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大波乱の土曜日、悩める乙女は胃が痛い ~売り言葉を買ったらアカンやつがついてきた~
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『とりあえず』とか『一応』とか言われると、ものすごく事務的に聞こえる。
まるで業務連絡だ。
普通のカップルのような甘い言葉なんかを期待していたわけではないけど、尚史は私との結婚を幼馴染みの義務みたいに思っているのかも。
「それから新居は会社に近い方がいいか?それともこの辺りの方がお互いの実家が近くて便利かな」
「どっちも便利でいいけど……家賃によるんじゃない?」
「それもそうか。部屋の間取りは2DKか、欲を言えば2LDKか……。どっちにしても部屋はふたつ欲しいだろ」
尚史はどうしても部屋がふたつは欲しいらしいけれど、そこにこだわる理由が私にはよくわからない。
「部屋はふたつって……寝室ともうひとつは何に使うの?客間?」
「いや、俺の部屋とモモの部屋」
「えっ」
まさかの夫婦別室か!
結婚したら同じ部屋で寝るもんだと勝手に思い込んで、これでは私が夜の営みを期待しているみたいじゃないか!
誤解されていたら恥ずかしい……!
「なんだ、モモは俺と一緒に寝たいのか?俺は一緒でも普通に寝られるし、全然かまわないけど?」
一緒に寝たいのかと聞かれた瞬間、抱き枕のように尚史に抱きしめられたことを思い出して一気に血が昇り、顔がカーッと熱くなった。
「……ごめん、それはちょっと……。別にしてください」
「だろ?結婚するって言っても形だけなんだからさ、無理して夫婦らしくしようとしなくても良くね?」
『結婚したんだから当然だろう』と言って急に迫られたりすることはないとわかって少しホッとしたけれど、『形だけ』とハッキリ言われると、『そこに愛なんかない』と念を押されたようで、なんとなく虚しい気がした。
「そっか……。うん、そうだね……」
「名字とか帰る家が一緒になるだけで、あとはこれまで通りだと思えばいいじゃん」
「わかった、そうする」
結婚しても尚史との関係はこれまでと何も変わらないのなら安心して一緒にいられるし、光子おばあちゃんに花嫁姿を見せてあげるという目的が果たせて、私と尚史の結婚式に出たいという光子おばあちゃんの長年の夢も叶えてあげられるんだから、これ以上良い話はない。
そう思うのに、胸がモヤッとしてしまうのはなぜだろう。
おまけに昼間からずっと感じていた胃の痛みがだんだん強くなってきた。
「それから肝心の結婚式のことだけど、おばあちゃんはそんなに遠出もできないだろうし、長時間の式はつらいだろうから……」
尚史が淡々とした口調で結婚後のことを話すのを聞いていると、胃痛がどんどんひどくなっていき、結婚式の話をする頃には痛みに気を取られ尚史の声が耳をすり抜けていた。
尚史はそれに気付かず話を進める。
脂汗を浮かべながら痛む胃を押さえてうつむいていると、尚史はようやく私の異変に気付いた。
「どうした、モモ?顔色悪いぞ」
「ごめん、昼間からずっと胃が痛くて……さっきから痛みがひどくて、全然話聞けてない……」
「だったら遠慮しないでもっと早く言えよ。昨日からいろいろあって疲れたのかもな。薬もらってきてやるから横になってな」
尚史が部屋を出たあと、這うようにしてベッドに上がり、胎児のような姿勢を取って横になった。
昨日から今日にかけていろんなことがありすぎて、私の頭は完全に容量をオーバーしている。
誰でもいいから結婚すると言うのは簡単だったけど、それがいざ現実になると思うと、いろんなことが気になったり不安になったりしてしまう。
なんだろう、このスッキリしないイヤな感じは。
まるで業務連絡だ。
普通のカップルのような甘い言葉なんかを期待していたわけではないけど、尚史は私との結婚を幼馴染みの義務みたいに思っているのかも。
「それから新居は会社に近い方がいいか?それともこの辺りの方がお互いの実家が近くて便利かな」
「どっちも便利でいいけど……家賃によるんじゃない?」
「それもそうか。部屋の間取りは2DKか、欲を言えば2LDKか……。どっちにしても部屋はふたつ欲しいだろ」
尚史はどうしても部屋がふたつは欲しいらしいけれど、そこにこだわる理由が私にはよくわからない。
「部屋はふたつって……寝室ともうひとつは何に使うの?客間?」
「いや、俺の部屋とモモの部屋」
「えっ」
まさかの夫婦別室か!
結婚したら同じ部屋で寝るもんだと勝手に思い込んで、これでは私が夜の営みを期待しているみたいじゃないか!
誤解されていたら恥ずかしい……!
「なんだ、モモは俺と一緒に寝たいのか?俺は一緒でも普通に寝られるし、全然かまわないけど?」
一緒に寝たいのかと聞かれた瞬間、抱き枕のように尚史に抱きしめられたことを思い出して一気に血が昇り、顔がカーッと熱くなった。
「……ごめん、それはちょっと……。別にしてください」
「だろ?結婚するって言っても形だけなんだからさ、無理して夫婦らしくしようとしなくても良くね?」
『結婚したんだから当然だろう』と言って急に迫られたりすることはないとわかって少しホッとしたけれど、『形だけ』とハッキリ言われると、『そこに愛なんかない』と念を押されたようで、なんとなく虚しい気がした。
「そっか……。うん、そうだね……」
「名字とか帰る家が一緒になるだけで、あとはこれまで通りだと思えばいいじゃん」
「わかった、そうする」
結婚しても尚史との関係はこれまでと何も変わらないのなら安心して一緒にいられるし、光子おばあちゃんに花嫁姿を見せてあげるという目的が果たせて、私と尚史の結婚式に出たいという光子おばあちゃんの長年の夢も叶えてあげられるんだから、これ以上良い話はない。
そう思うのに、胸がモヤッとしてしまうのはなぜだろう。
おまけに昼間からずっと感じていた胃の痛みがだんだん強くなってきた。
「それから肝心の結婚式のことだけど、おばあちゃんはそんなに遠出もできないだろうし、長時間の式はつらいだろうから……」
尚史が淡々とした口調で結婚後のことを話すのを聞いていると、胃痛がどんどんひどくなっていき、結婚式の話をする頃には痛みに気を取られ尚史の声が耳をすり抜けていた。
尚史はそれに気付かず話を進める。
脂汗を浮かべながら痛む胃を押さえてうつむいていると、尚史はようやく私の異変に気付いた。
「どうした、モモ?顔色悪いぞ」
「ごめん、昼間からずっと胃が痛くて……さっきから痛みがひどくて、全然話聞けてない……」
「だったら遠慮しないでもっと早く言えよ。昨日からいろいろあって疲れたのかもな。薬もらってきてやるから横になってな」
尚史が部屋を出たあと、這うようにしてベッドに上がり、胎児のような姿勢を取って横になった。
昨日から今日にかけていろんなことがありすぎて、私の頭は完全に容量をオーバーしている。
誰でもいいから結婚すると言うのは簡単だったけど、それがいざ現実になると思うと、いろんなことが気になったり不安になったりしてしまう。
なんだろう、このスッキリしないイヤな感じは。
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