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桜ひとひら落ちて、人生の春を知る

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季節は移り変わり、春。
満開の桜が花吹雪を散らす。
バーの仕事をいつもより早めに終えると、早苗さんが夜桜を見ながら散歩しようと言った。
日付は既に変わり、明日は私の誕生日。
今日は20代最後の日だ。
思えば20代はいろいろあった。
陽平と出会って恋をして、突然陽平を失う事を恐れて逃げ出した。
そして壮介と出会い、一緒に暮らして、婚約して、結婚の直前に破談になった。
それから順平と出会い、嘘や偽りに翻弄され、陽平の死を知って悲しい思いもした。
そして早苗さんと出会い、再び愛し愛される事の喜びや幸せの意味を知った。
私の予定では、何がなんでも20代のうちに結婚しているはずだった。
今になって考えてみるとそれが滑稽にも思えるけれど、あの頃の私は私なりに幸せを求めて必死だったんだ。
とりあえず結婚すれば幸せになれると思っていたんだから、自分でも笑ってしまう。
私は私なりに進めばいい。
幸せが結婚の延長線上にあるというのも間違いではないかも知れないけれど、結婚は幸せの延長線上にあるものなんだと今は思う。
早苗さんと手を繋いで桜並木道を歩きながら、そんな事を考える。

「夜桜、綺麗ですね」

春の夜風がフワリと桜の花びらを運ぶ。
私の髪に舞い降りた花びらを、早苗さんが指先で摘まんだ。

「明日は朱里の誕生日か」
「そうです。今日が20代最後の日ですよ。20代は楽しい事もつらい事も、悲しい事も嬉しい事も、出会いも別れも……ホントにいろいろありました」
「そのいろいろあった20代最後の日のしめくくりに……朱里、俺と結婚しませんか」
「……えっ?」

突然のプロポーズに驚いて、早苗さんの顔をじっと見た。
早苗さんは少し照れくさそうに笑っている。

「……イヤなら断っていいんだよ」
「い、イヤじゃないです!!」

早苗さんは私と向かい合わせになって、両手で優しく私の腰を抱き寄せた。

「じゃあ改めて……朱里、俺と結婚して下さい」
「ハイ……喜んで」

早苗さんは嬉しそうに笑って、私をギュッと抱きしめた。
私も早苗さんの胸に頬をうずめて、背中に腕を回して早苗さんを抱きしめた。
早苗さんに抱きしめられると、あたたかくて優しくて安心する。
私も早苗さんにとって唯一の安らげる存在でありたいと強く思う。

「朱里、一生大事にするよ」
「私も早苗さんを一生大事にします」
「幸せになろう、二人で」

桜の花が舞い散る中で、私たちは優しいキスを交わした。
嘘も偽りもないまっすぐな気持ちで、大切な人と生涯を共にすると約束した。
キラキラ光る想い出は胸にしまって、大切な人と手を取り合って、この先に続く未来を自分の足で歩いていく。
これから先の人生に、サクラは要らない。



─END─

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