコーポレーション本社広報部への再就職だったそうだ。
イチキの御曹司は渡部さんに盗ませたデータを自分が趣味で作ったレシピとして、例のシニア向けサービスの商品開発部で働く知人に「自由に使っていいからぜひ参考にしてくれ」と言って渡したらしい。
事細かに自分の悪事を調べあげられたイチキの御曹司は、物も言わず青ざめた顔で唇を噛んでいた。
イチキの社長は息子のしでかした事を知って、お祖父様に平謝りだ。
その姿はちょっと気の毒に思えた。
「市来、杏と穂高の縁談はなかった事にしてくれ」
お祖父様はイチキの社長にそう言い渡すと、イチキの御曹司に視線を向けた。
「いくら好きでも、おまえのようなあざとい男にかわいい孫は任せられん。いい歳をして親の地位や財力にばかり頼っていないで、性根を入れ替えて一からやり直せ」
お祖父様の厳しいお叱りの言葉に、イチキの御曹司はガックリうなだれた。
お祖父様がイチキの社長の方を見ながらクイッと顎でドアの方を指し示すと、イチキの社長は深々と頭を下げて、御曹司を連れて病室を後にした。
ゆっくりドアが閉まると、お祖父様は杏さんに向かって穏やかに笑った。
「さて……穂高との縁談はこれで完全に白紙になった。杏は本当に結婚したい相手と一緒になりなさい。もちろん会社は継いでもらうがな」
「えっ……?」
僕の知らない男性の一人が青ざめた。
あれは誰かと僕が小声で尋ねると、ばあちゃんがこそっと教えてくれた。
どうやらその男性はイチキの御曹司の父親、すなわちイチキコーポレーションの社長らしい。
「な……なんの事ですか?」
上ずった声でイチキの御曹司が尋ねると、お祖父様は冷たく鋭い目をしてニヤリと笑った。
「しらばっくれるか?おまえは鴫野くんの同僚を買収しただろう。調べはついている。おまえの小さい頃からのお家芸だな」
お祖父様はイチキの御曹司が子供の頃にはたらいていた悪事もお見通しのようだった。
そして一体どうやって調べあげたのか、イチキの御曹司が渡部さんに僕のメニューのデータを盗ませたんだそうだ。
お祖父様の話によると、渡部さん本人から聞き出したところ、渡部さんは有澤家の令嬢で決められた婚約者がいるのに僕と一緒に暮らしている事を社内の人間にバラされたくなければ僕と別れろと、杏さんを脅したらしい。
もちろんその情報はイチキの御曹司から得た物だ。
ついでに言うと渡部さんはその時、僕が好きなのは渡部さんで、僕と付き合っていると杏さんに言ったそうだ。
僕自身が知らない所でそんな話をされていた事に驚いた。
だから杏さんは急に昼休みを別々に過ごそうとか、弁当はいらないと言ったり、社泊の日が増えたり、僕と距離を取ろうとしたのかも知れない。
結局渡部さんはイチキの御曹司の口車に乗り、自分をフッた僕と、僕と別れなかった杏さんへの仕返しに、僕のメニューのデータを盗んだ。
その見返りは多額の金銭と、イチキコーポレーション本社広報部への再就職だったそうだ。
イチキの御曹司は渡部さんに盗ませたデータを自分が趣味で作ったレシピとして、例のシニア向けサービスの商品開発部で働く知人に「自由に使っていいからぜひ参考にしてくれ」と言って渡したらしい。
事細かに自分の悪事を調べあげられたイチキの御曹司は、物も言わず青ざめた顔で唇を噛んでいた。
イチキの社長は息子のしでかした事を知って、お祖父様に平謝りだ。
その姿はちょっと気の毒に思えた。
「市来、杏と穂高の縁談はなかった事にしてくれ」
お祖父様はイチキの社長にそう言い渡すと、イチキの御曹司に視線を向けた。
「いくら好きでも、おまえのようなあざとい男にかわいい孫は任せられん。いい歳をして親の地位や財力にばかり頼っていないで、性根を入れ替えて一からやり直せ」
お祖父様の厳しいお叱りの言葉に、イチキの御曹司はガックリうなだれた。
お祖父様がイチキの社長の方を見ながらクイッと顎でドアの方を指し示すと、イチキの社長は深々と頭を下げて、御曹司を連れて病室を後にした。
ゆっくりドアが閉まると、お祖父様は杏さんに向かって穏やかに笑った。
「さて……穂高との縁談はこれで完全に白紙になった。杏は本当に結婚したい相手と一緒になりなさい。もちろん会社は継いでもらうがな」
「えっ……?」
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
あさの紅茶
恋愛
学生のときにストーカーされたことがトラウマで恋愛に二の足を踏んでいる、橘和花(25)
仕事はできるが恋愛は下手なエリートチーム長、佐伯秀人(32)
職場で気分が悪くなった和花を助けてくれたのは、通りすがりの佐伯だった。
「あの、その、佐伯さんは覚えていらっしゃらないかもしれませんが、その節はお世話になりました」
「……とても驚きましたし心配しましたけど、元気な姿を見ることができてほっとしています」
和花と秀人、恋愛下手な二人の恋はここから始まった。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
冷酷社長に甘く優しい糖分を。
氷萌
恋愛
センター街に位置する高層オフィスビル。
【リーベンビルズ】
そこは
一般庶民にはわからない
高級クラスの人々が生活する、まさに異世界。
リーベンビルズ経営:冷酷社長
【柴永 サクマ】‐Sakuma Shibanaga-
「やるなら文句・質問は受け付けない。
イヤなら今すぐ辞めろ」
×
社長アシスタント兼雑用
【木瀬 イトカ】-Itoka Kise-
「やります!黙ってやりますよ!
やりゃぁいいんでしょッ」
様々な出来事が起こる毎日に
飛び込んだ彼女に待ち受けるものは
夢か現実か…地獄なのか。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
スパダリ外交官からの攫われ婚
花室 芽苳
恋愛
「お前は俺が攫って行く――」
気の乗らない見合いを薦められ、一人で旅館の庭に佇む琴。
そんな彼女に声をかけたのは、空港で会った嫌味な男の加瀬 志翔。
継母に決められた将来に意見をする事も出来ず、このままでは望まぬ結婚をする事になる。そう呟いた琴に、志翔は彼女の身体を引き寄せて
――――
「私、そんな所についてはいけません!」
「諦めろ、向こうではもう俺たちの結婚式の準備が始められている」
そんな事あるわけない! 琴は志翔の言葉を信じられず疑ったままだったが、ついたパリの街で彼女はあっという間に美しい花嫁にされてしまう。
嫌味なだけの男だと思っていた志翔に気付けば溺愛され、逃げる事も出来なくなっていく。
強引に引き寄せられ、志翔の甘い駆け引きに琴は翻弄されていく。スパダリな外交官と純真無垢な仲居のロマンティック・ラブ!
表紙イラスト おこめ様
Twitter @hakumainter773
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
セフレはバツイチ上司
狭山雪菜
恋愛
「浮気というか他の方とSEXするつもりなら、事前に言ってください、ゴムつけてもらいます」
「ぷっくく…分かった、今の所随分と他の人としてないし、したくなったらいうよ」
ベッドで正座をする2人の頓珍漢な確認事項が始まった
町田優奈 普通のOL 28歳
これから、上司の峰崎優太郎みねざきゆうたろう42歳に抱かれる
原因は…私だけど、了承する上司も上司だ
お互い絶倫だと知ったので、ある約束をする
セフレ上司との、恋
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる