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嘘も通せば修羅場になる
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なんという事だ。
私は今、なぜか順平の腕の中にいる。
背後から抱き寄せられ、これでもかと言うくらいに密着されて、すぐ目の前にはイヤミなほど整った順平の顔がある。
その大きな手は私の頭を強引に引き寄せ、いつも憎まれ口ばかり叩く口角の上がった自信有りげな唇は、私の唇を塞いでいる。
非常にマズイ事になっている。
どうしてこんな事になってしまったのか?
どうでもいい事に巻き込まれてしまった。
目一杯おしゃれをして予告通り午後10時過ぎに一人でバーにやって来た恵梨奈は、カウンター席に座りスクリュードライバーと野菜スティックをオーダーして、時折私やマスターとも会話をしながらお酒を飲んだ。
そしてもうすぐ午前0時になろうかと言う頃、キッチンで私が洗い物をして、順平がグラスを拭いていると、恵梨奈は順平目当ての若い女性客の目を盗むようにしてやって来た。
恵梨奈が酔ったふうを装い『バイト終わるの待ってるから部屋に泊めて』と、甘えた声で順平にお願いした。
すると美しい顔をした悪魔のようなこの男は、手にしていたグラスを静かに置き、洗い物をしていた私を背後から抱き寄せた。
そしていけしゃあしゃあと言い放ちやがった。
「これ、俺の女。こいつと一緒に暮らしてるから、おまえと部屋でやんの無理だわ」
過去の事はともかく、いつから私は順平の女になったんだ?
恵梨奈だけでなく私も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたに違いない。
「まさか……冗談でしょ?」
「嘘だと思うなら見に来るか?」
順平のやつ、恵梨奈を袖にする口実に私を使いやがった。
呆れて言葉も出ない。
しかしこの体勢で、洗剤の泡だらけの濡れた手をどうしたら良いものか。
私は二人の会話を他人事みたいに聞き流しながら、オバケのように両手を前に出して、その手から床に泡がポタポタ落ちるのを気にしていた。
しかし心配するべきはそこじゃない。
恵梨奈とは明日からもカフェのバイトで顔を合わせるのに、気まずくなるのは非常に困る。
おそるおそる顔を上げると、恵梨奈は口をギュッと引き結び目をつり上がらせて、鬼のような形相をしていた。
「朱里さん、黙ってるなんてひどい!!私、順平くんの事本気だったのに!!」
「いや……ちょっと待ってよ、私は……」
どうして私が責められなきゃいけないのか。
どう考えても納得がいかず、順平とはそんな関係じゃないと否定しようとすると、順平はあろうことか、その形の良い色気のある唇で咄嗟に私の口を塞いだ。
恵梨奈は泣きながら客席に戻り、グラスに残っていたお酒を一気に飲み干した。
そして乱暴に掴んだ高そうなブランド物のバッグから派手なブランド物の財布を取り出して、会計をきっちり済ませて店を出て行った。
それがほんの数分……いや、数十秒前の出来事だ。
私は今、なぜか順平の腕の中にいる。
背後から抱き寄せられ、これでもかと言うくらいに密着されて、すぐ目の前にはイヤミなほど整った順平の顔がある。
その大きな手は私の頭を強引に引き寄せ、いつも憎まれ口ばかり叩く口角の上がった自信有りげな唇は、私の唇を塞いでいる。
非常にマズイ事になっている。
どうしてこんな事になってしまったのか?
どうでもいい事に巻き込まれてしまった。
目一杯おしゃれをして予告通り午後10時過ぎに一人でバーにやって来た恵梨奈は、カウンター席に座りスクリュードライバーと野菜スティックをオーダーして、時折私やマスターとも会話をしながらお酒を飲んだ。
そしてもうすぐ午前0時になろうかと言う頃、キッチンで私が洗い物をして、順平がグラスを拭いていると、恵梨奈は順平目当ての若い女性客の目を盗むようにしてやって来た。
恵梨奈が酔ったふうを装い『バイト終わるの待ってるから部屋に泊めて』と、甘えた声で順平にお願いした。
すると美しい顔をした悪魔のようなこの男は、手にしていたグラスを静かに置き、洗い物をしていた私を背後から抱き寄せた。
そしていけしゃあしゃあと言い放ちやがった。
「これ、俺の女。こいつと一緒に暮らしてるから、おまえと部屋でやんの無理だわ」
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恵梨奈だけでなく私も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたに違いない。
「まさか……冗談でしょ?」
「嘘だと思うなら見に来るか?」
順平のやつ、恵梨奈を袖にする口実に私を使いやがった。
呆れて言葉も出ない。
しかしこの体勢で、洗剤の泡だらけの濡れた手をどうしたら良いものか。
私は二人の会話を他人事みたいに聞き流しながら、オバケのように両手を前に出して、その手から床に泡がポタポタ落ちるのを気にしていた。
しかし心配するべきはそこじゃない。
恵梨奈とは明日からもカフェのバイトで顔を合わせるのに、気まずくなるのは非常に困る。
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「朱里さん、黙ってるなんてひどい!!私、順平くんの事本気だったのに!!」
「いや……ちょっと待ってよ、私は……」
どうして私が責められなきゃいけないのか。
どう考えても納得がいかず、順平とはそんな関係じゃないと否定しようとすると、順平はあろうことか、その形の良い色気のある唇で咄嗟に私の口を塞いだ。
恵梨奈は泣きながら客席に戻り、グラスに残っていたお酒を一気に飲み干した。
そして乱暴に掴んだ高そうなブランド物のバッグから派手なブランド物の財布を取り出して、会計をきっちり済ませて店を出て行った。
それがほんの数分……いや、数十秒前の出来事だ。
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