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完全降伏宣言
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それからしばらくして、『政弘さん』はシャワーを借りようとしたのだが、泊まるとは言ったものの、愛美の部屋には着替えなどの必要なものを、何も置いていない事に気付いた。
普段から使用している使い捨てのコンタクトレンズの予備はないが、幸い鞄の中に、もしもの時のための眼鏡は入っている。
「いつものじゃないけど一応眼鏡はあるし、明日一度家に戻って着替えるよ。車も会社の駐車場に置いてきたから取りに行って、それから買い物に行こう」
「でも……今夜の着替えはないですね」
「しょうがないね。とりあえず、スーツ脱いでシャワー浴びたい」
愛美は脱衣所の引き出しから取り出したバスタオルを渡したあと、これから入浴する『政弘さん』を残して部屋に戻った。
(政弘さんが急に泊まるって言うとは思わなかった……)
帰り際になるといつも、このまま朝まで一緒にいて欲しいと思ってはいたけれど、実際急にそうなると準備が何もないから困るんだなと、愛美は苦笑いを浮かべる。
(そのうちこの部屋に、着替えとか歯ブラシとか置いたりするようになるのかな?)
前に付き合っていたヒモ男が突然姿を消して、もう戻って来ないと待つのをやめてから、この部屋にあるのは自分の物だけだ。
付き合い始めてから今まで『政弘さん』が泊まった事は一度もなかったし、この部屋に自分の物を置くような事はしなかった。
(そりゃ私もそれなりに男の人と付き合って来たし、泊めたり一緒に暮らしたりもしたけど……なんでだろう、変な感じ……。って言うか、なんかちょっと緊張する……)
この後、初めて『政弘さん』と同じベッドで朝まで一緒に寝るのだと思うと、なんとなく照れくさい気もする。
そういえばここ最近は、会ってもほんの短い時間だったし、一緒に食事をする程度で、しばらくお互いの肌に触れ合っていない。
(そんなんで『俺の子』なわけないって……。おまけに政弘さん、毎回きっちり避妊欠かさないのに……)
いつかそのうち結婚して子どもができたら、自分と『政弘さん』のどちらに似るだろう?
子どもには『パパ、ママ』と呼ばせのか、それとも『お父さん、お母さん』かな。
愛美はおぼろげに『政弘さん』との結婚生活を思い浮かべ、一人でニヤニヤして我に返り赤面した。
じわじわと恥ずかしさが込み上げてきて真っ赤になった顔を、思わずベッドの上の掛け布団にうずめる。
(私ったら結婚の予定もないのに子どもとか……いくらなんでも気が早すぎる……)
一方、お風呂から上がった『政弘さん』は、バスタオルで体を拭いた後、しばし途方にくれていた。
まさか全裸で戻るわけにもいかないし、着ていたシャツと下着だけでも身につけておくべきだろうか。
それともバスタオルを巻いて戻るべきか。
(しかし濡れたバスタオルは冷たいな……。それで風邪でもひいたらシャレにならん)
仕方がないので、さっき着ていたシャツと下着をもう一度身につけた。
部屋に戻ると、愛美はベッドに突っ伏し、布団に頬をうずめて居眠りをしていた。
(先にベッドに入ってても良かったのに、待っててくれたのかな)
そっと抱き上げると、愛美は眠そうな目をゆっくり開いた。
「あ……私、寝てました?」
「うん。こんなところで寝たら風邪引くよ。ちゃんとベッドで寝よ」
『政弘さん』はベッドの上に愛美をそっと下ろして、その隣に横になった。
そして二人で向かい合わせになって、お互いの顔を見ながら手を握り合った。
「一緒に寝るとあったかいな」
「初めてですね」
「うん」
「なんで今まで、泊まろうとしなかったんですか?」
愛美の思わぬ問い掛けに『政弘さん』は少し考えて、愛美を優しく抱き寄せた。
「んー……。それが当たり前みたいな馴れ合いの関係と言うか、けじめがないのもイヤだったし……次の日が仕事だったら、愛美の体調とか仕事に差し支えるかなと思って」
「差し支える?」
「一晩中寝かせてあげられないかも知れないから」
「えっ……」
(一晩中ってまさか……)
「俺も男だからね……。めちゃくちゃ好きな子とこんなふうにしてると、やっぱり我慢できないから。俺、正直言うと……今、全然余裕ない。めちゃくちゃキスしたいし、しばらく愛美に触ってなかったから、実はすっごく触りたいんだけど……イヤ?」
こういう時の『政弘さん』は、いつもかなりストレートだ。
抱き寄せる手や問い掛ける声は優しいのに、その目でまっすぐに見つめられると、愛美は狼に視線で捕らわれた獲物になったような気がしてしまう。
普段から使用している使い捨てのコンタクトレンズの予備はないが、幸い鞄の中に、もしもの時のための眼鏡は入っている。
「いつものじゃないけど一応眼鏡はあるし、明日一度家に戻って着替えるよ。車も会社の駐車場に置いてきたから取りに行って、それから買い物に行こう」
「でも……今夜の着替えはないですね」
「しょうがないね。とりあえず、スーツ脱いでシャワー浴びたい」
愛美は脱衣所の引き出しから取り出したバスタオルを渡したあと、これから入浴する『政弘さん』を残して部屋に戻った。
(政弘さんが急に泊まるって言うとは思わなかった……)
帰り際になるといつも、このまま朝まで一緒にいて欲しいと思ってはいたけれど、実際急にそうなると準備が何もないから困るんだなと、愛美は苦笑いを浮かべる。
(そのうちこの部屋に、着替えとか歯ブラシとか置いたりするようになるのかな?)
