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恋は嘘と無情の種

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これまでの順平との経緯をすべて話すと、早苗さんは私の顔をじっと見た。

「それで朱里は……どうするの?」
「……ごめんなさい……。私は順平と……。だから、早苗さんとはお付き合いできません」
「ホントに順平が好き?」
「……ハイ」
「無理してない?」

無理なんてしていないと言いたいのに、これ以上何か話すと泣いてしまいそうで、ただ黙ってうなずいた。

「ホントは迷ってるだろ。朱里は嘘つくのヘタだから、なんにも言わなくても俺にはわかるよ」

うつむいたままで首を横に振ると、早苗さんは大きなため息をついた。

「朱里が本当に順平の事が好きで、一緒にいて幸せなら俺がとやかく言う事じゃないと思ってる。でも、今の朱里は全然幸せそうには見えない。順平を捨てたって言う過去の罪悪感に縛り付けられて、それを消そうとしてるだけだ。朱里の迷う理由が俺なら……黙って身を引くわけにはいかないよ」

見透かされてる……。
でもそれを認めたら、私はまた順平を裏切ることになってしまう。

「迷ってなんかない……。もう決めたんです、順平と一緒にいるって」
「俺はただ朱里の気持ちを大事にしたかったんだけどな……。こんな事なら大人ぶって待つなんて言うんじゃなかった。あのまま連れて帰れば良かったな」

早苗さんはこんな時まで優しい。
これ以上一緒にいると、またその優しさに甘えてしまいそうになる。

「早苗さんと会うのはこれで終わりにします。勝手で申し訳ないんですけど……お店も辞めさせて下さい……」

私が頭を下げると、早苗さんはまた大きなため息をついた。
路頭に迷っていたところを助けられ仕事まで与えてもらったのに、身勝手で恩知らずな事をしていると思う。
だけど何事もなかったように平気な顔をして、今まで通りに一緒に仕事をするなんて、私にはできそうもない。
それに何より、私自身がもうこれ以上早苗さんと一緒にいるのがつらいのだ。
早苗さんは何も答えない。
責めるような重い沈黙が私の肩にのし掛かる。

「お願いします……辞めさせてください」

涙が溢れそうになるのをこらえて、もう一度深く頭を下げた。

「……とりあえず……ここ出ようか」

カフェを出ると、早苗さんは何も言わず私の手を引いて歩き出した。
いつもより強いその力に私は戸惑う。

「早苗さん……?」
「俺だって朱里が好きだ。ハイそうですかって簡単に引き下がれないよ」

私は早苗さんに手を引かれて歩き続け、見知らぬマンションに連れて行かれた。
早苗さんは鍵を開けてドアを開き、私の腰に手を回して体ごとグイッと引き寄せる。
背後で閉まったドアの音が、静かな部屋にやけに大きく響いた。

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