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どうもくすぶるなと思ったら私は餅を焼いていたらしい~気付いたときにはすでに飼い慣らされておりまして~
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……なんだ、電話の相手はやっぱり谷口さんか。
そんなに谷口さんが好きなら、私のところへ来なくても谷口さんに会いに行けばいいじゃないか。
尚史は私が眠っていると思い込んで、私に隠れてこそこそ電話して、私が何も知らないと思って谷口さんと二人で会うんだ。
婚約者の私に隠れてこっそり会うなんて、これは俗に言う二股というやつなのでは?
尚史も八坂さんと同じなんだと思うと、やっぱり胸がモヤモヤして、なぜか悲しくて涙が溢れた。
「うん、じゃあそれでよろしく」
尚史が電話を切ってこちらを振り返ろうとしたので、私は壁の方に向かってあわてて寝返りを打ち、溢れ出る涙を隠そうと掛け布団に顔をうずめた。
「……モモ?起きてるのか?」
尚史の問いかけには答えず、込み上げる嗚咽をなんとか抑えようとした。
どうして涙が出るのか、何がそんなに悲しいのか。
自分でもわからないけれど、どんなに止めようとしても涙は止まらず、さっきまで痛くてどうしようもなかった胃よりも、胸の方が痛んだ。
この張り裂けんばかりの胸の痛みはなんなんだ?
「うっ、うーっ……」
私はとうとう堪えきれなくなって、布団に顔をうずめたまま嗚咽をもらした。
「大丈夫か?泣くほど痛い?」
尚史はベッドに近付き、心配そうな声でそう言って、大きな手で私の背中をさすった。
心配するふりなんかしなくていいのに。
私の背中をさすったその手で谷口さんに触るんだと思うと、今度はどうしようもなく腹が立って余計に涙が溢れた。
「……触んないで。出てって」
「モモ……?」
「他の人探すから、お情けで結婚なんかしてくれなくていい。だからもうほっといて」
「え……なんで?納得いかないんだけど。俺、なんかモモに嫌われるようなことした?」
「尚史なんか嫌い!大っ嫌い!だから出てって!」
尚史は私の手から無理やり掛け布団を奪い取り、両手で私の顔をガシッとつかんだ。
涙でぐちゃぐちゃになった顔なんか見られたくないのに、その手を必死で払いのけようとしても、尚史の手はびくともしない。
「そこまで俺が嫌いか?だったらせめて理由を言え」
「やだ!言いたくない!」
「またそれかよ!言わなきゃわかんねぇじゃん!」
「だったら一生わかんなくていい!もう幼馴染みもやめる!」
勢いに任せて放ったその言葉は、諸刃の剣のように私の胸にも深く斬りかかった。
恋だか嫉妬だか知らないけれど、私はこんなバカみたいなことで、ずっと大事にしてきた尚史を自ら切り捨てようとしている。
私が尚史を嫌いになんかなるわけないのに、本当は大好きだから一緒にいたいのに、今は尚史と一緒にいるのがつらい。
こんな風に思ったのは初めてだ。
尚史は両手でつかんだ私の顔に自分の顔を近付け、私の額に額を押し当てた。
「ホントに……?俺、もう幼馴染みやめていいの?」
「……やめたかったの?」
「やめたかったよ。でも、モモが好きなのは幼馴染みの俺だってわかってたから、やめたくてもやめられなかった」
最高の幼馴染みだとか、ずっと一緒にいたいと思っていたのは私だけで、尚史はそんなことを考えていたんだ。
私は大人になっても気持ちだけは子どものままで、知らず知らずのうちに尚史を縛り付けていたのだと気付く。
本当は尚史も周りの同年代の男の人と同じように、私のお守りなんかするより、普通に恋愛がしたかったのかも知れない。
「そっか……。ごめんね、今まで気付かなくて。じゃあ……もうやめよう」
そんなに谷口さんが好きなら、私のところへ来なくても谷口さんに会いに行けばいいじゃないか。
尚史は私が眠っていると思い込んで、私に隠れてこそこそ電話して、私が何も知らないと思って谷口さんと二人で会うんだ。
婚約者の私に隠れてこっそり会うなんて、これは俗に言う二股というやつなのでは?
尚史も八坂さんと同じなんだと思うと、やっぱり胸がモヤモヤして、なぜか悲しくて涙が溢れた。
「うん、じゃあそれでよろしく」
尚史が電話を切ってこちらを振り返ろうとしたので、私は壁の方に向かってあわてて寝返りを打ち、溢れ出る涙を隠そうと掛け布団に顔をうずめた。
「……モモ?起きてるのか?」
尚史の問いかけには答えず、込み上げる嗚咽をなんとか抑えようとした。
どうして涙が出るのか、何がそんなに悲しいのか。
自分でもわからないけれど、どんなに止めようとしても涙は止まらず、さっきまで痛くてどうしようもなかった胃よりも、胸の方が痛んだ。
この張り裂けんばかりの胸の痛みはなんなんだ?
「うっ、うーっ……」
私はとうとう堪えきれなくなって、布団に顔をうずめたまま嗚咽をもらした。
「大丈夫か?泣くほど痛い?」
尚史はベッドに近付き、心配そうな声でそう言って、大きな手で私の背中をさすった。
心配するふりなんかしなくていいのに。
私の背中をさすったその手で谷口さんに触るんだと思うと、今度はどうしようもなく腹が立って余計に涙が溢れた。
「……触んないで。出てって」
「モモ……?」
「他の人探すから、お情けで結婚なんかしてくれなくていい。だからもうほっといて」
「え……なんで?納得いかないんだけど。俺、なんかモモに嫌われるようなことした?」
「尚史なんか嫌い!大っ嫌い!だから出てって!」
尚史は私の手から無理やり掛け布団を奪い取り、両手で私の顔をガシッとつかんだ。
涙でぐちゃぐちゃになった顔なんか見られたくないのに、その手を必死で払いのけようとしても、尚史の手はびくともしない。
「そこまで俺が嫌いか?だったらせめて理由を言え」
「やだ!言いたくない!」
「またそれかよ!言わなきゃわかんねぇじゃん!」
「だったら一生わかんなくていい!もう幼馴染みもやめる!」
勢いに任せて放ったその言葉は、諸刃の剣のように私の胸にも深く斬りかかった。
恋だか嫉妬だか知らないけれど、私はこんなバカみたいなことで、ずっと大事にしてきた尚史を自ら切り捨てようとしている。
私が尚史を嫌いになんかなるわけないのに、本当は大好きだから一緒にいたいのに、今は尚史と一緒にいるのがつらい。
こんな風に思ったのは初めてだ。
尚史は両手でつかんだ私の顔に自分の顔を近付け、私の額に額を押し当てた。
「ホントに……?俺、もう幼馴染みやめていいの?」
「……やめたかったの?」
「やめたかったよ。でも、モモが好きなのは幼馴染みの俺だってわかってたから、やめたくてもやめられなかった」
最高の幼馴染みだとか、ずっと一緒にいたいと思っていたのは私だけで、尚史はそんなことを考えていたんだ。
私は大人になっても気持ちだけは子どものままで、知らず知らずのうちに尚史を縛り付けていたのだと気付く。
本当は尚史も周りの同年代の男の人と同じように、私のお守りなんかするより、普通に恋愛がしたかったのかも知れない。
「そっか……。ごめんね、今まで気付かなくて。じゃあ……もうやめよう」
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