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恋は嘘と無情の種

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「俺がキスしたいのは朱里だけなんだ。だから他の女にはしないし、させない。朱里も……俺にだけして欲しい」

思い詰めたその目にたじろいでしまう。
順平が必死で私を取り戻そうとしているのがわかった。

「順平……私……」

どうしていいかわからず、言葉にならない。
順平は何も答えられない私を悲しそうに見つめた。

「また……俺を捨てて、他の男のところに行くつもり?」

鋭い刃物で斬りつけられたように、胸が激しく痛んだ。
私は私自身を守るために順平を捨てた。
その過去は変えられない。
自分の命が残りわずかだと悟った時に、順平はもう一度私に会いたいと思ってくれた。
いなくなった私をずっと探してくれていた。
順平を傷付けてしまったのは弱かった私だ。
何度も交わした約束をやぶってしまった罪を、私は償わなければいけない。
今なら何も恐れず、順平と一緒に同じ未来を目指す事ができるだろうか?
ずっと好きだった順平ともう一度一緒にいられるんだから、きっと幸せなはずだ。
二人ともあの頃とは違うけど、それでもきっとまた昔みたいに……あの頃よりも幸せな気持ちでそばにいられるのなら……。

「行かないよ……。順平と……一緒にいる……」

無意識のうちに、そう言っていた。
順平はまるで心の奥を覗き込むように、私の目をじっと見つめる。

「ホントに……?」
「……うん、一緒にいるよ」
「マスターの事は?」

順平と一緒にいることを決めたのだから、もう早苗さんとは一緒にいられない。
私の気持ちを何よりも大切にしてくれた早苗さんの優しい顔が浮かんで、針で突かれるようにチクチクと胸が痛んだ。

「ちゃんと話せばわかってくれると思う。マスターとは付き合ってたわけじゃないし、好きとか……そういうんじゃなかったから……」
「じゃあ……俺の事、好き?」
「うん……好きだよ」

順平は嬉しそうに笑って、包み込むように優しく私を抱きしめた。
私は胸にわき上がる罪悪感を打ち消そうと、順平の胸に顔を埋める。

「朱里……おかえり、やっと俺んとこ帰ってきてくれた……。もう絶対離さない」


その夜私は、3年ぶりに順平に抱かれた。
優しいキスも、広くてあたたかい胸も、身体中に感じるすべては順平のはずなのに、どうしても違和感を拭えなかった。
あの頃の順平は、いつも宝物を扱うように優しく私の体に触れて、何度も好きだよと言いながら抱いてくれた。
誰だって3年も経つと、何かしら変わるのだろう。
離れている間、たくさんの女の子を手当たり次第に抱いた順平と、壮介に抱かれていた私。
あの頃とまったく同じなはずがない。
順平の手付きや重ねた肌の感触に違和感を覚えるたびに、本当に順平なのかとふと思う。
何度も求められ激しく揺さぶられて、からっぽだった心と体を順平で満たされたはずなのに、なぜかまだ心のどこかにあいた穴が、埋め尽くされていないような気がした。


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