上 下
130 / 240
バラ色ごきげんサタデー~ニヤニヤが止まらない~

しおりを挟む
それからしばらくして、光子おばあちゃんが疲れて眠ってしまったあと、尚史は伯母さんに、光子おばあちゃんの今の病状だと何時間くらい外出ができそうかと尋ねた。

「なんとも言えないわね。でもあまり歩けないから外出は車椅子になるし、すごく疲れやすいから遠くまでとか長時間は難しいでしょうね。先生に相談してみましょうか」

伯母さんはナースステーションで、相談したいことがあると言って先生を呼んでもらい、私たちを紹介してくれた。
光子おばあちゃんが私たちの結婚式に出席したいと言って楽しみにしているので、どうしても望みを叶えてあげたいとを話すと、先生は腕組みをして「うーん」と小さく唸った。

「望みは叶えてあげたいけど、今の状態だと院外に出るのは難しいな……。体力も免疫力もないから感染症も怖いし。人の多いところは特にね」
「院内なら車椅子で少しは動いても大丈夫と言うことですか?」
「短時間ならね。車椅子で……そうだな、小一時間程度が限度だね」

病院から出られないとなると、光子おばあちゃんは結婚式に出席どころか、自宅にも帰れない。
それほど光子おばあちゃんの病状は深刻なのだろう。

「でしたら僕たちがこの病院の教会で式を挙げさせてもらって、その式に出席することはできますか?」
「うーん……君たちが式を挙げることはできなくもないけど、教会は敷地の一番端にあるからね……。晴れていても往復だけで20分以上はかかる。それにもし式の日が雨だったら車椅子では移動できないし、濡れて風邪を引いて肺炎でも起こしたら、それが原因で命を落とすことにもなりかねないから、ちょっと許可はできないな」

敷地内であっても、建物の外に出るのは光子おばあちゃんに大きな負担がかかってしまうようだ。
やっぱり写真だけで我慢してもらうしかないのかと私が肩を落としていると、尚史は少し考えるそぶりを見せた。

「正面玄関前のロビーでゴスペルのコンサートなんかも開かれるとうかがったんですが、日曜とか祝日の外来診療がない日に、ロビーをお借りして式を挙げるというのは可能ですか?」

尚史が尋ねると、先生は少し驚いた顔をしたあと、何度も大きくうなずいた。

「なるほど、それはいいね。ロビーなら天気に関係なく車椅子でエレベーターに乗って下りられるし、院外に出る必要がない。それにもし急に具合が悪くなっても医師や看護師がすぐに処置できる。うん、いい考えだ。病院側に掛け合ってみよう」
「ぜひお願いします」

先生に深々と頭を下げたあと、尚史は私の方を向いてニッと笑った。


それから病院を出て車に乗り、昼食を取るために近くのファミレスに入った。
私も尚史もハンバーグランチプレートのドリンクセットを注文して、ドリンクバーでグラスに注いだ飲み物を飲みながら一息つく。

「それにしても……よくあんなの思い付いたね」
「ああ、ロビーで挙式のこと?」
「うん、私は結婚式って言ったら結婚式場で挙げるものだと思ってたから、尚史の発想にビックリした」
「敷地内の教会で結婚式を挙げた医者と看護師がいるって言ってたから、最初はそこもアリだと思ってたんだけど、それも難しいって先生が言ったから。先週お見舞いに来たときにロビーのステンドグラス見て、でっかい教会みたいだと思ってさ。ロビーで式を挙げたりもできるのかなーって考えてた」

確かに先週の土曜日にお見舞いに来たとき、尚史はステンドグラスを見て教会みたいだと言っていた。
その時点で私たちはまだ結婚することにはなっていなかったけど、尚史は絶対に私と結婚するつもりでいたと言うことなんだろう。
ずっと幼馴染みだった私たちが、光子おばあちゃんの思い込みの一言でその日のうちに結婚することになって、翌日には入籍したのだから、人生って本当に何が起こるかわからない。

しおりを挟む

処理中です...