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冒険の心得《装備は万全に 休息大事 油断大敵 無理厳禁 ※突如現れる無自覚イケメンに注意》
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そう言われてみれば、なんの得もないはずの尚史がこんなに頑張ってくれているんだから、お礼のひとつぐらいはするべきだと思う。
しかし何をあげれば尚史は喜ぶんだろう?
ちょっと高い店の焼肉とかお寿司とか、それとも尚史が欲しがっているゲームソフトとか?
でもやっぱり本人に聞くのが一番いいのかな。
「だったらお礼は何がいい?でもあんまり高いものは無理だから、私の財力でなんとかできる範囲内にしてもらえるとありがたいんだけど」
私が尋ねると、尚史はケーキを口に運びかけた手を止めて眉間にシワを寄せた。
「そういうのは要らない。俺は別にお礼が欲しくてやってるわけじゃないから」
「でもそれじゃあ申し訳なくて、私の気がおさまらないって言うか……」
「じゃあ……モモが大事にしてるものちょうだい。他の誰にもあげたことないくらい貴重なやつ」
んん?そんなものあったかな?
昔から大事にしているものと言えば、光子おばあちゃんに買ってもらったムササビのぬいぐるみのムーちゃんくらいだ。
だけど私の汗とかヨダレとか手垢で汚れたボロボロのぬいぐるみをもらったって、誰も喜ばない。
「難しいこと言うなぁ……。他のものにしてくれる?」
「イヤだ。それ以外は受け付けない」
「でもそれってなんのことだろう……?全然わからないんだけど。せめてヒントちょうだい」
「断る。モモがわからないなら、わからないでいいよ」
なんじゃそりゃ?
私自身がわからなければ、何もあげられないのに。
首をかしげ腕組みをして考えていると、尚史がため息をついた。
「はい、この話はこれでおしまい。それよりモモ、そのケーキ食べないなら俺が食うぞ」
「食べるけど……ひょっとしてこれも食べたいの?」
「うん、食べたい」
尚史ってそんなに甘いものが好きだったかな?
もしかしたらブライダルサロンで緊張しすぎて、体が糖分を欲してるのかも。
「じゃあ半分あげる」
「半分も要らないよ、少しでいい」
「そうなの?じゃあお好きなだけセルフでどうぞ」
私がケーキの乗ったお皿を差し出すと、尚史は首を横に振った。
「モモがやって」
「私が?しょうがないな」
甘いものが欲しいだけじゃなくて甘えたくなったのか、それとも一応遠慮しているんだろうか。
大きめの一口大に切り分けたケーキをフォークで尚史のお皿に乗せようとすると、尚史は何を血迷ったかフォークを持った私の手を掴み、そのまま自分の口に運んでケーキを食べた。
私は目の前で予想外に起こった一瞬の出来事に驚き、呆気に取られてフリーズしてしまう。
今……何が起こった?
私の手を尚史が掴んでケーキを……え?
今のは私が強制的に『あーん♡』をさせられたのでは……?
尚史は唇の端についた生クリームをペロリと舐めて、やや斜めの角度で上目遣いにチラリと私の顔を見た。
「えっ……?ちょっ……えぇっ?!」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまって……!何、今の?」
「昨日の氷のお返しをしてもらったんだけど、それが何か?」
氷のお返しってなんじゃい!
氷くらい手掴みでいくらでも返すわ!
氷のお返しがケーキって、一体何倍返しだよ?
氷がケーキに化けたことはともかく、私相手にいちいち漫画の胸キュンシチュエーションみたいなことをしなくてもいいのに!
おそらく尚史は、これもきっと無自覚でやっているんだろう。
なぜなら彼は、無自覚にイケメンキャラを発動させるスキルを持っているのだから!
まったくたちの悪い無自覚イケメンだ。
「ホント無自覚……」
「……何が?」
「こっちの話。とりあえず、氷の借りは返したってことね」
「そういうことだな」
尚史のことは小さい頃からよく知っているはずなのに、なんだかだんだん行動が読めなくなってきた。
もしかしてこれも私の男性に対する苦手意識を克服させるための作戦的な?
そのために尚史はいつもより頻繁にイケメンキャラを発動させ、過去の恋愛で身につけた女子の胸をキュンとさせるノウハウを駆使しているのでは?
幼馴染みの尚史相手にこんなにドキドキするのなら、私は他の男性と付き合ったら心臓発作を起こして天に召されてしまうのではなかろうか。
デートって……恋愛って恐ろしい……!
そうか……だからキヨは私に、『尚史に慣らしてもらえ』って言ったんだな。
キヨはきっと尚史が私の幼馴染みであることや、無自覚イケメンであることも考慮して、その役目は尚史が適任だと思ったのだろう。
だったら尚史が無自覚イケメンだって言うことも、事前に教えておいてくれたら良かったのに。
いや、不意打ちで来るから意味があるのか?
とにかくこれからは、いつイケメンを発動されてもうろたえないように、最大限の心積もりだけはしておこう。
しかし何をあげれば尚史は喜ぶんだろう?
ちょっと高い店の焼肉とかお寿司とか、それとも尚史が欲しがっているゲームソフトとか?
でもやっぱり本人に聞くのが一番いいのかな。
「だったらお礼は何がいい?でもあんまり高いものは無理だから、私の財力でなんとかできる範囲内にしてもらえるとありがたいんだけど」
私が尋ねると、尚史はケーキを口に運びかけた手を止めて眉間にシワを寄せた。
「そういうのは要らない。俺は別にお礼が欲しくてやってるわけじゃないから」
「でもそれじゃあ申し訳なくて、私の気がおさまらないって言うか……」
「じゃあ……モモが大事にしてるものちょうだい。他の誰にもあげたことないくらい貴重なやつ」
んん?そんなものあったかな?
昔から大事にしているものと言えば、光子おばあちゃんに買ってもらったムササビのぬいぐるみのムーちゃんくらいだ。
だけど私の汗とかヨダレとか手垢で汚れたボロボロのぬいぐるみをもらったって、誰も喜ばない。
「難しいこと言うなぁ……。他のものにしてくれる?」
「イヤだ。それ以外は受け付けない」
「でもそれってなんのことだろう……?全然わからないんだけど。せめてヒントちょうだい」
「断る。モモがわからないなら、わからないでいいよ」
なんじゃそりゃ?
私自身がわからなければ、何もあげられないのに。
首をかしげ腕組みをして考えていると、尚史がため息をついた。
「はい、この話はこれでおしまい。それよりモモ、そのケーキ食べないなら俺が食うぞ」
「食べるけど……ひょっとしてこれも食べたいの?」
「うん、食べたい」
尚史ってそんなに甘いものが好きだったかな?
もしかしたらブライダルサロンで緊張しすぎて、体が糖分を欲してるのかも。
「じゃあ半分あげる」
「半分も要らないよ、少しでいい」
「そうなの?じゃあお好きなだけセルフでどうぞ」
私がケーキの乗ったお皿を差し出すと、尚史は首を横に振った。
「モモがやって」
「私が?しょうがないな」
甘いものが欲しいだけじゃなくて甘えたくなったのか、それとも一応遠慮しているんだろうか。
大きめの一口大に切り分けたケーキをフォークで尚史のお皿に乗せようとすると、尚史は何を血迷ったかフォークを持った私の手を掴み、そのまま自分の口に運んでケーキを食べた。
私は目の前で予想外に起こった一瞬の出来事に驚き、呆気に取られてフリーズしてしまう。
今……何が起こった?
私の手を尚史が掴んでケーキを……え?
今のは私が強制的に『あーん♡』をさせられたのでは……?
尚史は唇の端についた生クリームをペロリと舐めて、やや斜めの角度で上目遣いにチラリと私の顔を見た。
「えっ……?ちょっ……えぇっ?!」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまって……!何、今の?」
「昨日の氷のお返しをしてもらったんだけど、それが何か?」
氷のお返しってなんじゃい!
氷くらい手掴みでいくらでも返すわ!
氷のお返しがケーキって、一体何倍返しだよ?
氷がケーキに化けたことはともかく、私相手にいちいち漫画の胸キュンシチュエーションみたいなことをしなくてもいいのに!
おそらく尚史は、これもきっと無自覚でやっているんだろう。
なぜなら彼は、無自覚にイケメンキャラを発動させるスキルを持っているのだから!
まったくたちの悪い無自覚イケメンだ。
「ホント無自覚……」
「……何が?」
「こっちの話。とりあえず、氷の借りは返したってことね」
「そういうことだな」
尚史のことは小さい頃からよく知っているはずなのに、なんだかだんだん行動が読めなくなってきた。
もしかしてこれも私の男性に対する苦手意識を克服させるための作戦的な?
そのために尚史はいつもより頻繁にイケメンキャラを発動させ、過去の恋愛で身につけた女子の胸をキュンとさせるノウハウを駆使しているのでは?
幼馴染みの尚史相手にこんなにドキドキするのなら、私は他の男性と付き合ったら心臓発作を起こして天に召されてしまうのではなかろうか。
デートって……恋愛って恐ろしい……!
そうか……だからキヨは私に、『尚史に慣らしてもらえ』って言ったんだな。
キヨはきっと尚史が私の幼馴染みであることや、無自覚イケメンであることも考慮して、その役目は尚史が適任だと思ったのだろう。
だったら尚史が無自覚イケメンだって言うことも、事前に教えておいてくれたら良かったのに。
いや、不意打ちで来るから意味があるのか?
とにかくこれからは、いつイケメンを発動されてもうろたえないように、最大限の心積もりだけはしておこう。
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