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まな板の上の鯉の気持ち~逃げられない鯉と逃げない鯉の違いはなんだ?~
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金曜日の3時の休憩時間、自販機で買ったミルクティーをすすっていると八坂さんからトークメッセージが届いた。
きっと今夜のことだなと思いながらトーク画面を開き、予想以上の長文に驚く。
【今日は少しだけ残業になりそうだけど6時半には終われると思うので、待っててもらえる?取引先の社長から教えてもらった美味しい創作フレンチの店の予約が取れたから一緒に行こう。それと、同僚からのお土産で日本ではなかなか手に入らないワインをもらったから、食事のあとうちで一緒に飲みませんか?】
この間はイタリアンで、今日は創作フレンチ?
オシャレで高そうな店ばかりだけど、八坂さんって安くて早くて美味しい牛丼とかラーメンなんかは食べない人なんだろうか。
今日もまた緊張してあまり食べられない気がする。
そしてメッセージの最後の方を読んで、何かの間違いじゃないかと画面に並ぶ文字を二度見した。
いきなり八坂さんの部屋にお呼ばれするとは思ってもみなかったけど、おそらく一人暮らしだよね?
八坂さんと密室に二人きりなんて、いくらなんでもハードルが高過ぎる!
まだお付き合いをすると返事をしたわけでもないのに、本当に八坂さんの部屋に行っても良いものだろうか。
でも単純になかなか手に入らないワインを振る舞ってくれるだけのつもりでそう言っているのかも知れないのに、深読みしてお断りするのも申し訳ない。
「モモ、難しい顔してどうしたの?めんどくさい業務連絡でも届いた?」
隣でコーヒーを飲んでいたみっちゃんが、私の手元をヒョイと覗き込んだ。
「そうじゃなくて……八坂さんから今夜食事に誘われてるんだけど……食事のあとでうちにワイン飲みに来ないかって」
「家飲みかー。今夜はお泊まりコースかな」
「そんなつもりではないと思うんだけど……」
「付き合ってたら普通のことだけどね。モモがまだ早いと思うなら無理しないで断ればいいと思うよ。食事するだけでも死ぬほど緊張するんでしょ?」
「うーん……そうなんだよねぇ……」
どうしようかと考えていると、尚史の『あまり男を信用しすぎるな』という言葉が脳裏をかすめた。
それと同時に尚史に突然キスされたことを思い出し、早く八坂さんと結婚して幸せぶりを見せつけてやりたいという反抗心がムクムクと湧き上がる。
どうせ八坂さんとはお付き合いをするつもりだし、もう大人なんだから何かがあっても問題はない。
それで八坂さんとうまくいって、結婚までの道のりがショートカットされたら万々歳だ。
「……よし、決めた。思いきって行くことにする」
「ホントに大丈夫?緊張し過ぎてショック死とかしない?」
「しないように頑張るけど、もしものときは骨を拾ってやって」
みっちゃんはかなり心配しているようだけど、私は大きくうなずいてスマホの画面に指を滑らせる。
まもなく休憩時間が終わりそうだったので、【わかりました。楽しみにしています】と短いメッセージを返して仕事に戻った。
その日の仕事を終えて、八坂さんに返事をするシーンを何度もシミュレーションしながら帰り支度をした。
まだ時間があるし、待っている間にコーヒーでも飲んで落ち着こうと、オフィスを出て『アンバー』に足を運び、窓際の席に座ってケーキセットを注文した。
緊張してまたろくに食べられないかも知れないし、甘いものを食べたら少しでも落ち着きそうな気がする。
きっと今夜のことだなと思いながらトーク画面を開き、予想以上の長文に驚く。
【今日は少しだけ残業になりそうだけど6時半には終われると思うので、待っててもらえる?取引先の社長から教えてもらった美味しい創作フレンチの店の予約が取れたから一緒に行こう。それと、同僚からのお土産で日本ではなかなか手に入らないワインをもらったから、食事のあとうちで一緒に飲みませんか?】
この間はイタリアンで、今日は創作フレンチ?
オシャレで高そうな店ばかりだけど、八坂さんって安くて早くて美味しい牛丼とかラーメンなんかは食べない人なんだろうか。
今日もまた緊張してあまり食べられない気がする。
そしてメッセージの最後の方を読んで、何かの間違いじゃないかと画面に並ぶ文字を二度見した。
いきなり八坂さんの部屋にお呼ばれするとは思ってもみなかったけど、おそらく一人暮らしだよね?
八坂さんと密室に二人きりなんて、いくらなんでもハードルが高過ぎる!
まだお付き合いをすると返事をしたわけでもないのに、本当に八坂さんの部屋に行っても良いものだろうか。
でも単純になかなか手に入らないワインを振る舞ってくれるだけのつもりでそう言っているのかも知れないのに、深読みしてお断りするのも申し訳ない。
「モモ、難しい顔してどうしたの?めんどくさい業務連絡でも届いた?」
隣でコーヒーを飲んでいたみっちゃんが、私の手元をヒョイと覗き込んだ。
「そうじゃなくて……八坂さんから今夜食事に誘われてるんだけど……食事のあとでうちにワイン飲みに来ないかって」
「家飲みかー。今夜はお泊まりコースかな」
「そんなつもりではないと思うんだけど……」
「付き合ってたら普通のことだけどね。モモがまだ早いと思うなら無理しないで断ればいいと思うよ。食事するだけでも死ぬほど緊張するんでしょ?」
「うーん……そうなんだよねぇ……」
どうしようかと考えていると、尚史の『あまり男を信用しすぎるな』という言葉が脳裏をかすめた。
それと同時に尚史に突然キスされたことを思い出し、早く八坂さんと結婚して幸せぶりを見せつけてやりたいという反抗心がムクムクと湧き上がる。
どうせ八坂さんとはお付き合いをするつもりだし、もう大人なんだから何かがあっても問題はない。
それで八坂さんとうまくいって、結婚までの道のりがショートカットされたら万々歳だ。
「……よし、決めた。思いきって行くことにする」
「ホントに大丈夫?緊張し過ぎてショック死とかしない?」
「しないように頑張るけど、もしものときは骨を拾ってやって」
みっちゃんはかなり心配しているようだけど、私は大きくうなずいてスマホの画面に指を滑らせる。
まもなく休憩時間が終わりそうだったので、【わかりました。楽しみにしています】と短いメッセージを返して仕事に戻った。
その日の仕事を終えて、八坂さんに返事をするシーンを何度もシミュレーションしながら帰り支度をした。
まだ時間があるし、待っている間にコーヒーでも飲んで落ち着こうと、オフィスを出て『アンバー』に足を運び、窓際の席に座ってケーキセットを注文した。
緊張してまたろくに食べられないかも知れないし、甘いものを食べたら少しでも落ち着きそうな気がする。
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