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聞くは一時の後悔、聞かぬは一生の苦痛
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しばらくすると、早苗さんはダイニングテーブルに料理を並べて私を呼んだ。
私は少しホッとしてダイニングセットのイスに座り、早苗さんが作ってくれたスープやリゾットを二人で一緒に食べた。
料理の味まであたたかくて優しい。
「どう?口に合うかな?」
「とっても美味しいです」
「朱里のためなら料理くらいいくらでも……毎日だって作ってあげるよ」
私を甘やかす早苗さんの言葉で、胸の奥がキュッと音をたてて切なく疼いた。
……早苗さんといるとドキドキし過ぎて、やっぱり心臓に悪い。
食事の後はミルクティーを淹れてくれた。
ミルクティーを飲みながら、早苗さんはゆっくりと話し始めた。
「昨日久しぶりに佐倉社長が店に来たんだ。あの会社、佐倉社長が主宰してる小さい劇団の役者をサクラとして雇ってるんだよ」
「順平がいたあの劇団の事ですか?」
「そう。順平をうちの店に紹介してくれたのは佐倉社長だから、何か知ってるかもと思って順平の事いろいろ尋ねてみた」
早苗さんは私の話していた昔の順平と、自分が知っている今の順平がどうしても同じだとは思えなかったらしい。
それは私も感じていた事だ。
「ちなみに今のバイトの俊希も佐倉社長の紹介で来たんだよ。やっぱり劇団の役者で、昔の順平の事も知ってた」
「あ……覚えてます、俊希くん。何度か一緒に飲みに行った事もあるし……」
「朱里が店を辞めた後に入ったから、会わなかったんだね」
早苗さんが佐倉社長から聞いた話によると、順平は最近、佐倉代行サービスを辞めたそうだ。
特に理由を言うわけでもなく、ただ辞めたいと言ったらしい。
「知らなかった……。私、順平がなんの仕事をしていて、いつもどこで何してるか、何も知らないんです。家でもほとんど話さないし、一緒にいる事もほとんどなくて……」
「えっ……?それって一緒にいる意味あるの?」
「……わかりません」
早苗さんはミルクティーを一口飲んで、ためらいがちに口を開いた。
「あのさ……朱里には酷な話するよ。いい?」
「……ハイ」
「あいつ、他にも女がいる。それも一人や二人じゃないよ。朱里と付き合い始めた後もそれは変わってないみたいだ。順平が女と一緒にいるのを俺も何度か見てるし、俊希もそう言ってた」
……やっぱり。
そんな気はしてたんだ。
「昔からそうだったわけじゃないですよね」
「3年くらい前に、一生懸命舞台の稽古してたのに急に来なくなったらしい。それまでの順平は明るくて優しくて素直で、すごくいいやつだったってさ。主役で舞台に立つのを彼女に見せたいって言って、すごく頑張ってたんだって」
私の好きだった順平だ。
いつも一生懸命頑張っていた順平の笑顔は、今でも忘れない。
私は少しホッとしてダイニングセットのイスに座り、早苗さんが作ってくれたスープやリゾットを二人で一緒に食べた。
料理の味まであたたかくて優しい。
「どう?口に合うかな?」
「とっても美味しいです」
「朱里のためなら料理くらいいくらでも……毎日だって作ってあげるよ」
私を甘やかす早苗さんの言葉で、胸の奥がキュッと音をたてて切なく疼いた。
……早苗さんといるとドキドキし過ぎて、やっぱり心臓に悪い。
食事の後はミルクティーを淹れてくれた。
ミルクティーを飲みながら、早苗さんはゆっくりと話し始めた。
「昨日久しぶりに佐倉社長が店に来たんだ。あの会社、佐倉社長が主宰してる小さい劇団の役者をサクラとして雇ってるんだよ」
「順平がいたあの劇団の事ですか?」
「そう。順平をうちの店に紹介してくれたのは佐倉社長だから、何か知ってるかもと思って順平の事いろいろ尋ねてみた」
早苗さんは私の話していた昔の順平と、自分が知っている今の順平がどうしても同じだとは思えなかったらしい。
それは私も感じていた事だ。
「ちなみに今のバイトの俊希も佐倉社長の紹介で来たんだよ。やっぱり劇団の役者で、昔の順平の事も知ってた」
「あ……覚えてます、俊希くん。何度か一緒に飲みに行った事もあるし……」
「朱里が店を辞めた後に入ったから、会わなかったんだね」
早苗さんが佐倉社長から聞いた話によると、順平は最近、佐倉代行サービスを辞めたそうだ。
特に理由を言うわけでもなく、ただ辞めたいと言ったらしい。
「知らなかった……。私、順平がなんの仕事をしていて、いつもどこで何してるか、何も知らないんです。家でもほとんど話さないし、一緒にいる事もほとんどなくて……」
「えっ……?それって一緒にいる意味あるの?」
「……わかりません」
早苗さんはミルクティーを一口飲んで、ためらいがちに口を開いた。
「あのさ……朱里には酷な話するよ。いい?」
「……ハイ」
「あいつ、他にも女がいる。それも一人や二人じゃないよ。朱里と付き合い始めた後もそれは変わってないみたいだ。順平が女と一緒にいるのを俺も何度か見てるし、俊希もそう言ってた」
……やっぱり。
そんな気はしてたんだ。
「昔からそうだったわけじゃないですよね」
「3年くらい前に、一生懸命舞台の稽古してたのに急に来なくなったらしい。それまでの順平は明るくて優しくて素直で、すごくいいやつだったってさ。主役で舞台に立つのを彼女に見せたいって言って、すごく頑張ってたんだって」
私の好きだった順平だ。
いつも一生懸命頑張っていた順平の笑顔は、今でも忘れない。
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