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ちょうどいい距離感

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二人っきりで甘い週末を過ごした翌日、いつも通りの月曜の朝。
朝礼を終えて少し経った頃、支部に健太郎がやって来た。
健太郎はいつものように愛美にお弁当を渡しながら「ものは相談なんだけど」と言って、愛美の隣にしゃがみこんだ。

「ここの支部限定で、弁当の配達始めようかと思って」
「この支部限定?なんで?」

愛美はパソコンで支社からの新商品に関する業務連絡を確認しながら尋ねる。

「先週、うちの店で歓迎会やった時にさ、ランチに来てくれって言ったんだけど、それがなかなかねって言うから、なんでか理由を聞いてみたんだよ」
「で、その理由はなんだったの?」
「隣の支部のオバチャンたちが陣取って、おしゃべりしながら長居してるじゃん?それが居心地悪いんだってさ。それでなかなか席が空かない時もあるし、席が空くの待てないって」
「あー……それはわかるかも」

少しおしゃべりが好きで堅実な主婦の集まりのような第二支部の職員は、派手で噂好きでおしゃべりな第一支部の職員がどうも苦手らしい。

「それに愛美はいつも俺の弁当で羨ましいって言ってたから、だったらやってみようかと思って。朝のうちに注文した人の分だけお昼前に届けるって、どうだろう?」
「いいんじゃない?自分でお弁当作ってくる人もいるけど、毎日買いに行く人もいるから。とりあえず、支部長に話してみたら?」
「そうだな。OKだったら、ここの人たちの好きなものとか、苦手なものとかもリサーチしたいしな。ちょっと聞いてみるか」

健太郎は立ち上がって、支部長席に向かった。

緒川支部長は、営業部に提出するために、今年度の支部の業績をまとめていた。
先ほどから、健太郎が愛美の隣で何やら話し込んでいる。
愛美と健太郎の間には何もないとわかっていても、やはり気になって落ち着かない。

   (何話してるんだろう?まさかあいつ、また愛美を口説いてるんじゃ……)

マウスを握る手に、必要以上に力がこもる。

   (落ち着け……。愛美はあいつより俺を選んでくれたんだ。なんでもない、気にするな……)

平常心を保とうと必死で自分に言い聞かせていると、健太郎が立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。

   (なんだ?やる気か?俺はおまえなんかに愛美を渡さないぞ!!)

なんともない顔をしながら、心の中でファイティングポーズを取った時、健太郎は支部長席の前に立ち、ニコニコ笑った。

「緒川さん、おはようございます」
「おはようございます。先日はお世話になりました」

社会人としての礼儀は大事だと、一応、先週の歓迎会のお礼を言ってみたりする。

「こちらこそありがとうございました。ところで、ひとつ相談があるんですが、少しだけお時間よろしいですか?」

いつになく礼儀正しい健太郎に、緒川支部長は妙な寒気を覚えた。

「少しなら……。で、相談って?」

健太郎は愛美に話した内容と同じ事を緒川支部長に話した。
そういう事ならと緒川支部長からの許可が下りると、健太郎は頭を下げて帰っていった。
緒川支部長は肩透かしを食らった気分で、大きく息をついて再びパソコンに向かった。


その日の午後、3時過ぎ。
健太郎はチラシの束を持って、再び支部にやって来た。
チラシの内容は第二支部限定のお弁当の事だ。
健太郎は休憩スペースでお茶を飲んでいたオバサマたちをつかまえて、どんな料理が好きか、苦手な食べ物はあるかと尋ねている。
愛美は契約のデータ入力を済ませ、コーヒーを淹れるために休憩スペースへ向かった。

「アレルギーとか、どうしても食べられない物が入っている時は、個人的におかずを差し替えてもらえたら助かるわね」
「なるほど、検討してみます」
「私は揚げ物ばっかりじゃなくて、野菜も魚も食べたいわ」
「そうですよね」

愛美はコーヒーを淹れながら、熱心にリサーチをしている健太郎に少し感心していた。

「早速明日、試作を作ってみます。明日は特別に半額でお届けしちゃおうかな」
「太っ腹ね!オーナー素敵!!」
「いやー、それほどでも……。でも、もっと言ってください」

健太郎はどうやら、オバサマたちの心をつかむのがうまいらしい。
オバサマたちは健太郎とお弁当の話に夢中になっている。

   (商売上手で何より……)

愛美がコーヒーの入ったカップを持って席に戻ろうとすると、宮本さんが隣の席に愛美を座らせ、健太郎の脇腹を肘でつついた。

「ところで……ねぇ、隠さないでそろそろ教えてよ」
「……?なんの事です?」

思い当たる節が見当たらず、健太郎はキョトンとしている。

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