オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2

櫻井音衣

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独り歩きする噂

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緒川支部長はさっきから、日替わりランチのトマトをつついてぼんやりしている。

   (愛美、昨日も何も言ってこなかったな……)

突き放してみれば愛美の方から会いたいと言ってくれるのではないかと思ったのに、愛美はなんの反応も示さない。

   (元々、仕事中は俺に見向きもしないけど、仕事終わっても何も言って来ないなんて、ホントに俺、嫌われたのかも……)

浮かない顔をしている緒川支部長の向かいの席では、佐藤さんが緒川支部長の皿の上のトマトを眺めていた。

「どうかしたの?トマト嫌いだった?」
「いや……」

緒川支部長は慌ててトマトを口に入れる。

「もしかして、また菅谷さんの事考えてた?」
「別に考えてない」

目をそらしてサラダを口に運ぶ緒川支部長を見て、佐藤さんはおかしそうに笑う。

「そう?菅谷さんとオーナーはホントに仲良しなのね。オーナー、今日もお弁当届けに来てたし。今日のおかずは、菅谷さんの大好きなタケノコ入り肉団子の甘酢あんかけだって」
「ふーん……」

   (聞こえてたから知ってるよ!それが愛美の好物だって事は知らなかったけどな!!)

付き合っていても、愛美の好きな食べ物は果物くらいしか知らない。
苦手な物は、甘いお菓子や飲み物とレーズン。
それから緒川支部長。

   (苦手というか嫌いって言われたんだっけ?)

付き合い始めて間もない頃に愛美が言っていた言葉を思い出して、緒川支部長はガックリと肩を落とした。

   (仕事中の俺、愛美に嫌われてるんだよなぁ……。わかってるけど……なんかヘコむ……)



食事を終えて店の外に出た。
食事をしたレストランの隣のジュエリーショップは、既契約者が経営している。

「ここ、俺のお客さんの店なんだ。久しぶりに顔見て行こうかな」

店に入りかけて、店先のショーウィンドーの中のアクセサリーに目をとめた。

(アクアマリンか……綺麗だな……。愛美にプレゼントしたいなぁ……。あのネックレスなんか似合いそうだ)

日の光を浴びて乱反射する波のように、キラキラと輝くアクアマリンに緒川支部長が思わず見入っていると、佐藤さんがその中のひとつを指差した。

「素敵!あのネックレスなんか似合いそう」
「……誰に?」
「菅谷さんに」

また心の中を見透かされ、緒川支部長は熱くなる頬を隠すようにして顔をそむけた。

「……そういうのはいい。行くぞ」

店内に足を踏み入れると、ショーケースに並べられたたくさんの宝石が、美しさを主張するように光を放っていた。
その眩しさにめまいがしそうになる。

「こんにちは、お久しぶりです」
「緒川さん!久しぶりだね」
「ご無沙汰してすみません」

ほんのしばらく世間話をした。
そろそろ店を出ようかという時、緒川支部長はたくさんの指輪が並ぶショーケースの前に立ち止まった。

   (ペアリング……?これって結婚指輪?)

「どうしたんだい、緒川さん。指輪あげたい人でもいるのかな?」

店主に声を掛けられ、緒川支部長は驚いて視線をさまよわせた。

「あ……いや……」

   (いるけど……)

「緒川さんもそろそろ結婚考えるような人がいるんじゃないのか?」
「……いえ、まだまだです」

   (俺だけが考えてもダメなんだよなぁ……)

「そうかい?そういう人、早く連れてきてよ」
「頑張ります……」

店主は笑いながら、いつになく自信なさげな緒川支部長の背中をバンバン叩いた。

「楽しみにしてるよ」




翌日。
愛美は内勤席のパソコンに向かい、契約書類を確認しながらデータ入力をしていた。
昨日は暇で暇で仕方なかったが、今日はそれなりに仕事がある。
膝掛けが良かったのかどうかはわからないが、足首の腫れはかなり治まり、痛みも随分和らいできた。
湿布を貼るのは明日くらいまでで良さそうだ。
明日は仕事後は健太郎の店で新人歓迎会だが、念のためお酒はやめておこう。

今日は朝から緒川支部長がいない。
佐藤さんの地区訪問活動には、峰岸主管が同行している。


11時半を過ぎた。
訪問先から戻ってきたオバサマたちで支部が少し賑やかになった。

「午後からお客さんのお宅へ行くのよ。少し早いけどお昼にしちゃおうかしら」
「私も。今日は口うるさい支部長も主管もいないし、お昼にしましょう」

金井さんと宮本さんがお弁当を持って休憩スペースの席に着く。

「菅谷さんも一緒にどう?」
「私もこれ終わったらお昼にします」

愛美はデータ入力を終え、健太郎の届けてくれたお弁当を持って休憩スペースに移動した。

「今日もオーナーのお弁当ね」
「いいって言ってるんですけどね。弁当くらい作らせろって……」
「いいじゃない。すごく美味しそうだし」
「美味しいんですけどね……。あっ……私、カップ洗ってきます」

お茶を淹れるためにさっきまでコーヒーを飲んでいたカップを洗おうと、愛美は給湯室に向かった。

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