パドックで会いましょう

櫻井音衣

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卒業アルバム

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「で、ヒマだったら悪いですか?」

思わず無愛想にそう言うと、先輩は顔をしかめながらお茶を飲み込んだ。

「なんや感じ悪いな、悪いなんて言うてへんやろ。ヒマやったら久しぶりに一緒に飲みに行かんかなーと思ただけやんけ」
「すみません、感じ悪くて。でも、合コンとかキャバクラとかならお断りします」

おかずの最後の一口を食べ終わった僕は、箸を揃えて手をあわせた。

「アホか!俺かてそんなとこばっかり行ってへんちゅうねん!」
「そうなんですか?僕はてっきり、先輩はそういう女の人のいる所でしか飲まないんだと思ってました」
「ちゃうわ!おまえ、顔に似合わず毒吐くようになってきたな……」
「すみません。根が正直なもんで」

先輩はばつが悪そうな顔をして頭を掻いた。
思い当たる節が多々あるのだろう。

「……まあええわ。たまには男同士、二人でゆっくり飲もうや。それやったらええやろ?」
「そうですね。それならお供します」
「そうや、今日うち来いや。オトンからもろた美味い酒があるんや」


仕事のあと、先輩に連れられて、先輩が一人暮らしをしている部屋にお邪魔した。
たしかに一人暮らしなんだろうけど、なんとなく女の人のいる匂いがする。
それも不特定多数と言った感じで、いろんな物が甘い香りを放っている。

「先輩、一人暮らしなんですよね?」
「そうや。なんかおかしいか?」
「いえ……。あちこちから、いろんな女の人の匂いがするなと思って」
「おまえは犬か!どんだけ鼻が利くねん!!」

ああ、そうか。
言われてみれば、たしかに僕は匂いには人一倍敏感だ。
だからねえさんに初めて会った日も、ねえさんの香りにドキドキしていたんだと思う。
ねえさんが僕の部屋に泊まった日は、いつものねえさんの香りではなくて、僕と同じシャンプーの香りにドキドキしたけれど。
あれは香りにと言うか、ねえさんが僕の部屋で僕と同じシャンプーを使ったことに対してドキドキしていたのかも知れない。

「まあ座れや。用意するわ」
「手伝います」

買ってきたつまみや総菜をテーブルに並べ、とりあえずよく冷えた缶ビールで乾杯した。
渇いた喉を、冷たいビールが炭酸の泡を弾かせながら流れ込んでいく。
勢いよくビールを煽る僕を、先輩は不思議そうに見ている。

「おまえ、なんか感じ変わったな」
「そうですか?」
「ああ、なんて言うか……前はもっと女の子みたいにチビチビ飲んでたやろ。えらい飲めるようになったんやな」

それはもしかしたら、いつも競馬帰りに、ねえさんとおじさんと一緒にビールを飲んでいるせいかも知れない。
以前はグラスに2杯も飲めば真っ赤になっていたのに、ねえさんと焼肉屋に行った時なんて、生ビールをジョッキで3杯も飲んだ。
あの日、ねえさんと一緒に飲んだビールは美味しかった。

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