前に付き合っていたヒモ男が突然姿を消して、もう戻って来ないと待つのをやめてから、この部屋にあるのは自分の物だけだ。
付き合い始めてから今まで『政弘さん』が泊まった事は一度もなかったし、この部屋に自分の物を置くような事はしなかった。
(そりゃ私もそれなりに男の人と付き合って来たし、泊めたり一緒に暮らしたりもしたけど……なんでだろう、変な感じ……。って言うか、なんかちょっと緊張する……)
この後、初めて『政弘さん』と同じベッドで朝まで一緒に寝るのだと思うと、なんとなく照れくさい気もする。
そういえばここ最近は、会ってもほんの短い時間だったし、一緒に食事をする程度で、しばらくお互いの肌に触れ合っていない。
(そんなんで『俺の子』なわけないって……。おまけに政弘さん、毎回きっちり避妊欠かさないのに……)
いつかそのうち結婚して子どもができたら、自分と『政弘さん』のどちらに似るだろう?
子どもには『パパ、ママ』と呼ばせのか、それとも『お父さん、お母さん』かな。
愛美はおぼろげに『政弘さん』との結婚生活を思い浮かべ、一人でニヤニヤして我に返り赤面した。
じわじわと恥ずかしさが込み上げてきて真っ赤になった顔を、思わずベッドの上の掛け布団にうずめる。
(私ったら結婚の予定もないのに子どもとか……いくらなんでも気が早すぎる……)
一方、お風呂から上がった『政弘さん』は、バスタオルで体を拭いた後、しばし途方にくれていた。
まさか全裸で戻るわけにもいかないし、着ていたシャツと下着だけでも身につけておくべきだろうか。
それともバスタオルを巻いて戻るべきか。
(しかし濡れたバスタオルは冷たいな……。それで風邪でもひいたらシャレにならん)
仕方がないので、さっき着ていたシャツと下着をもう一度身につけた。
部屋に戻ると、愛美はベッドに突っ伏し、布団に頬をうずめて居眠りをしていた。
(先にベッドに入ってても良かったのに、待っててくれたのかな)
そっと抱き上げると、愛美は眠そうな目をゆっくり開いた。
「あ……私、寝てました?」
「うん。こんなところで寝たら風邪引くよ。ちゃんとベッドで寝よ」
『政弘さん』はベッドの上に愛美をそっと下ろして、その隣に横になった。
そして二人で向かい合わせになって、お互いの顔を見ながら手を握り合った。
「一緒に寝るとあったかいな」
「初めてですね」
「うん」
「なんで今まで、泊まろうとしなかったんですか?」
愛美の思わぬ問い掛けに『政弘さん』は少し考えて、愛美を優しく抱き寄せた。
「んー……。それが当たり前みたいな馴れ合いの関係と言うか、けじめがないのもイヤだったし……次の日が仕事だったら、愛美の体調とか仕事に差し支えるかなと思って」
「差し支える?」
「一晩中寝かせてあげられないかも知れないから」
「えっ……」
(一晩中ってまさか……)
「俺も男だからね……。めちゃくちゃ好きな子とこんなふうにしてると、やっぱり我慢できないから。俺、正直言うと……今、全然余裕ない。めちゃくちゃキスしたいし、しばらく愛美に触ってなかったから、実はすっごく触りたいんだけど……イヤ?」
こういう時の『政弘さん』は、いつもかなりストレートだ。
抱き寄せる手や問い掛ける声は優しいのに、その目でまっすぐに見つめられると、愛美は狼に視線で捕らわれた獲物になったような気がしてしまう。
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