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恋愛はRPGの如し?まずは経験値を積むべし

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「そっか……当たり前だけど、予約しないと式は挙げられないんだよねぇ……。私と結婚してくれる相手を見つけるだけでも難しいのに……」

思っていた以上に現実は厳しいのだと知り、すっかり意気消沈してしまった私は、がっくりと肩を落として大きなため息をついた。
何かいい方法はないかと考えていると、店員が料理を運んできてテーブルの上に並べた。
鉄板の上でピチピチ油を跳ね上げているハンバーグまでもが恨めしい。
尚史はカトラリーケースの中からナイフとフォークを取り出して私に差し出した。

「予約は無理でも、とりあえず下見だけでもしておくとか……。それくらいならカップルのふりして俺が付き合うし、他にも早く式を挙げられる方法がないか調べてみよう」

いつもは無気力な尚史が光子おばあちゃんのためにこんなに一生懸命考えてくれているのに、私の方が無理だと決めつけて、簡単にあきらめるわけにはいかない。
私は顔を上げて大きくうなずいた。

「うん……そうだね。できるだけのことはやってみる」
「じゃあしっかり飯食って元気だせ」
「御意」

さっきまでは恨めしかったハンバーグをナイフで切り分けて、勢いよく口に運んだ。

「あっ、モモ……!」

尚史があわててそれを止めようとしたけれど時すでに遅し、鉄板の上で熱々に焼けたハンバーグは私の口の中だ。
私はあまりの熱さに悶絶してしまう。
尚史は自分のコーラの中の氷をスプーンで取り出し、呆れた顔をして私の口の前に突き出した。

「ほら、口開けろ」

私はこの熱さをなんとか和らげようと、親鳥から餌を与えられる雛鳥のように素直に口を開いて、尚史に氷を入れてもらう。
そのおかげで熱さからは解放されたけれど、思いきり火傷した舌と上顎が痛い。

「何これ、めちゃくちゃ熱い!」
「鉄板でジュージュー言って焼けてんの、いきなり口に入れたら熱いのは当たり前だろ」
「……おっしゃる通りで」

口の中で氷が溶けきってようやく私は気付いた。
さっきはあまりの熱さにあわてて気付かなかったけれど、謀らずも私は尚史に『あーん♡』というやつをしてもらったのか……?
改めてそう考えると、照れくさいのを通り越してものすごく恥ずかしい気がして、またあの背中がむず痒いようなお腹の奥がくすぐったいような不思議な感覚を覚えた。

「ねぇ、今のって……」
「ん?氷だけど」
「ああ……うん、それはわかってるけど……」
「モモのミルクティーは氷少なめにしてたし溶けてなくなってたから、俺のコーラから取ったやつだけど」
「うん、それもわかってるけど、そうじゃなくて……尚史、今私に『あーん♡』ってやつやったよね?」
「ん?ああ……『あーん♡』とは言ってないけど、そうなるかな」

なんだこいつ?!
そんなリア充イケメンみたいなことを意識せずにサラッとできるなんて、ホントに恋愛初心者なのか?
普通ならそこは冷たい水とか、私の飲み物を渡すと思うんだけど!

「……尚史、そんなことできるんだね」
「できるって言うか……モモがあんまり熱そうだったから」
「……それはかたじけない」

幼馴染みだからなんの抵抗もなく世話を焼くのか、私はものすごく恥ずかしくなったと言うのに、どうやら尚史にとってはそこに深い意味なんてなさそうだ。
あまり深く考えるのはやめておこう。


火傷の痛みをこらえつつなんとか食事を済ませ、今週末の計画を立てることにした。
できるだけ早く結婚するためには、来週の土曜日の八坂さんとのデートまでに少しでも多くの経験値を積む必要がある。
すなわちそれまでの1週間は尚史と毎日一緒にいると言うことだ。

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