7 / 60
競馬場デビュー
7
しおりを挟む
「大人の男なんやったら、もっと自信持ってシャンとせぇ!!そんなことより!もうすぐ本馬場入場やから、よう見とけ!」
自分から言い出したくせに、ねえさんはこの話題を完全に投げ出した。
かなり横暴だ。
でも八重歯をのぞかせながらニコッと笑われると、どうにも憎めない。
騎手を乗せた馬たちが馬場に姿を現した。
ねえさんが言うには、馬がレースをするトラックみたいな場所を、馬場と言うんだそうだ。
天気の良い今日は、地面が乾いて状態が良いことから、良馬場と言うらしい。
ねえさんは騎手を乗せて軽く流すように駆ける馬たちを楽しそうに見ている。
今まで僕の周りにはいなかった自由奔放なタイプだ。
ついさっき初めて会ったのに、どういうわけか僕は、この人に惹き付けられている。
不思議な人だなあ。
ねえさんは僕の視線に気付く様子もなく、競走馬が順番にゲートに入っていくのを、相変わらず楽しそうに眺めている。
「おー、あいつゲート嫌って暴れとるなぁ」
やんちゃな子供を見るように、ねえさんは優しい目をして笑う。
ゴール前からではゲートは遠くて見えにくいのに、ねえさんの目には馬たちの様子がよく見えているみたいだ。
凡人の僕は正面の大きな画面で、ゲート入りの様子を見ていた。
ねえさんいわく、この大型の画面はターフビジョンと言うそうだ。
無事に全馬ゲートインを済ませると、スターターの合図でゲートが開いた。
レースの始まりだ。
ゲートから一斉に馬が飛び出す中、2番の馬がわずかに出遅れた。
「あー、出遅れた。新馬にはようあることや」
騎手が出遅れを取り戻そうと手綱をさばく。
順調にスタートを切った馬たちの馬群の先頭には4番の馬がいる。
1番の馬と3番の馬は、馬群の後方に控えている。
「さぁ、どっから仕掛けるんや?」
最終コーナーの手前で4番の馬が馬群を抜け出した。
「おい、やっぱり4番来るんちゃうか?!」
いつの間にそこにいたのか、ねえさんの隣でおじさんが声をあげた。
「あー、仕掛けどころ間違えよったな。あいつは直線でガレて沈むやろ」
最終コーナーを回り直線に入った。
馬たちはゴールめがけて最後の脚を振り絞る。
地を這うような轟音が近づいて来ると、ねえさんはキラキラと目を輝かせた。
「来たで……!!」
「うわっ……!何ですか、これ?地響き?」
あまりの迫力に、僕は思わず息を飲む。
「馬の蹄の音。すごいやろ?」
後方から1番と3番の馬が一気に追い上げてくる。
「よっしゃ行けー!!」
馬群を大きく引き離し、先頭で横並びになった1番と3番の馬が、激しく競り合いながらゴールした。
人気の低い馬同士の組み合わせに落胆した客たちが投げ出したハズレ馬券が、紙吹雪のように無数に宙を舞う。
自分から言い出したくせに、ねえさんはこの話題を完全に投げ出した。
かなり横暴だ。
でも八重歯をのぞかせながらニコッと笑われると、どうにも憎めない。
騎手を乗せた馬たちが馬場に姿を現した。
ねえさんが言うには、馬がレースをするトラックみたいな場所を、馬場と言うんだそうだ。
天気の良い今日は、地面が乾いて状態が良いことから、良馬場と言うらしい。
ねえさんは騎手を乗せて軽く流すように駆ける馬たちを楽しそうに見ている。
今まで僕の周りにはいなかった自由奔放なタイプだ。
ついさっき初めて会ったのに、どういうわけか僕は、この人に惹き付けられている。
不思議な人だなあ。
ねえさんは僕の視線に気付く様子もなく、競走馬が順番にゲートに入っていくのを、相変わらず楽しそうに眺めている。
「おー、あいつゲート嫌って暴れとるなぁ」
やんちゃな子供を見るように、ねえさんは優しい目をして笑う。
ゴール前からではゲートは遠くて見えにくいのに、ねえさんの目には馬たちの様子がよく見えているみたいだ。
凡人の僕は正面の大きな画面で、ゲート入りの様子を見ていた。
ねえさんいわく、この大型の画面はターフビジョンと言うそうだ。
