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嘘も通せば修羅場になる
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カフェに寄るとマスターがいたので、バーの仕込みを手伝いながら、夕方に用があるので来るのが少し遅くなると伝えた。
「用って?」
「元婚約者の部屋に荷物を取りに行くんです。夕方なら車で運んでやるって」
「そうか……。順平には?」
「言ってません」
「じゃあさ、順平に頼めば?車貸すよ」
壮介に頼むのも本当はイヤだけど、順平に頼むのはもっと気が引ける。
きっとものすごく迷惑そうな顔をするか、表情ひとつ変えずに断るかのどちらかだと思う。
「でも、順平は面倒だって言うと思います」
「いいよ、俺から言ってあげるから大丈夫」
マスターは早速順平に電話をして、私と一緒に壮介の部屋へ荷物を取りに行けと命じてしまった。
この間から思っていたけど、順平は悪態をつきながらもマスターには逆らえないようだ。
単純に雇われている身だからなのか、それとも何か弱味でも握られているんだろうか。
昔の順平は大人しくて、頼まれると断れない優しい性格だったけれど、今はまったく別人のような気がする。
話し方や考え方は変わっても、根底にある優しさは変わっていないと思いたい。
「順平、この店に勤めてもう長いですか?」
「そうでもないよ。まだ1年くらい」
「そうですか。その割になんと言うか、順平はマスターに対してもタメ口だし、遠慮がないですね」
「ああ、あいつ最初からあんな感じなんだよ。佐倉社長の紹介でうちの店に来たんだけどね」
1年前にマスターと出会った時には既に今のような態度だったのなら、私と別れてからの2年間ですっかり変わってしまったと言うことか。
私の知らない順平の3年間が少し気になる。
「ちなみにカフェの店長は俺の嫁の弟」
「義理の弟さんですね。道理で似てないと思いました」
「嫁って言っても、随分前に離婚してるんだけどね。もう8年になるな」
店長がマスターの別れた奥さんの弟だと言うことは初耳だった。
なんだか複雑な関係だ。
結婚はゴールじゃないってよく言うけれど、それは本当かも知れない。
私と壮介だって、結婚してもすぐに離婚する事になっていたのかもと考えると、結婚って一体なんのためにするんだろうかと思ったりする。
お互いに確かな愛情がなければ、結婚なんて形式上の便宜を図るだけのものになる。
そんな不確かな婚姻と言う名の契約を、ずっと続く安住の地だと信じて必死になっていた私はバカみたいだ。
今度こそは間違っても浮気なんかせずに私だけを愛してくれる人を見つけよう。
できれば私も一生本気で愛せる人がいい。
義務とか責任とかそんなものだけでなく、ちゃんと心から愛せる人と、いつかは結婚して幸せになりたい。
そんな日が来るのは、一体いつになるだろう?
さっきから順平は、私の隣で不服そうに何度も同じ言葉を呟いている。
「まったく、なんで俺が……」
確かに順平にとっては迷惑でしかないだろう。
予想してはいたけれど、こう何度も言われるとつらい。
「めんどくせぇな」
「ごめん……」
申し訳なくて、運転席でハンドルを握る順平の横顔をまともに見る事ができない。
そういえば、あの頃順平は車の免許を持っていなかったな。
私と離れてから免許を取ったんだろう。
「用って?」
「元婚約者の部屋に荷物を取りに行くんです。夕方なら車で運んでやるって」
「そうか……。順平には?」
「言ってません」
「じゃあさ、順平に頼めば?車貸すよ」
壮介に頼むのも本当はイヤだけど、順平に頼むのはもっと気が引ける。
きっとものすごく迷惑そうな顔をするか、表情ひとつ変えずに断るかのどちらかだと思う。
「でも、順平は面倒だって言うと思います」
「いいよ、俺から言ってあげるから大丈夫」
マスターは早速順平に電話をして、私と一緒に壮介の部屋へ荷物を取りに行けと命じてしまった。
この間から思っていたけど、順平は悪態をつきながらもマスターには逆らえないようだ。
単純に雇われている身だからなのか、それとも何か弱味でも握られているんだろうか。
昔の順平は大人しくて、頼まれると断れない優しい性格だったけれど、今はまったく別人のような気がする。
話し方や考え方は変わっても、根底にある優しさは変わっていないと思いたい。
「順平、この店に勤めてもう長いですか?」
「そうでもないよ。まだ1年くらい」
「そうですか。その割になんと言うか、順平はマスターに対してもタメ口だし、遠慮がないですね」
「ああ、あいつ最初からあんな感じなんだよ。佐倉社長の紹介でうちの店に来たんだけどね」
1年前にマスターと出会った時には既に今のような態度だったのなら、私と別れてからの2年間ですっかり変わってしまったと言うことか。
私の知らない順平の3年間が少し気になる。
「ちなみにカフェの店長は俺の嫁の弟」
「義理の弟さんですね。道理で似てないと思いました」
「嫁って言っても、随分前に離婚してるんだけどね。もう8年になるな」
店長がマスターの別れた奥さんの弟だと言うことは初耳だった。
なんだか複雑な関係だ。
結婚はゴールじゃないってよく言うけれど、それは本当かも知れない。
私と壮介だって、結婚してもすぐに離婚する事になっていたのかもと考えると、結婚って一体なんのためにするんだろうかと思ったりする。
お互いに確かな愛情がなければ、結婚なんて形式上の便宜を図るだけのものになる。
そんな不確かな婚姻と言う名の契約を、ずっと続く安住の地だと信じて必死になっていた私はバカみたいだ。
今度こそは間違っても浮気なんかせずに私だけを愛してくれる人を見つけよう。
できれば私も一生本気で愛せる人がいい。
義務とか責任とかそんなものだけでなく、ちゃんと心から愛せる人と、いつかは結婚して幸せになりたい。
そんな日が来るのは、一体いつになるだろう?
さっきから順平は、私の隣で不服そうに何度も同じ言葉を呟いている。
「まったく、なんで俺が……」
確かに順平にとっては迷惑でしかないだろう。
予想してはいたけれど、こう何度も言われるとつらい。
「めんどくせぇな」
「ごめん……」
申し訳なくて、運転席でハンドルを握る順平の横顔をまともに見る事ができない。
そういえば、あの頃順平は車の免許を持っていなかったな。
私と離れてから免許を取ったんだろう。
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