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密着型特訓?これはもはやデレのテロだ~幼馴染みが溺愛系俺様イケメンに豹変したら発熱した件~

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ヲタクの私にとっては最高の理解者だし良き幼馴染みだけど、私と尚史の間にあるのは恋とか愛とは程遠い、家族みたいな信頼関係だ。
尚史だってそれは同じ気持ちだろうし、そんな尚史に恋をするなんてことはあり得ない。
うん、間違いなく気のせいだな。
仮想カップルになってから、生物学的な意味ではなく初めて尚史を男だと認識せざるを得ない出来事がいくつもあったから、私の脳が妙な錯覚を起こして体に異変をきたしているのかも知れない。
こんな誤作動は一晩ゆっくり眠ってしまえばリセットされるはず。
再びしっかりと目を閉じると尚史の顔がしつこくちらついたけれど、体のだるさや疲れの方が勝っていて、あっという間に眠りの淵に落ちた。
どうやら子守唄は必要なさそうだ。



その夜の夢の中で、私はウエディングドレスを纏い、ステンドグラスから射し込む日の光に照らされて、教会の祭壇へと続くバージンロードを父と一緒に歩いていた。
祭壇の前にはタキシードを着た男性が私に背を向けて立っている。
私の結婚式に列席した光子おばあちゃんは、とても嬉しそうに涙を流して笑っていた。
ああ、私の選択は間違っていなかった。
光子おばあちゃんの笑顔を見られたから、もし八坂さんとの結婚生活がつらいものになったとしても、私はきっとこの先一生後悔することはないだろう。
そんなことを思いながら新郎に手を取られ祭壇の前に立ち、この人と一生を添い遂げることを神様に誓って結婚指輪の交換をする。
そして神父様から誓いのキスを促され、新郎の手によってベールを上げられた。
伏せていた目をゆっくりと開き前を向くと、目の前にいる新郎は八坂さんではなく尚史だった。

「あ……えっ……なんで尚史?!」

どうして尚史が私と結婚するのかとパニックになっていると、尚史は私の頬を両手でガシッと掴んで引き寄せ顔を近付けた。

「モモ、幸せになろうな」
「待って、何これ、どういうこと?!」
「こういうこと」

尚史は有無を言わさず私の唇にしっかりと唇を重ね、漫画みたいに『ブチューッ』という効果音が聞こえてきそうなキスをした。
ああああああ!
私の……私のファーストキスがぁぁぁぁぁ……!!
長い長いキスのあと、尚史は私を軽々と抱きかかえてバージンロードを走り、教会のドアを勢いよく開ける。
するといつの間にか教会の外に整列していた列席者が、私たちに向かって親の仇のように五色豆を投げつけてきた。
かけられる言葉は『おめでとう』ではなく、もちろん『鬼は外~!』だ。

「ちょっと尚史、どこに行くつもり?!」
「決まってんじゃん、めでたく夫婦になったことだし早速子作りだ!今夜は寝かさないぜ、ハニー!」
「ええぇぇぇぇぇぇーっ?!」

教会の鐘がすごい速さでけたたましい音を鳴らし続け、私の絶叫をかき消した。
「私、これからどうなっちゃうのー?!」と、漫画や恋愛小説のあらすじなんかによくあるベタな決まり文句を叫んだところで目が覚めた。


枕元ではスマホのアラームが『リンゴンリンゴン』とけたたましく鳴り響いている。
へ……変な夢見た……。
かなりうなされていたのか、全身汗でびっしょりだ。
アラームを止めて起き上がろうとしたものの、身体中がだるくて力が入らない。
おまけになんだかとても体が熱いような……。
もしかして熱でもあるのかなと思っていると、ドアをノックして母が部屋に入ってきた。

「モモ、起きてる?」
「うん……今起きたんだけど……なんか体がおかしい。熱があるかも……」

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