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乙女のピンチにヒーローが駆け付けるのは漫画だけではないらしい
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「ずっと一人でいるよね。もしかしてナンパ待ち?」
ナンパ待ちって……この私が?
知らない男が死ぬほど苦手なのに、そんなわけあるか!
『違います』と答えたくても、酔った見知らぬ男の視線が怖くて声も出ない。
「良かったらこっちにおいでよ、一人で飲むより楽しいよ」
いやいや、私は知らない男の人と飲むより一人の方が楽しいから!
勇気を振り絞って『待ち合わせをしているから』と断ろうとすると、こともあろうかその男は突然私の右手を握りしめ、肩を抱き寄せた。
その瞬間私の体は硬直して動けなくなり、頭の中が真っ白になる。
「それとも俺と一緒に二人きりになれる場所にでも行く?君、けっこう俺のタイプなんだよね」
耳元でねちっこく囁かれ、全身の毛が逆立つような不快感を覚えた。
手のひらにはジットリといやな汗がにじみ、吐き気までしてくる。
なんとかしてこの状況から抜け出さなくてはと思うのに、私の体は思うように動いてくれない。
「なんにも言わないってことは、OKってことでいいよね?」
私が抵抗できないほど酔っているとでも思ったのか、男は強引に私を立ち上がらせようとした。
まずい、乙女のピンチだ。
このままでは拉致されてしまう!
またあのときの恐怖が脳裏に蘇り、うまく息ができない。
ガスコンロの火を止めて振り返ったキヨに助けを求めようと口を開こうとした瞬間、誰かが男の腕をつかみ上げて振り払い、私の体を引き寄せその胸に顔をうずめさせた。
まさか新手の刺客か?!
そう思ったけれど、その人の腕の中は先ほどとは違って嫌悪感や不快感は一切なく、それどころかなぜかホッとして強ばっていた体から力が抜けるのを感じた。
この力強い腕とか厚い胸板は間違いなく男の人のものなのに、安心するってどういうこと?
ああ……そうか、危ないところを助けてもらったからなのかも。
窮地に立たされパニクっていたので顔も見ていないけれど、一体誰なんだろう?
「俺の連れに何か用でも?」
その声は聞き慣れたいつもの声よりかなり低くてドスが効いているけれど、間違いなく尚史の声だ。
……ってことは……これ、尚史?
ほんの少し顔を上げて見てみると、尚史が私を連れ出そうとしていた男をにらみつけていた。
ゲームをしているとき以外は無気力ないつもの尚史とは別人のようだ。
背の高い尚史に鋭い目付きで見下ろされて怯んでしまったのか、男はそそくさと逃げるようにしてこの場を離れ、仲間と一緒にあっという間に会計を済ませて店を出た。
その後ろ姿を見届けた尚史は小さくため息をついた。
「モモ、大丈夫か?」
尚史はいつもの声でそう言って、私の頭を優しく撫でた。
なんだか懐かしい感触だ。
子供の頃にいじめっ子の同級生に苦手なカエルを無理やり押し付けられたときも、こんな風にかばって私が泣き止むまで頭を撫でてくれたっけ。
そのときはもちろん、今みたいに抱きしめたりはしなかったけれど。
あれ……?
ってことは、私は今、尚史に抱きしめられているのか?
急に気恥ずかしくなった私は、慌てて離れようと尚史の体を両手で押し返した。
「大丈夫……。ビックリしてパニクってただけだから。助けてくれてありがとね」
「そうか。大丈夫ならいいけど……」
「あんまり遅いから帰ろうかと思ってたよ」
「あー……待たせて悪かった」
尚史は何事もなかったような顔をして、ネクタイをゆるめながら席に着いた。
ナンパ待ちって……この私が?
知らない男が死ぬほど苦手なのに、そんなわけあるか!
『違います』と答えたくても、酔った見知らぬ男の視線が怖くて声も出ない。
「良かったらこっちにおいでよ、一人で飲むより楽しいよ」
いやいや、私は知らない男の人と飲むより一人の方が楽しいから!
勇気を振り絞って『待ち合わせをしているから』と断ろうとすると、こともあろうかその男は突然私の右手を握りしめ、肩を抱き寄せた。
その瞬間私の体は硬直して動けなくなり、頭の中が真っ白になる。
「それとも俺と一緒に二人きりになれる場所にでも行く?君、けっこう俺のタイプなんだよね」
耳元でねちっこく囁かれ、全身の毛が逆立つような不快感を覚えた。
手のひらにはジットリといやな汗がにじみ、吐き気までしてくる。
なんとかしてこの状況から抜け出さなくてはと思うのに、私の体は思うように動いてくれない。
「なんにも言わないってことは、OKってことでいいよね?」
私が抵抗できないほど酔っているとでも思ったのか、男は強引に私を立ち上がらせようとした。
まずい、乙女のピンチだ。
このままでは拉致されてしまう!
またあのときの恐怖が脳裏に蘇り、うまく息ができない。
ガスコンロの火を止めて振り返ったキヨに助けを求めようと口を開こうとした瞬間、誰かが男の腕をつかみ上げて振り払い、私の体を引き寄せその胸に顔をうずめさせた。
まさか新手の刺客か?!
そう思ったけれど、その人の腕の中は先ほどとは違って嫌悪感や不快感は一切なく、それどころかなぜかホッとして強ばっていた体から力が抜けるのを感じた。
この力強い腕とか厚い胸板は間違いなく男の人のものなのに、安心するってどういうこと?
ああ……そうか、危ないところを助けてもらったからなのかも。
窮地に立たされパニクっていたので顔も見ていないけれど、一体誰なんだろう?
「俺の連れに何か用でも?」
その声は聞き慣れたいつもの声よりかなり低くてドスが効いているけれど、間違いなく尚史の声だ。
……ってことは……これ、尚史?
ほんの少し顔を上げて見てみると、尚史が私を連れ出そうとしていた男をにらみつけていた。
ゲームをしているとき以外は無気力ないつもの尚史とは別人のようだ。
背の高い尚史に鋭い目付きで見下ろされて怯んでしまったのか、男はそそくさと逃げるようにしてこの場を離れ、仲間と一緒にあっという間に会計を済ませて店を出た。
その後ろ姿を見届けた尚史は小さくため息をついた。
「モモ、大丈夫か?」
尚史はいつもの声でそう言って、私の頭を優しく撫でた。
なんだか懐かしい感触だ。
子供の頃にいじめっ子の同級生に苦手なカエルを無理やり押し付けられたときも、こんな風にかばって私が泣き止むまで頭を撫でてくれたっけ。
そのときはもちろん、今みたいに抱きしめたりはしなかったけれど。
あれ……?
ってことは、私は今、尚史に抱きしめられているのか?
急に気恥ずかしくなった私は、慌てて離れようと尚史の体を両手で押し返した。
「大丈夫……。ビックリしてパニクってただけだから。助けてくれてありがとね」
「そうか。大丈夫ならいいけど……」
「あんまり遅いから帰ろうかと思ってたよ」
「あー……待たせて悪かった」
尚史は何事もなかったような顔をして、ネクタイをゆるめながら席に着いた。
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