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サプライズはビックリさせてなんぼですが、予期せぬカミングアウトは歓迎しません

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要するにこの人は、私は幼馴染みじゃなければ尚史に好きになってはもらえなかったと、そう言いたいわけね。
そっちがその気なら私も黙ってはいられない。
負けず嫌いの私の闘争心に火がついてしまった。
これくらいのことで取り乱してわめき散らすのはみっともないから、あえて笑って冷静に返してやろう。

「不公平の意味がわからないんだけど。だいたい私は付き合うことになるまで、尚史から好きだって一度も言われたことがなかったんだから、気付くわけないと思うのね。尚史が水野さんからの告白を断ったのは、付き合いたいとか、私以上に好きだと思えなかったからでしょ?私が幼馴染みでも尚史が水野さんを好きなら普通に付き合ってたと思う」

淡々と言葉を返すと、わずかながら水野さんの口元が悔しそうに歪んだのを、私は見逃さなかった。
リナっちは跳び跳ねそうな勢いで、何度も大きくうなずいている。
かなり興奮しているようだ。
──勝ったな。
心の中で勝ちどきをあげようとすると、尚史があわてた様子で私の手をつかんだ。

「モモ、今日はもう遅いしそろそろ帰ろう」
「遅いって、まだ9時だけど?」
「いや、でも明日のこともあるし……」
「尚史はそんなに早く私と二人きりになりたいの?私たちは夫婦でしょ?明日からずっと一緒に暮らすんだから、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。それに私、今水野さんと話してるし」

これにはさすがに水野さんもカチンと来たらしい。
水野さんは面白くなさそうにグラスに手を伸ばし、すごい勢いでビールを飲んだ。

「モモが水野と話してるの、もう聞きたくない。俺も話すことなんかないから早く帰ろう」

尚史はいつも仲間とゲームしていても最後まで付き合う方なのに、こんなに早く帰りたがるのはおかしい。
やっぱり何か私に聞かせたくない話があるんだ。

「私とは話すことなんかないって、ひどいなぁ。それが散々抱いた相手に言う言葉?」

水野さんが笑いながらそう言ったとき、キヨは絶望的な顔を右手で覆った。
兄者は目を大きく見開いて、尚史と水野さんを交互に見ている。
私はと言えば、水野さんの言葉に耳を疑い、一瞬頭の中が真っ白になって絶句した。

「え……?尚史と水野って、昔付き合ってたのか?!」

兄者はオロオロしながら誰にともなく尋ねた。
そんな気はしていたけど、やっぱりそういうことか。
私のイヤな予感は的中したわけだ。
そう思っていたら、水野さんが声をあげて笑った。

「さっきも言ったけど、ヒサは私が何度付き合おうって言っても断った。だから彼女にはなれなかったけどね、ヒサの初めての相手にはなれたし、そのあとも何回もしたよ。ね、ヒサ?」
「おい水野、やめとけ!そんなの今言うことじゃないだろ?」

これ以上荒らすまいと思ったのか、キヨがあわてて止めようとしたけれど、水野さんはまったく聞く耳を持たない。
尚史に女性経験がまったくないとは思っていなかったけれど、尚史と体の関係を持っていた本人からそれを聞かされるとは思わなかった。
ああ、そうか。
だから尚史はあのとき、『男は相手のことがたいして好きじゃなくてもその気にさえなればキスもセックスもできる』と言ったんだ。
実体験だから言えたのかも知れない。
尚史はずっと私のことが好きだったと言ったけど、それとは別のところで性欲を満たしていたと言うことか。

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