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【悲報】試食不可 ~棚から落ちてきたぼた餅を実際に食べるのは勇気がいる~
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午後の仕事が始まってからは、ふとした瞬間に佐和ちゃんの言葉が頭をよぎり、さらに胃が痛んだ。
私はよほどひどい顔色をしていたのだろう。
3時の休憩時間になると、みっちゃんがそばにやって来て私の手に胃薬を握らせた。
「普通はデートの前ってもっとウキウキするもんだと思うけど……そんなんじゃこの先付き合うことにでもなったら大変よ?」
「うん……早く慣れないとね」
「慣れるにはそれだけ一緒にいないといけないから、そこに行き着くまでが地獄ね」
「地獄って……」
みっちゃんは大げさに身震いして見せて自分のデスクに戻る。
いくらなんでも地獄は言い過ぎだろう。
今はまだ八坂さんと二人きりになることを考えると不安と緊張で落ち着かないし胃も痛いけれど、きっと何度か会っているうちにすぐに慣れるはずだ。
尚史と仮想カップルを始めてすぐのときだって、いつもと違う距離感や触れ合うことに慣れていなくて緊張した。
だけど少しずつ慣れてきたら長い間手を繋いでいられるようになったし、抱きしめられても殴ったりはしなかった。
そして今では抱きしめられたままでもゲームができるほどになった。
うん、やっぱり慣れって大事だな。
尚史との特訓の成果が出れば、八坂さんとだって大丈夫なはず。
せっかく誘ってもらっても楽しくなさそうな顔をしていたら、次のお誘いはもうないかも知れない。
今日は胃薬に頼ってなんとか乗りきろう。
仕事が終わってすぐに胃薬を飲み、『絶対大丈夫』『私はやればできる』と心の中で何度もくりかえし呟きながら帰り支度をした。
鞄を持って席を立ち、ギクシャクと音がしそうなほどのぎこちない足取りでオフィスを出ようとすると、出入り口の付近にいた谷口さんが「お疲れ様です」と声をかけてきた。
「夏目先輩、私決めました!」
「……何を?」
「中森さんにアタックします!ガンガン攻めて攻めて攻めまくって、絶対に中森さんをゲットします!」
『ゲットします!』って、尚史はモンスターをコレクションするゲームのキャラじゃないんだけど。
鋼のメンタルの持ち主の谷口さんは、常に『ガンガンいこうぜ!』モードのようだ。
尚史の性格を考えると、あまりにも激しく攻め込まれたら、おそらくドン引きして『逃げる』一択だと思う。
「あんまり攻めすぎると、相手はビックリして引くんじゃないかなぁ……」
「そんなことありませんよ!最初はそうだとしても、好きって言われ続けると根負けすると思います!指くわえて待っててもなんにも始まりませんからね、まずは気持ちを伝えないと!」
谷口さんは『恋の達人』と言うよりは、くじけることを知らない『恋の戦士』だなと思う。
こういう人がパーティーに一人いたら、強敵を前にくじけそうになっても、明るく笑ってみんなの背中をグイグイ押してくれそうな気がする。
積極的で前向きで、自信に溢れた谷口さんがうらやましい。
「あやかりたいなぁ……」
「何にです?」
「いやいや、こっちの話。じゃあ私はこれで」
「はい、お疲れ様でした」
オフィスを出てエレベーターを待ちながら、谷口さんの『待っていても何も始まらない』という言葉を思い出してため息がもれた。
結婚すると意気込んでみても、私は常に受け身になって事態が好転するのを待つばかりだ。
まだ八坂さんとお付き合いができると確定しているわけでもないし、他に候補もいないのだから、八坂さんからのお誘いを待つだけでなく、谷口さんを見習って私からお付き合いを申し込んだ方がいいのかも知れない。
そう考えるのは簡単だけど、私から行動を起こすのはやっぱり勇気がいる。
一緒にいることに早く慣れて、せめて私から自然にトークメッセージを送れるくらいにはなりたいものだ。
私はよほどひどい顔色をしていたのだろう。
3時の休憩時間になると、みっちゃんがそばにやって来て私の手に胃薬を握らせた。
「普通はデートの前ってもっとウキウキするもんだと思うけど……そんなんじゃこの先付き合うことにでもなったら大変よ?」
「うん……早く慣れないとね」
「慣れるにはそれだけ一緒にいないといけないから、そこに行き着くまでが地獄ね」
「地獄って……」
みっちゃんは大げさに身震いして見せて自分のデスクに戻る。
いくらなんでも地獄は言い過ぎだろう。
今はまだ八坂さんと二人きりになることを考えると不安と緊張で落ち着かないし胃も痛いけれど、きっと何度か会っているうちにすぐに慣れるはずだ。
尚史と仮想カップルを始めてすぐのときだって、いつもと違う距離感や触れ合うことに慣れていなくて緊張した。
だけど少しずつ慣れてきたら長い間手を繋いでいられるようになったし、抱きしめられても殴ったりはしなかった。
そして今では抱きしめられたままでもゲームができるほどになった。
うん、やっぱり慣れって大事だな。
尚史との特訓の成果が出れば、八坂さんとだって大丈夫なはず。
せっかく誘ってもらっても楽しくなさそうな顔をしていたら、次のお誘いはもうないかも知れない。
今日は胃薬に頼ってなんとか乗りきろう。
仕事が終わってすぐに胃薬を飲み、『絶対大丈夫』『私はやればできる』と心の中で何度もくりかえし呟きながら帰り支度をした。
鞄を持って席を立ち、ギクシャクと音がしそうなほどのぎこちない足取りでオフィスを出ようとすると、出入り口の付近にいた谷口さんが「お疲れ様です」と声をかけてきた。
「夏目先輩、私決めました!」
「……何を?」
「中森さんにアタックします!ガンガン攻めて攻めて攻めまくって、絶対に中森さんをゲットします!」
『ゲットします!』って、尚史はモンスターをコレクションするゲームのキャラじゃないんだけど。
鋼のメンタルの持ち主の谷口さんは、常に『ガンガンいこうぜ!』モードのようだ。
尚史の性格を考えると、あまりにも激しく攻め込まれたら、おそらくドン引きして『逃げる』一択だと思う。
「あんまり攻めすぎると、相手はビックリして引くんじゃないかなぁ……」
「そんなことありませんよ!最初はそうだとしても、好きって言われ続けると根負けすると思います!指くわえて待っててもなんにも始まりませんからね、まずは気持ちを伝えないと!」
谷口さんは『恋の達人』と言うよりは、くじけることを知らない『恋の戦士』だなと思う。
こういう人がパーティーに一人いたら、強敵を前にくじけそうになっても、明るく笑ってみんなの背中をグイグイ押してくれそうな気がする。
積極的で前向きで、自信に溢れた谷口さんがうらやましい。
「あやかりたいなぁ……」
「何にです?」
「いやいや、こっちの話。じゃあ私はこれで」
「はい、お疲れ様でした」
オフィスを出てエレベーターを待ちながら、谷口さんの『待っていても何も始まらない』という言葉を思い出してため息がもれた。
結婚すると意気込んでみても、私は常に受け身になって事態が好転するのを待つばかりだ。
まだ八坂さんとお付き合いができると確定しているわけでもないし、他に候補もいないのだから、八坂さんからのお誘いを待つだけでなく、谷口さんを見習って私からお付き合いを申し込んだ方がいいのかも知れない。
そう考えるのは簡単だけど、私から行動を起こすのはやっぱり勇気がいる。
一緒にいることに早く慣れて、せめて私から自然にトークメッセージを送れるくらいにはなりたいものだ。
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