無事に全馬ゲートインを済ませると、スターターの合図でゲートが開いた。
レースの始まりだ。
ゲートから一斉に馬が飛び出す中、2番の馬がわずかに出遅れた。
「あー、出遅れた。新馬にはようあることや」
騎手が出遅れを取り戻そうと手綱をさばく。
順調にスタートを切った馬たちの馬群の先頭には4番の馬がいる。
1番の馬と3番の馬は、馬群の後方に控えている。
「さぁ、どっから仕掛けるんや?」
最終コーナーの手前で4番の馬が馬群を抜け出した。
「おい、やっぱり4番来るんちゃうか?!」
いつの間にそこにいたのか、ねえさんの隣でおじさんが声をあげた。
「あー、仕掛けどころ間違えよったな。あいつは直線でガレて沈むやろ」
最終コーナーを回り直線に入った。
馬たちはゴールめがけて最後の脚を振り絞る。
地を這うような轟音が近づいて来ると、ねえさんはキラキラと目を輝かせた。
「来たで……!!」
「うわっ……!何ですか、これ?地響き?」
あまりの迫力に、僕は思わず息を飲む。
「馬の蹄の音。すごいやろ?」
後方から1番と3番の馬が一気に追い上げてくる。
「よっしゃ行けー!!」
馬群を大きく引き離し、先頭で横並びになった1番と3番の馬が、激しく競り合いながらゴールした。
人気の低い馬同士の組み合わせに落胆した客たちが投げ出したハズレ馬券が、紙吹雪のように無数に宙を舞う。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
灰かぶり姫の落とした靴は
佐竹りふれ
ライト文芸
中谷茉里は、あまりにも優柔不断すぎて自分では物事を決められず、アプリに頼ってばかりいた。
親友の彩可から新しい恋を見つけるようにと焚きつけられても、過去の恋愛からその気にはなれずにいた。
職場の先輩社員である菊地玄也に惹かれつつも、その先には進めない。
そんな矢先、先輩に頼まれて仕方なく参加した合コンの店先で、末田皓人と運命的な出会いを果たす。
茉里の優柔不断さをすぐに受け入れてくれた彼と、茉里の関係はすぐに縮まっていく。すべてが順調に思えていたが、彼の本心を分かりきれず、茉里はモヤモヤを抱える。悩む茉里を菊地は気にかけてくれていて、だんだんと二人の距離も縮まっていき……。
茉里と末田、そして菊地の関係は、彼女が予想していなかった展開を迎える。
第1回ピッコマノベルズ大賞の落選作品に加筆修正を加えた作品となります。
手紙屋 ─ending letter─【完結】
Shizukuru
ライト文芸
終わりは突然、別れは必然。人が亡くなるとはそう言う事だ。
亡くなった人の想いの欠片が手紙となる。その手紙を届ける仕事こそ、黒須家で代々受け継がれる家業、"手紙屋"である。
手紙屋の見習いである黒須寧々子(JK)が仕事をこなしている時に、大事な手紙を白猫に取られてしまった!
白猫を探して辿り着いた神社で出会ったのは……金髪、カラコン、バチバチピアスのド派手な美形大学生だった。
顔はいいが、性格に難アリ。ヤダこの人と思ったのに……不思議な縁から始まる物語。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
想妖匣-ソウヨウハコ-
桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。
そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。
「貴方の匣、開けてみませんか?」
匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。
「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」
※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる