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冒険の心得《装備は万全に 休息大事 油断大敵 無理厳禁 ※突如現れる無自覚イケメンに注意》

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抱えて歩くって、そんなのどう考えてもおかしいでしょ?!
乳幼児じゃあるまいし、何が悲しくて白昼堂々だっこされて人目にさらされなきゃいけないんだ!

「お願いだからそれだけはやめて……。それであの……とりあえず離してもらえるかな……」
「あっ……」

尚史はあわてて私から手を離した。
どうやら無意識のうちに体が勝手に動くらしい。
こいつはとんだ無自覚イケメンだ!

「なんかごめん……」
「うん……」
「とりあえず……少し落ち着いたらどっかで昼飯でも食おう」
「そうだね……」

しばらくの間、私も尚史も無言でベンチに座っていた。
尚史は肩が触れ合うくらいすぐ隣に座っている。
ついこの間まではこんなに近くには座らなかったし、二人でいても体に触れることなんてなかったのに、尚史はカップルと言う設定になった途端にやけに積極的に私との距離を縮めてくる。
もしかしたら本物の彼女といるときはベタベタイチャイチャしていたんじゃないかと思うと、なんとなくモヤッとした。
尚史は誰と付き合っても長続きしなかったし、私と同じくらい恋愛偏差値が低いと思っていたけど、そうでもないのかも知れない。
少し触れられたとか些細なことで私だけがジタバタしているなんて、尚史にまで置いてけぼりを食らっているみたいでなんだか悔しい。
尚史ができることを私ができないはずがない。
私だって負けるわけにはいかないんだから、こんなときこそ『ガンガン行こうぜ!』モードで攻めていかなきゃ!

「もう大丈夫だから、そろそろ行こう」

意を決してそう言うと、尚史はベンチからゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ次のターゲット探そうか」

私も気合いを入れて立ち上がり、辺りを見回している尚史の手を思いきってギュッと握った。
尚史は私の方を向いて大きく目を見開いたあと、私に握られている自分の手を見て何度もまばたきをした。

「……モモ、無理しなくていいよ」
「無理はしてない。また尚史とはぐれて絡まれる方が怖いもん」
「うーん……それもそうか。じゃあ……」

尚史の手が私の手からスルリと抜け出した。
そして今度は尚史が私の手を取りしっかりと繋ぐ。
やっぱり照れくさいのは変わらないけれど、尚史の大きな手でそうされると、守られているような安心感と懐かしさがあった。

「とりあえず……手を繋ぐのがデフォってことで」
「……うん」

尚史は私の手を引いて歩き出す。
確か昔もこんなことがあったな。
幼稚園の頃、二人で家のすぐ近くにある公園で遊んでいたら、通り掛かった車の後部座席の後ろに当時私たちが大好きだった特撮ヒーローのソフビ人形がズラリと並んでいて、夢中になって追いかけているうちに帰り道がわからなくなってしまった。
二人でさまよっている間もずっと尚史は泣いている私の手をしっかりと繋いで、「きっともうすぐ家に着くよ」とか「大丈夫だよ」と励ましてくれた。
結局たいして遠く離れた場所ではなかったから、すぐにうちの母が見つけてくれて無事に帰れたのだけど、今になって思えば、きっと尚史も不安だったはずなのに、幼心に一生懸命私を守ろうとしてくれていたんだと思う。
そういうところは変わらないんだなと思うと、なんだか妙に嬉しくなった。


次のターゲットのカップルを見つけてその後ろを歩き、たどり着いたのは『シーサイドガーデン』という海辺の商業施設だった。
たくさんのショップや飲食店の並ぶエリアと、映画館や公園、イベントの開催される広場などもある人気のスポットらしい。

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