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恋は嘘と無情の種
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冷めきったコーヒーを飲みながら、順平の言った言葉を思い出してみる。
有りもしない事を信じるには、必ず何かきっかけがあったはずだ。
それがなんなのかはわからないけれど、私は嘘をついていないし、順平も嘘をついているようには見えない。
私が黙り込んでいると、順平がテーブルの上で私の手を握った。
「それで朱里は……俺の事なんかもうどうでもいいって思ってる?」
どうでもいいとは思っていない。
だけど今は、どうしていいかわからないというのが本音だ。
昔のままで元に戻れるとは思えない。
「……ホントに好きだった。ずっと忘れた事なんてないよ。だけど……」
「俺のところに戻って来て欲しい。もう朱里がいやがるような事はしない。浮気もしない。大事にする。だからもう一度、俺だけを見て」
自ら止めたはずの順平との時間が、まさかこんな形で動き出すとは思ってもみなかった。
私はもう一度、順平とやり直せる?
順平といれば、あの頃みたいに幸せな気持ちになれるのかな?
病気が治った順平となら、一緒にいて不安になることもないだろう。
だけど私の頭には早苗さんの顔がちらついて、今すぐ答を出すことはできない。
「……少し考えさせて。いっぺんにいろんな事がありすぎて、気持ちの整理がつかない……」
引っ込めようとした手を、順平は逃がさないとでも言うように強く握り直した。
真剣な目で見つめられ、私はうつむいてしまう。
「俺よりマスターが好き?」
「……わからないよ……」
「自分の気持ちなのにわからないの?」
「ごめん……」
ずっと順平を忘れたくなくて、もう本気で誰も好きになったりはしないと思っていた。
もう会う事はないと思っていた順平が、目の前にいる。
好きなら何も迷う事なんてないはずなのに、私は順平の手を取る事を躊躇している。
自分の気持ちがわからない。
順平は四つん這いのような格好で近付いて来て私のすぐ隣に座り、私をギュッと抱きしめた。
「俺は今も朱里が好きだ。もういつ病気で倒れる心配もない。ずっと朱里のそばにいる。どうすればあの頃みたいに俺だけを見てくれる?こうすれば……あの頃と同じ気持ちになる?」
順平は私の顎を持ち上げて突然唇を塞いだ。
再会してから何度もされた強引なキスは、順平がもうあの頃の順平とは違うことを物語っている。
私が顎を引いて唇を離すと、順平は私の頭を引き寄せて更に唇を貪った。
息をするのも忘れそうなほどの激しいキスで、順平は私を追い詰める。
あまりの息苦しさに耐えかねた私は、握りしめた両手で順平の背中をドンドン叩いた。
やっと解放された唇から空気を吸い込み、手の甲で唇を押さえる。
有りもしない事を信じるには、必ず何かきっかけがあったはずだ。
それがなんなのかはわからないけれど、私は嘘をついていないし、順平も嘘をついているようには見えない。
私が黙り込んでいると、順平がテーブルの上で私の手を握った。
「それで朱里は……俺の事なんかもうどうでもいいって思ってる?」
どうでもいいとは思っていない。
だけど今は、どうしていいかわからないというのが本音だ。
昔のままで元に戻れるとは思えない。
「……ホントに好きだった。ずっと忘れた事なんてないよ。だけど……」
「俺のところに戻って来て欲しい。もう朱里がいやがるような事はしない。浮気もしない。大事にする。だからもう一度、俺だけを見て」
自ら止めたはずの順平との時間が、まさかこんな形で動き出すとは思ってもみなかった。
私はもう一度、順平とやり直せる?
順平といれば、あの頃みたいに幸せな気持ちになれるのかな?
病気が治った順平となら、一緒にいて不安になることもないだろう。
だけど私の頭には早苗さんの顔がちらついて、今すぐ答を出すことはできない。
「……少し考えさせて。いっぺんにいろんな事がありすぎて、気持ちの整理がつかない……」
引っ込めようとした手を、順平は逃がさないとでも言うように強く握り直した。
真剣な目で見つめられ、私はうつむいてしまう。
「俺よりマスターが好き?」
「……わからないよ……」
「自分の気持ちなのにわからないの?」
「ごめん……」
ずっと順平を忘れたくなくて、もう本気で誰も好きになったりはしないと思っていた。
もう会う事はないと思っていた順平が、目の前にいる。
好きなら何も迷う事なんてないはずなのに、私は順平の手を取る事を躊躇している。
自分の気持ちがわからない。
順平は四つん這いのような格好で近付いて来て私のすぐ隣に座り、私をギュッと抱きしめた。
「俺は今も朱里が好きだ。もういつ病気で倒れる心配もない。ずっと朱里のそばにいる。どうすればあの頃みたいに俺だけを見てくれる?こうすれば……あの頃と同じ気持ちになる?」
順平は私の顎を持ち上げて突然唇を塞いだ。
再会してから何度もされた強引なキスは、順平がもうあの頃の順平とは違うことを物語っている。
私が顎を引いて唇を離すと、順平は私の頭を引き寄せて更に唇を貪った。
息をするのも忘れそうなほどの激しいキスで、順平は私を追い詰める。
あまりの息苦しさに耐えかねた私は、握りしめた両手で順平の背中をドンドン叩いた。
やっと解放された唇から空気を吸い込み、手の甲で唇を押さえる。
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