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密着型特訓?これはもはやデレのテロだ~幼馴染みが溺愛系俺様イケメンに豹変したら発熱した件~

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子どもの頃に近所の公園で尚史と同級生の友達も一緒に、よくバドミントンをしたことを思い出した。
デートにもいろいろあるし、綺麗な服を着ておしゃれな店に行くより、私たちには公園でバドミントンをして遊ぶ方が合っているかも知れない。
明日は気楽に楽しめそうな気がする。
それにしても家の近所を尚史と手を繋いで歩くのは少し落ち着かない。
こんなところを知り合いにでも見られたら、『中森さんちの尚史くんと夏目さんちのモモちゃんが手を繋いで歩いてたよ』とか、『昔から仲良しだったけど、やっぱり二人はいい仲なのね』なんて噂が町内に瞬く間に広がりそうだ。
だけど尚史はそんなことを気にも留めない様子で、やっぱり私の手を離そうとはしなかった。

幸い時間が遅かったおかげで知り合いに会うこともなく私の家の前にたどり着いた。
私が胸を撫で下ろしていると、尚史は立ち止まって私の手を一度ギュッと握ってからゆっくりと離した。

「俺は服装とかにはあんまりこだわらないけど……その服、やっぱ似合うよな」
「んん?馬子にも衣装とか言うつもりだな?」
「いや、純粋にモモ可愛いなって」
「かっ、かわっ……?!」

私のこと可愛いだって?!
そんなの今まで一度も言ったことないのに、一体どうしちゃったんだ、尚史!
……あっ、そうか。
尚史は彼女に甘い溺愛系のイケメン彼氏を演じてるんだ。
これはいつか本物の彼氏ができたときに、気の利いた返しをできるようにする練習なのでは?
だったら私もそれに応えた方がいいんだろうか?
だけど男の人を喜ばせるような可愛げのある言葉が一言も思い浮かばない。
ここは素直にお礼を言うだけに留めておこう。

「ありがとう。尚史が選んでくれたからかな」
「あー……モモのこと一番知ってんのは俺だから当然だな。モモの服ならいつでも喜んで選ぶから、また一緒に買いに行こう」
「……うん」

私のことを一番知ってるって……どんだけ演技に没頭するんだ、この男は?
嘘でもそんなことを言われたら、一体どこまで知り尽くされているのかと思って、丸裸にされたみたいで恥ずかしくなる。

「まぁ……何着ててもモモは可愛いけどな」

はぁっ?!何を戯けたことを抜かしやがる……!
デレの演技もここまでくると白々しい。
そう思っているはずなのに、お世辞でも可愛いと言われれば嬉しいと思ってしまうのが女心だ。
だけど照れくさくて恥ずかしくて、おまけに言われ慣れないことばかり言われたせいか、鼓動がめちゃくちゃ激しくなって、息切れまで起こしそうになった。
私は下を向いて激熱になった顔を両手で覆い、ゆっくりと深呼吸をした。

「…………ごめん、もう勘弁して」
「何が?」
「恥ずかしいの、そんなこと言われ慣れてないから」
「ふーん、そうなんだ?」

そうなんだ、って……そんなの尚史だってわかりきってることじゃないか。
だいたいヲタクの私なんぞにそんな激甘な言葉をかけてくれる神のような人なんて、一体どこを探せば見つかるって言うんだ。
てっきりもうやめてくれるのかと思ったら、尚史は私を抱き寄せて私の頬に頬をくっ付けた。

「じゃあこれからは聞き飽きるくらい毎日言う。可愛いよ、モモ」

尚史は耳に唇が触れそうなほどの近さで囁いたあと、もう一度頬擦りをして、その手から私を解放する。
尚史の豹変ぶりがあまりにも衝撃的すぎて言葉も出ない。
マジで誰これ……?
溺愛系のイケメンの霊にでも取り憑かれてんのかな?

「明日の朝、モモが出掛けたい時間の1時間くらい前に電話して」
「は……はひ……」

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