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黒歴史は『武勇伝』
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午後8時半過ぎ、淡い期待を胸に一次会はお開きとなった。
みんなは店を出ると『二次会はやっぱカラオケだよね』と言って歩き始める。
まだ月曜日なのに、みんな元気だな。
谷口さんは一緒に行こうと何度も誘ってくれたけれど、私は慣れない場の雰囲気にかなり疲れていたし、尚史と一緒に帰る約束をしたので「少し飲みすぎたようだから今日はこれで帰る」と言って二次会のお誘いを断った。
二次会不参加組の私と尚史は店の前でみんなと別れ、駅に向かって一緒に歩いた。
隣に座っていた可愛い女子には目もくれず、料理とお酒を黙々と堪能していた尚史は相変わらずの無表情でお腹をさする。
「よく食べてたね」
「いやー……あれくらいじゃ食い足りないなぁ……」
「あれだけ食べてまだ足りないの?」
「足りないものは足りないんだよ。モモはあんまり食ってなかったから腹減ってるだろ?」
この男は目の前の料理に夢中で私にも無関心だったと思ったのに、私が料理にはほとんど手をつけていなかったことに気付いているらしい。
付き合いが長いとそんなことにまで気付くのか。
「バレた?実はお腹ペコペコなんだ、会話するのに必死で食べる余裕がなかったからね。今夜はカレーだってお母さんが言ってたから、帰って食べるよ。尚史も一緒に食べる?」
「もちろんいただく」
電車の中で一緒にゲームをして、帰り道の途中にあるコンビニに立ち寄り、私はアイスクリーム、尚史はビールを買った。
飲み足りないので私の部屋でゲームをしながら飲むつもりらしい。
二人そろって私の家のリビングに入ると、うちの母と尚史のお母さんがお茶を飲みながら高そうなケーキを食べていた。
私と尚史の帰りが遅くなる日にはよくあることだ。
「おかえり。尚史くんも一緒だったのね」
「飲み会で偶然一緒になったの。カレー食べていい?」
「あら、食べて来たんじゃなかったの?」
「あんまり食べられなかったから」
手を洗って食器棚からお皿を2枚取り出し、ご飯をよそってカレーをかけると、尚史がそれをダイニングのテーブルに運ぶ。
スプーンと水を用意して席に着き、私と尚史が向かい合って食事を始めると、母が私に薄い冊子を差し出した。
どうやらスーパーやファミレスなんかの出入り口によく置いてあるフリーペーパーのようだ。
「何これ?」
「今日買い物に行ったら置いてあったから。一応参考までにね」
「ふーん……?」
フリーペーパーと言えば求人や賃貸住宅の情報誌がほとんどだけど、私はアルバイトもアパートも探していない。
一体なんの参考になるのかと不思議に思いながら受け取ったそのフリーペーパーの表紙を見て、思わず口の中のものを吹き出しそうになった。
そこには『婚活マガジン♡ベストマリッジ』の文字が踊っている。
「念のため言っておくわ。光子おばあちゃんのためになんとかしたいっていうモモの気持ちもわかるけど、現実はそんなに甘くないの。今のゼロ以下の状態から2ヶ月や3ヶ月で結婚なんて無理だと思うわよ?」
母は淡々とした口調でそう言った。
私が衝撃を受けたのは『2ヶ月や3ヶ月で結婚なんて無理』という言葉よりも、実の娘をつかまえて『ゼロ以下』と言い放ったことだ。
漫画みたいな奇跡なんてそうそう起こるわけがないっていうことも、自分が女子力皆無のヲタクだっていうことも、ほかでもない私が一番よくわかってるよ!
