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乙女のピンチにヒーローが駆け付けるのは漫画だけではないらしい

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その日の仕事が終わり、いつものように『シューティングスター』でお酒でも飲みながらゲームの続きをしようと思って尚史にメッセージを送ると、【今日は残業で少し遅くなる。終わったら行く】と返信があった。
尚史が遅くなっても仲間の誰かは来るだろうし、レベル上げでもして待っていようと思いながら一人で店に足を運ぶ。
私が店に着いてドアを開けたとき客はまだ誰もおらず、キヨがカウンターの中でグラスを磨いていた。

「いらっしゃい、モモっち。あれ、今日は一人?尚史は?」

確かにこの店には仕事終わりで一緒に来ることが多いけど、キヨは私と尚史がニコイチとでも思っているんだろうか。
別行動のときだって普通にあるって言うのに。

「残業終わってから来るって」
「ふーん、そうなんだ。で、何飲む?」
「ビールにしようかな。あと、お腹空いたからごはん食べたい」
「了解」

キヨはサーバーからグラスにビールを注いで、おつまみのポテトチップスと一緒に私に手渡したあと、キッチンで料理を作り始めた。
刻んでいる材料を見たところ、キヨはオムライスを作ろうとしているらしい。
キヨの作るオムライスは私の大好物だ。
私はキヨの絶品オムライスを心待ちにして、バッグからゲーム機を取り出し、ポテチをつまみにビールを飲みながらゲームを始める。
いつもならこの時間には常連のお客さんが何人かいるのに、今日は開店から30分以上経っても誰も来ていない。

「今日はいつもよりお客さんの入りが遅いね」
「そんな日もあるよ。月末も近いし、みんな会社の付き合いとか残業とかで忙しいんじゃないか?」

そういえばいつもは定時で帰ることの多い尚史も残業だと言っていた。
ここでしか会わない人たちが昼間になんの仕事をしているのかなんてあまり知らないけれど、みんなそれぞれの生活があるんだな。

キヨは調理師の専門学校を卒業してから大手ファミレスチェーン店に就職したけれど、その会社のマニュアル通りの厨房での仕事にやり甲斐とか張り合いみたいなものを感じられず、もっと本格的な料理を提供する店に移ろうかと思っていたときに、父親が事業を拡大すると言って開いた2号店であるこの店のマスターを引き受けた。
ファミレスに勤めていた頃に比べて、この店のマスターになってからのキヨは生き生きしている。

子どもの頃には私たちと一緒にゲームばかりしていたのに、高校生になったあたりからキヨは急激に垢抜けてやたらとモテるようになった。
これまで付き合った女の子はたくさんいたようだけど、1年ほど前から付き合っているヒトミさんは今までの人とは違うらしい。
昼過ぎに出勤して夜中に帰宅するキヨの仕事柄、OLの瞳さんとは生活のリズムが違うので、普通に付き合っているとなかなかゆっくり会えないからという理由で半年前から同棲している。
いずれは結婚するつもりでいるそうだ。
二人が同棲を始めた頃に「一緒に暮らすならいっそのこと早く結婚すればいいのに」と私が言うと、「一緒に暮らしてうまくいきそうなら結婚する」とキヨは言っていた。

あれから半年経つし二人での生活はうまくいっているようだけど、具体的な結婚話は出ていないんだろうか。
普段はみんなでゲームをしてワイワイ言っているからまったく気にならなかったけど、キヨがいつ、どのタイミングで、どんな思いで結婚するつもりなのかが今日はやけに気になる。
もしかしたらずっと恋愛とは無縁だった私自身が真剣に結婚を考えるようになったせいかも知れない。
キヨと二人だけで話すことなんて滅多にないし、いい機会だから参考までにさらっと聞いてみようか。
そんなことを考えていると、私の目の前にホカホカと湯気の上がるオムライスが乗ったお皿が差し出された。

「はいよ、お待たせー。今日はオムライスな」
「わぁ、美味しそう!いただきます!」

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