季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

待たれる間が花、待つ男は大人？

２

「早苗さんも緊張……してるんですか？」
「してるよ。朱里ちゃんと初めてのデートだからね。嬉しくて、年甲斐もなくドキドキしてる」

私と会うのをそれほど楽しみにしていてくれたのは嬉しいけれど、そういうストレートな甘い言葉を言われる事には慣れていないから、照れくさくてしょうがない。
顔がカーッと熱くなるのを感じて、思わず両手で頬を覆った。

「そんな事言われると照れくさいです……」
「あれ？照れてるの？かわいいなぁ、朱里ちゃんは」
「かっ……かわいいなんて……！」

ヤバイな……この感じは……。
言われ慣れない甘い言葉に酔わされて、完全に骨抜きにされてしまいそうだ。
私……今日一日もつだろうか……。


しばらくドライブをした後、お洒落なイタリアンレストランで昼食を取りながら、この後どこに行こうかと相談した。

「私、あまりデートらしいデートをした事がないので……思い浮かぶのは水族館とか動物園とか遊園地とか、子供っぽいところばかりです」
「動物園かぁ。そう言えば動物園なんてもう何年も行ってないな。何十年か？」

それはおそらくたまたま動物園ではデートしなかったと言うだけで、早苗さんはかなりモテそうだし、きっとこれまでいろんな女性とのお付き合いがあったに違いない。
どんな女性と恋愛してきたんだろうと少し気になる。

「何十年なんて大袈裟です」
「いや、ホントに。行ってみる？」
「私は動物園が好きなので楽しいし嬉しいですけど……早苗さんは退屈しませんか？」
「俺も結構好きだよ、動物園。それに朱里ちゃんと一緒に行けるならどこでも嬉しいし、朱里ちゃんが楽しいなら俺も楽しい」

またそういう事を……!!
なんだかもう申し訳ないくらい恥ずかしくて、赤い顔をして思わずうつむいた。

「朱里ちゃん顔赤い。ホントに照れ屋さんなんだね」

早苗さんは笑いながら指先で私の頬に触れた。
余計に顔が赤くなる。
大人って……大人って……ホントずるい!!
何気ない仕草や言葉に余裕とか色気とかありすぎて、こっちの身がもたないよ！
今日の早苗さんは随分積極的だ。
早苗さんは男なのだと、今までの何倍も意識してしまう。
この人が私と付き合いたいなんて、なんだか信じられない。
少し顔を上げると、早苗さんと目が合った。
みっ……見られてた!!

「ん……？どうしたの？」
「いえ……何も……」

こんなに色っぽい目をする人だった？
その視線に捕らえられているのだと思うと、体の奥がゾクリと疼く。
早苗さん自身は無意識なのか、大人の男の色気で私を翻弄していることに気付く様子もなく、何食わぬ顔で料理を口に運んでいる。
その指先や唇がやけに目について、私はまたドキドキしてしまう。
何考えてるの、私は……？

「食事が済んだら動物園行ってみようか」
「ハイ……」

きっと今、私の頭の中は欲情に駆られたメスみたいになっている。
早苗さんがエスパーじゃなくて良かった。