だけど努力のひとつもしないで光子おばあちゃんを騙しながら残された時間を過ごすより、ダメ元でも光子おばあちゃんのためにあがいてみた方がいいに決まってるじゃないか。
『何もやらずに後悔するより、できるだけのことをして後悔する方がいい』って、漫画の中の誰かも言っていた。
みんなは店を出ると『二次会はやっぱカラオケだよね』と言って歩き始める。
まだ月曜日なのに、みんな元気だな。
谷口さんは一緒に行こうと何度も誘ってくれたけれど、私は慣れない場の雰囲気にかなり疲れていたし、尚史と一緒に帰る約束をしたので「少し飲みすぎたようだから今日はこれで帰る」と言って二次会のお誘いを断った。
二次会不参加組の私と尚史は店の前でみんなと別れ、駅に向かって一緒に歩いた。
隣に座っていた可愛い女子には目もくれず、料理とお酒を黙々と堪能していた尚史は相変わらずの無表情でお腹をさする。
「よく食べてたね」
「いやー……あれくらいじゃ食い足りないなぁ……」
「あれだけ食べてまだ足りないの?」
「足りないものは足りないんだよ。モモはあんまり食ってなかったから腹減ってるだろ?」
この男は目の前の料理に夢中で私にも無関心だったと思ったのに、私が料理にはほとんど手をつけていなかったことに気付いているらしい。
付き合いが長いとそんなことにまで気付くのか。
「バレた?実はお腹ペコペコなんだ、会話するのに必死で食べる余裕がなかったからね。今夜はカレーだってお母さんが言ってたから、帰って食べるよ。尚史も一緒に食べる?」
「もちろんいただく」
電車の中で一緒にゲームをして、帰り道の途中にあるコンビニに立ち寄り、私はアイスクリーム、尚史はビールを買った。
飲み足りないので私の部屋でゲームをしながら飲むつもりらしい。
二人そろって私の家のリビングに入ると、うちの母と尚史のお母さんがお茶を飲みながら高そうなケーキを食べていた。
私と尚史の帰りが遅くなる日にはよくあることだ。
「おかえり。尚史くんも一緒だったのね」
「飲み会で偶然一緒になったの。カレー食べていい?」
「あら、食べて来たんじゃなかったの?」
「あんまり食べられなかったから」
手を洗って食器棚からお皿を2枚取り出し、ご飯をよそってカレーをかけると、尚史がそれをダイニングのテーブルに運ぶ。
スプーンと水を用意して席に着き、私と尚史が向かい合って食事を始めると、母が私に薄い冊子を差し出した。
どうやらスーパーやファミレスなんかの出入り口によく置いてあるフリーペーパーのようだ。
「何これ?」
「今日買い物に行ったら置いてあったから。一応参考までにね」
「ふーん……?」
フリーペーパーと言えば求人や賃貸住宅の情報誌がほとんどだけど、私はアルバイトもアパートも探していない。
一体なんの参考になるのかと不思議に思いながら受け取ったそのフリーペーパーの表紙を見て、思わず口の中のものを吹き出しそうになった。
そこには『婚活マガジン♡ベストマリッジ』の文字が踊っている。
「念のため言っておくわ。光子おばあちゃんのためになんとかしたいっていうモモの気持ちもわかるけど、現実はそんなに甘くないの。今のゼロ以下の状態から2ヶ月や3ヶ月で結婚なんて無理だと思うわよ?」
母は淡々とした口調でそう言った。
私が衝撃を受けたのは『2ヶ月や3ヶ月で結婚なんて無理』という言葉よりも、実の娘をつかまえて『ゼロ以下』と言い放ったことだ。
漫画みたいな奇跡なんてそうそう起こるわけがないっていうことも、自分が女子力皆無のヲタクだっていうことも、ほかでもない私が一番よくわかってるよ!
だけど努力のひとつもしないで光子おばあちゃんを騙しながら残された時間を過ごすより、ダメ元でも光子おばあちゃんのためにあがいてみた方がいいに決まってるじゃないか。
『何もやらずに後悔するより、できるだけのことをして後悔する方がいい』って、漫画の中の誰かも言っていた。
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