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初めての夫婦喧嘩(?)で新妻爆発する~なぜそんなものを犬に食わせようとした?~

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なるほど、多くの女子がこの無自覚イケメンの犠牲になったということだな。

「尚史って、ホントやな男だね」
「えっ……」
「そういうの一番ひどいと思う。女の敵だよ」

私が冷たく放った一言に、尚史は大きく目を見開いたあと、がっくりと肩を落とした。
嫌われたと思ったかな?
本当は聞きたくもない話を長々と聞いてあげたんだから、これくらいの意地悪をしても許されるよね?

「モモ、それってもしかして……」
「あっ、御飯炊けてるみたいだね。お腹空いたし、晩御飯にしよう」
「ああ……うん……」

尚史の作ったカレーを温め直し、炊きたての御飯にたっぷり掛けて、二人で向かい合って食べた。
野菜の大きさは少々不揃いではあったけど、しっかり火も通っていたし、『味にはあんまり自信がない』と言っていたわりにうまくできている。
私と同じ料理初心者の尚史が、一人でこんなに上手にカレーを作れたのがちょっと悔しくて、私は「美味しい」とは言わず黙々とスプーンを口に運んだ。
尚史はさっきからずっと私の様子を窺っている。

「あのさ、モモ……」
「何?」
「えっと……美味しい?」

本当はもっと別のこと、おそらくさっきの『一緒にいてください』の返事を聞きたかったんだろう。
それはわかっているけれど、意地悪な私はあえて気付かないふりをした。

「……普通」
「そっか……」

さらに肩を落としてしょんぼりしている尚史を見ていると、自分が意地悪したにもかかわらず、だんだんかわいそうになってきた。
せっかく私のために頑張って作ってくれたのに、あんまり可愛げのないことばかり言っていると、私の方が嫌われてしまうかも。
ここは素直に、美味しくできていることを認めよう。

「嘘、美味しいよ。ありがとね」
「……うん」

私がお礼を言うと尚史は少しホッとしたのか、嬉しそうに微笑んだ。
あんなにひどいことを言ったのに、それでも尚史は私を愛してると言ってくれた。
私も素直に謝って、ちゃんと仲直りしよう。
これからも尚史とずっと一緒にいたいから。


食事を終えると、尚史は使い終わったお皿やグラスを持って立ち上がった。

「片付けは俺がやっとくから、モモは先に風呂に入って」

良き夫の鑑のように優しい尚史の言葉には感動したけれど、やってもらってばかりと言うのも申し訳ない。

「私はあとでいいから、尚史が先に入って。カレー作ってもらったし片付けは私がする」
「そんなのいいから、風呂入りな」

なぜそんなにお風呂を勧めるのだ?
もしかして私、汗くさい?
それとも尚史はそんなに食器洗いがしたいのか?
まさか、私にはお皿もまともに洗えないとでも思ってる?

「いいよ、私がするから」
「いや、俺がする」
「いや、私が」

たいした量の洗い物でもないのに、二人でキッチンに立って一歩も譲らず、向かい合ったまま攻防戦が続いた。

「ねぇ、なんで?まだ何か隠してる?」
「隠してるって言うか……だってほら、風呂に入ったらコンタクト外すから」
「えっ……?尚史、コンタクトしてたの?」
「就職を機にコンタクトにしたんだよ。仕事中によく見えないのは困るし、しょっちゅうモモと会うから」

眼鏡に続き、尚史がコンタクトレンズを使用していることも私には初耳だった。
道理で眼鏡を作れと勧めても「見えてるからいらない」と頑なに拒否したわけだ。

「私、知らなかったんだけど」
「言ってないから」
「なんで?」
「モモは俺がよく見えないと思ってるから、なんか見せるときめっちゃ近付くだろ?モモの顔をすぐ近くで見ても怪しまれないと思って言わなかった」

なんだそれ?
たしかに私は尚史に何かを見せるときには、ちゃんと見えるように近付けて見せてあげたりしていた。
そういうときに尚史は、私が見せたものではなくて私の顔を見ていたのか?

「は……?そんな理由?」
「うるさいな!俺は少しでもモモに近付きたかったし、モモの顔を間近で見たかったの!悪いか!」

飽きるほど見慣れた私の顔なんて、間近で見たって楽しいものでもなかろうに。
だけどやっぱり尚史のそういうところが可愛くて、思わず笑ってしまう。

「ふふ……ハハハ………悪くないけどさ……そんな理由で……ふはは……」
「そんなに笑うなよ……。俺は気付かないモモの方がおかしいと思うんだけど」

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