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【悲報】試食不可 ~棚から落ちてきたぼた餅を実際に食べるのは勇気がいる~
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「お忙しいんですね」
「最近は何かとね。だからモモちゃんに早く会いたくて、今週はかなり仕事詰めて頑張った」
私に早く会いたかった?!
そんなことを言われたことがないから無性に照れくさい。
「そ……それはどうも……」
「あれ?照れてる?」
「……そんなことを言われた経験がないので……」
「顔真っ赤にしちゃって、やっぱりモモちゃんは可愛いなぁ」
か、か、可愛いって……!
可愛いなんて言われたのも初めて……じゃないな。
つい最近誰かに言われたような……?
頬の火照りを鎮めようとグラスの水を飲みながら考えていると、尚史の言葉がいつもとは違う甘い声で脳内再生された。
『純粋にモモ可愛いなって』
『何着ててもモモは可愛いけどな』
『これからは聞き飽きるくらい毎日言う。可愛いよ、モモ』
思い出した……!
尚史の『モモ可愛い』3連発だ……!
こんな大事なときに限って尚史のことばかりが頭をよぎる。
目の前にいる八坂さんの言葉がろくに頭に入ってこない。
これではせっかく尚史が協力してくれた意味がなくなってしまう。
だから私は少しでも八坂さんに気に入られようと、一生懸命話題を探して、できる限りの受け答えをした。
みっともない食べ方になっていないかとか、食べ過ぎて意地汚く思われるのもイヤだけど食べなさ過ぎも失礼じゃないかなどと考えながら食事を終える頃には私はすでに疲れ果てていて、一刻も早く家に帰りたいとさえ思っていた。
おまけに緊張感も手伝って、料理の味も、どんな料理を食べたのかすらもよくわからなかった。
だけどバカ正直に『もう帰りたい』なんて言ったら、せっかく誘ってくれた八坂さんに申し訳ないし、貴重なチャンスを逃してしまうかも知れないので、ただひたすら作り笑いを浮かべて八坂さんの話に相槌を打つ。
ワインをチビチビ飲みながら、今何時だろうとか、早く帰って今日こそあの漫画の新刊を読みたいなどと思っていると、八坂さんがグラスに残っていたワインを飲み干して私の顔をじっと見た。
「じつは俺、近々会社辞めるんだよね」
「辞めちゃうんですか?」
「うん、もう転職先は決まってる。取引先の会社の社長からうちの会社に来ないかって、ずっと前から言われててね。転職したらその会社でそれなりの役職もらえることになってるんだ」
それはいわゆるヘッドハンティングというやつだ。
仕事ができる人は引く手数多なんだな。
「転職していきなり役職に就くなんてすごいですね」
「役職に就くんだから、安心して仕事に打ち込めるように早く身を固めろって、社長が言うんだよ。俺も来年には30になるし、いい頃合いかなって思って結婚も考えてる」
「……え?」
八坂さんが結婚を考えている?!
これはもしかしてものすごいチャンスなのでは?
「俺ね、前からビルの中とか『アンバー』でモモちゃんを見掛けるたびに、可愛いなぁ、声かけようかなぁって思ってて。でも思ってるだけで、なかなかそのタイミングがなかったんだけど」
「は、はぁ……」
前からっていつから?!
まさかそんな風に見られていたとはまったく気付かなかったから、大あくびとか間抜けヅラとかしていなかったかだろうかと心配になる。
「後輩に誘われてたまたま行った合コンで会えたときは、運命なんじゃないかってすっごい嬉しくてさ。このまま転職したらもう会えなくなると思ってたから、柄にもなく頑張っちゃった。これも何かの縁だと思うし……モモちゃん、俺と付き合わない?」
「えっ……ええっ?わ、わた、私?!」
「そうだよ、モモちゃん以外に誰がいるの?」
「最近は何かとね。だからモモちゃんに早く会いたくて、今週はかなり仕事詰めて頑張った」
私に早く会いたかった?!
そんなことを言われたことがないから無性に照れくさい。
「そ……それはどうも……」
「あれ?照れてる?」
「……そんなことを言われた経験がないので……」
「顔真っ赤にしちゃって、やっぱりモモちゃんは可愛いなぁ」
か、か、可愛いって……!
可愛いなんて言われたのも初めて……じゃないな。
つい最近誰かに言われたような……?
頬の火照りを鎮めようとグラスの水を飲みながら考えていると、尚史の言葉がいつもとは違う甘い声で脳内再生された。
『純粋にモモ可愛いなって』
『何着ててもモモは可愛いけどな』
『これからは聞き飽きるくらい毎日言う。可愛いよ、モモ』
思い出した……!
尚史の『モモ可愛い』3連発だ……!
こんな大事なときに限って尚史のことばかりが頭をよぎる。
目の前にいる八坂さんの言葉がろくに頭に入ってこない。
これではせっかく尚史が協力してくれた意味がなくなってしまう。
だから私は少しでも八坂さんに気に入られようと、一生懸命話題を探して、できる限りの受け答えをした。
みっともない食べ方になっていないかとか、食べ過ぎて意地汚く思われるのもイヤだけど食べなさ過ぎも失礼じゃないかなどと考えながら食事を終える頃には私はすでに疲れ果てていて、一刻も早く家に帰りたいとさえ思っていた。
おまけに緊張感も手伝って、料理の味も、どんな料理を食べたのかすらもよくわからなかった。
だけどバカ正直に『もう帰りたい』なんて言ったら、せっかく誘ってくれた八坂さんに申し訳ないし、貴重なチャンスを逃してしまうかも知れないので、ただひたすら作り笑いを浮かべて八坂さんの話に相槌を打つ。
ワインをチビチビ飲みながら、今何時だろうとか、早く帰って今日こそあの漫画の新刊を読みたいなどと思っていると、八坂さんがグラスに残っていたワインを飲み干して私の顔をじっと見た。
「じつは俺、近々会社辞めるんだよね」
「辞めちゃうんですか?」
「うん、もう転職先は決まってる。取引先の会社の社長からうちの会社に来ないかって、ずっと前から言われててね。転職したらその会社でそれなりの役職もらえることになってるんだ」
それはいわゆるヘッドハンティングというやつだ。
仕事ができる人は引く手数多なんだな。
「転職していきなり役職に就くなんてすごいですね」
「役職に就くんだから、安心して仕事に打ち込めるように早く身を固めろって、社長が言うんだよ。俺も来年には30になるし、いい頃合いかなって思って結婚も考えてる」
「……え?」
八坂さんが結婚を考えている?!
これはもしかしてものすごいチャンスなのでは?
「俺ね、前からビルの中とか『アンバー』でモモちゃんを見掛けるたびに、可愛いなぁ、声かけようかなぁって思ってて。でも思ってるだけで、なかなかそのタイミングがなかったんだけど」
「は、はぁ……」
前からっていつから?!
まさかそんな風に見られていたとはまったく気付かなかったから、大あくびとか間抜けヅラとかしていなかったかだろうかと心配になる。
「後輩に誘われてたまたま行った合コンで会えたときは、運命なんじゃないかってすっごい嬉しくてさ。このまま転職したらもう会えなくなると思ってたから、柄にもなく頑張っちゃった。これも何かの縁だと思うし……モモちゃん、俺と付き合わない?」
「えっ……ええっ?わ、わた、私?!」
「そうだよ、モモちゃん以外に誰がいるの?」
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